渇穴(かけつ)
倉田京
舞子
その集落には古い井戸があった。井戸には名前が付いており『
昭和のある年の寒い冬、集落の中で一番大きな家に女の子が生まれた。その地域では子供の名前に『か』と『け』と『つ』を入れないという風習があった。女の子が生まれた家もそれに習い、
舞子は白く美しく育っていった。陶器のように美しい肌と、整った顔立ちに、集落の若い男性全員が魅了された。
十七歳の夏、舞子は外から来た男と恋に落ちた。一生添い遂げる気持ちで、彼女は全てを捧げた。しかし二人の間に子供ができたと知るや否や、男は態度を急変させ、舞子の元から去って行った。
悲しみの中で舞子は一人の男の子を産んだ。そして周囲の反対を押し切り、その子に
しかし生まれてから一年ほど経った秋、和樹は重い熱病におかされてしまった。持って三日という医者の見立てに舞子は絶望した。どうして…。息子を心の支えとしていた彼女にとって、それは自らの死よりもつらい宣告だった。
死なせたくないと願う舞子にある考えが浮かんだ。
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