第35話 いきなり王様ゲームだと?

「みなさん。さあ召し上がって下さい。お料理とおつまみは沢山用意してあります。遠慮せずにどうぞ」


 案内してくれるのは上野佳さんだ。彼女が恐らくこの場ではナンバーツーだと思う。


 先ずは歓談タイム。周囲の人物とおしゃべりをしろって事らしい。


 俺は越ケ浜佳澄こしがはまかすみ河添菜々恵こうぞえななえに挟まれていた。目の前には鶴江愛奈つるえまな、左前に美海さんで右前に大学生の金谷太だ。


 俺はとりあえず目の前の弁当を平らげようと箸を持ったのだが、越ケ浜佳澄と河添奈々恵に密着された。この二人は藍や椿さんほどではないが、胸元はそれなりに豊かで柔らかい。困った……。


「あの……お弁当は食べないんですか? オードブルも沢山ありますけど」

「私たちはいいの。ダイエット中だしね」

「むしろ緋色君のこと、食べちゃいたいくらいよ」


 俺の事を食べるだと?

 俺は驚いて右隣りに座っている河添奈々恵を見つめた。普通に考えてカニバリズム……食人の習慣などないから、これはいわゆる性的な事なのではなかろうか。


「びっくりした? 大丈夫よ。痛い事はしないから」

「痛い事って?」

「内緒。君には絶対しないからね。もうちょと盛り上がろうよ」


 河添奈々恵はそう言って缶ビールを開け、ぐびぐびと飲み始めた。


「プハーッ! これは効くわ」

「あー奈々恵、飲み始めるの早いよ。仕方ないから私も」


 越ケ浜佳澄も缶ビールを飲み始めた。大学生連中だけではなく、江向吹雪や清十郎もぐびぐび飲んでいるじゃないか。未成年の飲酒は不味いだろ。


 俺の無言の抗議などまるで通じていない。この場で酒を飲んでいないのは俺と藤次郎と美海さんと藍の四名だけだった。


「さあ皆さん。盛り上がって来ましたか? 早速ですが、王様ゲームを始めたいと思います。今日は高校生のみんながいらっしゃるんで、王様が命令できる内容はカードに記載してあります」


 説明しているのは川上小夜さんだ。命令カードは上野佳さんが見せてくれた。かなり分厚くて三十枚以上ありそうだ。


「本日は丁度20名ですので、抽選はトランプのカードを使います。スペードのAが王様ですよ。王様が臣下を指名します。他のカードの中からランダムに選んでください。スペードの2~10、ハートのA~10の中から一つです。そして王様は命令カードを選んで読み上げます。臣下に指名された人は、王様の命令を必ず実行してください。ルールは以上ですが、何かご質問はありますか?」


 川上小夜さんの説明だ。霧口氷河がすかさず手を上げる。


「あの。王様の命令に対し拒否権は発動できますか」

「拒否権はありません。ただし、あからさまに無理っぽい場合や公共の福祉に反すると認められる場合は神の権限において命令を停止させることができます」

「神様って誰ですか?」

「私です。何か疑問でも?」

「……いえ。何でもありません」


 サークル会長の霧口氷河が川上小夜さんに一蹴されるシーンを見てしまった。もしかすると、彼女こそが彼らのサークル〝ウルトラフリー〟の支配者なのだろうか。霧口氷河をじろりと睨んだ後にニヤリと笑った川上小夜さんの表情はまさに支配者、いや、女帝といった風格があった。


「ではみなさん。早速カードを引いてくださいね。若い子たちからどうぞ」


 年齢の若い順に引くらしい。俺、藍、藤次郎、美海さんの順で引く。後は他の高校生組が引き、大学生連中も全員が引いた。司会進行役の川上小夜さんと補佐の上野佳さんもしっかり引いていた。


「それじゃあ始めます。王様だーれだ!」


 全員が一斉に叫ぶ。俺は声を出しそびれたのだが、カードを見てびっくりした。俺がスペードのAを引いていたのだ。


 誰が王様なのか、周囲にいる皆がきょろきょろと辺りを見回す。俺は観念して手をあげた。


「えーっと、緋色君ね。じゃあこっちに来て」


 俺は川上小夜さんに言われるまま前に出る。そして俺が引いたスペードのAを見せた。


「先ずは臣下を選んでください。誰にしますか?」

「よくわからないのでハートのAで」

「はーい。王様の臣下はハートのAです。誰ですか」


 藍が手をあげた。


「臣下の方は前に出てきてください。では王様。命令カードを選んでください」


 藍がおずおずと前に出てくる。俺は上野佳さんが持つ命令カードを一枚選ぶ。


「さあ王様。カードの内容を読み上げてください」


 俺は選んだカードを見つめ、そこに書いてある文章を読む。


「臣下は王様に熱いキスをする」


 一斉に場が盛り上がった。

 なんてこった……いや、この程度ならいいんじゃないか? 何処にキスするとか書いてなかったし。


 藍は赤面しつつも俺に近寄って来て、そして俺の唇に自分の唇をほんの軽く重ねた。


 再び歓声が上がる。藍は恥ずかしそうに自分の席へと戻ったのだが、一部の男子学生が「ベロチューベロチュー」と叫んでいた。川上小夜さんはその方向を指さして宣言した。


「その一言は公共の福祉に反します。大井武琉はその場で腕立て伏せ10回。サボるな!」


 ブーブー言いながらも大井武琉は腕立て伏せをこなした。


 その間に上野佳さんがトランプのカードを回収し終わっており、次の王様決定の抽選が始まる。


 今度は王様が上野佳さんで、臣下は美海さんとなった。上野佳さんが命令カードを選び読み上げる。


「臣下は官能小説のエロシーンを朗読する事」


 ここでまた会場は一気に盛り上がった。美海さんは渋々と立ち上がって川上小夜さんから件の官能小説を手渡される。


「付箋の所からお願い」

「わかった……」


 美海さんが絶句している……あの人なら官能小説の朗読くらい軽く済ませてしまうのではないか? 何で戸惑っているのだろう。


「この……………コホン」


 美海さんが朗読を始めた。


『和樹は僕の胸に顔を埋める。同時に彼の右手が僕の尻を優しく撫で始めた。


「待って。心の準備が……まだなんだ」

「俺はとうに終わってるぜ。もう限界だ」


 和樹は僕のシャツをたくし上げて素肌に直接キスしてきた。彼の唇が僕の乳首を捉えた瞬間、僕の背筋に電流が走った。僕の尻を撫でていた和樹の手は僕の太ももを撫でながら前側へと移動してきた。そして、既に固くなっている僕のあれにそっと触れた。


「なあ、ゆずる。もうカチカチじゃないか」

「和樹、待って」

「待たない」


 冷たく言い放った和樹は僕のズボンのファスナーを降ろして、僕に直接触れて来た。和樹もズボンを降ろして下半身をむき出しにした。そして僕と彼が直接触れ合った。』


「はい、そこまで! 美海ちゃんありがと。君はBLものを読んだりするの」

「ウチは読まへん。普通の恋愛ものが好きなんや」

「ごめんなさいね」


 渋い顔をして美海さんが席に戻ってきた。

 しかし、お題がBLものだったとは……自分ならとても読めないだろう。


※未成年者の飲酒や性行為の強要を示唆する描写がありますが、これらは違法行為です。当作品においてそのような行為を推奨するものではありません。良い子みんなは真似しちゃダメだぞ。

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