キティちゃん

 盗賊シーフギルドの成り立ちは正規軍が本職の盗賊を雇い入れたことが始まりだ。

 亜人の砦に音も無く忍び込み、盗み、暗殺をし、拠点破壊をする。正規軍では出来ないし、やりたくないことを盗賊にやらせた結果、『自分たちの技能は金になる』と判断した盗賊たちが『そればらば』と開拓者になり、その結果として技能スキル呪文スペルの流出を防ぐ為に、或いはその継承をスムーズに行う為にギルドを造った。

 では蛮賊バンデットギルドの成り立ちは?

 簡単に言ってしまえば、落ちこぼれの集まりだ。

 人が集まれば優秀な奴と、そうでない奴とに分けられる。

 そんな落ちこぼれ達は少しでも生存能力を上げる為に、集まり、有ろうことかお互いのギルドの技能や呪文を教え合う様になった。

 当然、禁止されている行為だ。見つかったら殺される。

 そうして綱渡りをする集団にある時、一人の男が目を付けた。

 男は野心家で、それに伴う実力を持って居た。

 ある時、男は歴史に自分の名前を刻んでみたいと思い、落ちこぼれ集団に目を付けた。


 問:落ちこぼれ達が殺されるのは何故か?

 解:ギルドの規則を破って技能と呪文を流出させたから。


 普通の人ならばそう答える所を、男はこう答えた。


 解:後ろ盾が無いから、弱いから。


 だったらどうしたら良いかは簡単だ。

 後ろ盾を持てば良い。

 強くなれば良い。

 そうして裏で男は動いた。金で権力を買い、土地を買い、縄張りを持ち、力を貯める。

 落ちこぼれ達から各ギルドの技能と呪文を集め、ソレを体系化し、形を造る。

 そうして殴られても吹き飛ばない地力を蓄えた後で、各ギルドに交渉し、半場力づくで新しい職業ギルドを認めさせ、自分がそこの初代ギルドマスターとなった。

 それが蛮賊バンデットギルド。

 名前通りに各ギルドからあらゆる技能と呪文を奪って造られた強奪者のギルドだ。

 再現できなかったものも当然ある。神官クレリックギルドや魔術師ウィザードギルドのスペル関係や、職人系の技術などはその最たる例だ。

 そもそも、始まりが落ちこぼればかりの為、全体的に浅いモノしか集まっていない。

 それでもそれらを組み合わせ、発展させ、目出度くこの度、三十周年を迎えた最新の職業ギルド、それが蛮賊バンデットギルドだった。

 この事件から、各ギルドが技術流出のペナルティを重くしたのは言うまでもないことだろうが……そこで、しれっ、と蛮賊バンデットギルドも同じ対策を取っているのが笑えないと言うか、初代ギルドマスターの面の皮が素敵なことになって居ると言う証拠だろう。

 まぁ、そんな当時の人に大顰蹙だいひんしゅくモノの事情など、ケイジは知ったことではない。

 正直、どうでも良い。

 大事なのは、蛮賊バンデットギルドには錬金術師アルケミストギルドから奪った回復薬のレシピがあると言うことだった。






 クスリの匂いに混じって女の匂いがする様な気がするが……大半はスケベ野郎共が吐き出す荒い息の匂いだろう。つまりは救いがねぇし、吸いたくねぇと言うのがケイジのこの空間に漂う空気への評価だ。……何だよ。空気への評価って。

 内心でうんざりしながら、薄暗い店内を歩く。天井の赤い照明はステージを照らすだけで、客席は照らしていない。ショータイムって奴か。タイミングが良いのか、悪いのか、明かりが無くて歩き難いが、だれもがステージに釘付けなお陰で多少は歩きやすい店内をケイジは進む。

 奥まった所にバーカウンターがあり、そこではエルフのバーテンがシェイカーを振っていた。笑顔でと視線を投げられたので、紹介状を見せる。客では無いと判断されたのか、一瞬でエルフから笑顔が消えた。「ひゅー」。その余りの変わりっぷりに、吹けもしない口笛を一つ吹いて、ケイジはカウンターの横の席を目指す。

 VIP席――と言うよりは店側の関係者席と言うべきなのだろう。

 ステージから最も遠いその薄暗い席には――


 アフロが居た。


 もっふもふだ。

 でも別に触りたくない。

 街で見れば二度見、三度見は当たり前なご立派なアフロだ。

 と、言うかケイジは普通に四度見した。

 ふわっふわだ。

 そんなアフロは虎柄だった。

 ソレの持ち主が虎の獣人だからだろう。暗い店内で何の意味があるのか、サングラスをかけ、暗い店内でもはっきり分かる金のネックレスと指輪をしたゴージャスタイガーだった。何だよ、ゴージャスタイガーって。どっちかって言うと趣味悪タイガーだろーが。

 そんな虎は胸元を開いたワイシャツ姿で魔女種とダークエルフの美女を侍らせて居た。「――」何かを魔女に耳打ちし、くすくす笑い合い――キス。それもディープな奴。見せられたケイジは半場、呆れながらその様子を眺める。ダークエルフがこちらに気がつき『はぁぃ』って感じで手を振って来たので、同じように、それでもテンション低めに『……はぁぃ』って感じに振り返す。

 アフロがケイジに気がついた。それでもキス。それもディープな奴を止める気は無いらしく、中指おったてたハンドサインで『失せろ』とやって来る。お返しに『やなこった』とケイジは親指下に向けてのゴートゥーヘル。ダークエルフがそれを見て、楽しそうにクスクスと笑う。それで虎も漸く、ケイジの相手をする気に成ったらしい。


「ヨ、ヨ。何のようだい、ボクちゃん、ここは君の様なイイコが来るところじゃないぞ?」

「……みてぇだな、何だよ、あの衣装? 何でおっぱい、零れないんだ?」

「ヨ。言いながらガン見とは恐れ入るぜ、ボクちゃん」

蛮賊バンデット志望のイイコちゃんだからな」


 ほら、コレが紹介状だ。とケイジはアフロ虎に見せる。が、それを突き付けられてアフロ虎は心底迷惑そうに口をへの字に曲げた。


「ヨ、ヨ、ヨ。確かにオレっちはとびっきりの助言者メンターだがよ、今は休業中だ。ほれ、そこのバーカウンターの端に居るお姉さんにでも頼みな」

「お姉さん?」


 言われて視線を向けてみれば、露出の激しい、グラマラス美女が居た。ケイジに気がついたのか、投げキッス。確かにあっちの方が良さそうだ。ケイジは素直にそう思った。


「ルイ先輩がアンタに見せろって言ったから持って来たけどよ……確かにアッチの方が良いな」


 邪魔して悪かった。言うだけ言って、紹介状をくるくる丸め直す。そうして花に誘われる様な足取りで美女の方に向かおうとしたら――


「ヨ、ヨ、ヨ! 待ってくれよ、ボクちゃん! お前、今、ルイって言ったか?」

「……言ったが」

「狼の獣人のルイか」

「あぁ、狼の獣人のルイパイセンだな」

「――オーケー」

「いや、何がだよ。何がオーケイなんだよ。何も良くねぇよ」

「ボクちゃん、いやボーイの助言者メンターはオレがやるよ」

「えー……」


 別に良いよ。あっちのお姉さんのが普通に良いよ。そんな不満を滲ませるが、アフロ虎は何だかとってもノリノリだ。


「ボーイ、名前は?」

「……ケイジ」

「オーケー、ケイジ・ボーイ。俺はキティ、キティちゃんと呼べ」

「……そのナリでその名前とか、全国の仔猫キティちゃんに土下座した方が良くねぇか?」

「ボーイ。オレがお前をとびっきりの蛮賊バンデットにしてやろう!」

「はっはー……駄目だ、このおっさん。俺の話、聞いてねぇっすわー」


『助けてー』と、ダークエルフと魔女をみたら『ばいばぁ~ぃ』って感じで手を振られたので、ケイジも同じように、でもテンション低めに『……ばいばーぃ』と手を振り返した。






あとがき

ストック減らして不意打ち更新。

次はまぁ、パターン通りに21時ごろにでもー

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