第22話 俺と藍

 自室に引きこもって施錠し、照明もつけずにベッドに潜り込んだ。


 今、俺の下半身は大変な事になっている。そりゃそうだ。藍、ぽっちゃり系美少女の1メートル越えの巨乳を押し付けられた。しかも、彼女の格好はピンクのパジャマで下着はつけていない。頬に押し付けられた柔らかい胸の感触と、その先端の尖った乳首の感触に舞い上がってしまった。そんな状況で思わず下半身が反応してしまったのだが、これは不可抗力としか言いようがない。俺は前かがみになりながら、リビングから逃走してしまったという訳だ。


 藍は結構なぽっちゃり系だ。色白でふっくらした頬に、少々きりりとした二重瞼の目元、そして細めの顎と小さめの口は中々に美しいと思っている。自分的には十分な美少女だ。しかし、その豊満な体形故に口の悪い奴はデブだというし、現にあと10キロ痩せれば付き合いたいとかいうヤツもいる。学園一とも言われている1メートル越えの巨乳も賛否両論だ。もちろん、巨乳趣味の連中には絶大な人気らしいし、一部には松坂喜美子の再来だとも噂されていた。自分はその、松坂喜美子という人を良く知らなかったのだが、どうやら昔のAV女優さんらしい。高一女子に対してAV女優さんと比較するのはどうかとも思うが、画像を検索してみたところぽっちゃり系美女であるし、意外と似ているかもしれないとも思った。


 つまり、ぽっちゃり系が好きな人からすれば、藍は美人でセクシーで、付き合いたい女子ナンバーワンになるらしい。もちろん少数派だとは思うが。


 自分としては小学校一年からずっと同じクラスだったし、身近な彼女を恋愛対象とは見ていなかった。そして、ぽっちゃり系という事も気にした事はなかった。デブだの何だのとからかわれていた藍をかばった事は何度もあった。俺は小学校の頃から体が大きい方だったので、藍の護衛役として頑張った事もある。しかしそれも小学校まで。


 中学校から妙に色っぽくなった彼女に対して、俺は少しだけ距離を取った。つまり、クラスでは話をするが放課後や休日に一緒に遊ぶことはなかった。簡単に言うと、女性らしい胸元なんかが恥ずかしかったからだ。自分の事はさておき、他人に成長して欲しくないとか幼いままでいて欲しいなどと考えていた。これは椿さんにも言える事だった。


 椿さんは中学校入学前からグッと色っぽくなった。それまでは一緒にお風呂にも入っていたのだけど、そのころからは入らなくなった。女性らしくなった椿さんの体に興味がなかったと言えば嘘になる。興味はあった。それよりも、以前と同じく椿さんと一緒にいたいという気持ちが強かった。椿さんの成長を喜べず、幼いままでいて欲しいという欲求の方が強かったような気がする。


 俺は熱くなった下半身をどうするか思案する。何か他の事を考えて沈めるか。それともこのまま妄想に浸ってオナるか。


 PCもスマホもリビングに置きっぱなし。教科書を開いて勉強する気にもなれない。俺の脳内では、あの藍の艶姿が自動再生されている。それに俺の潜在意識が脚色し、何やらピンク色の妄想が広がっていく。


 藍は恥ずかし気にパジャマのボタンを外していく。その白い胸が露わになってしまう。そしてピンク色の蕾もちらりと見える。薄い色の乳輪はやはり大きめで存在感は十分だ。ああ、俺は藍の胸など見た事がないのだが、何故か脳内でははっきりと再現されている。

 そして彼女はパジャマの上着を脱ぎ棄て、俺に覆いかぶさってきた。そして至近距離で俺の顔を見つめる。


「重いでしょ。ごめんね」

「謝る事はない」

「そう? 私とこんな事になっちゃってもイイの?」

「イイ」

「他に好きな人、いないの?」

「いない。今は藍の事が好きなんだ」

「嬉しい。私も緋色の事が好き。大好き」


 そう言って藍は唇を重ねてくる。その柔らかい感触に陶酔してしまう。


「ねえ緋色。堅くなってる。太ももに当たってるよ」

「好きな女の子と抱き合ってるんだ。自然とそうなるさ」

「うん。男の子ってそうなんだね。女の子もね。濡れてくるの」


 藍は俺の右手を掴み、自分の下腹部へと導いていく。プヨプヨしたお腹から小さな布へと……。


 コンコンコン。

 ドアをノックされた。


 誰だろうか。

 玲香姉さん? 椿さん? それとも彩花様か?


 来たのが誰にしろ、部屋に入れるわけにはいかない。俺は今、下半身すっぽんぽんで臨戦体勢に入っているのだから。


「ねえ緋色。起きてる?」


 なんてこった。部屋の前に来ていたのは藍だった。寝たふりをしてやり過ごすには時間が早すぎる。先ほど、リビングから逃亡して10分ほどしか経過していない。


 コンコンコン。

 再びドアをノックされた。


「緋色、さっきはごめんね。突然抱きついちゃって、びっくりしたよね」


 俺は今、藍をオカズにヤッてしまおうとしていたところだ。その藍が来ていると思うと、もう恥ずかしくて死んでしまいそうだ。俺は布団の中でこっそりとボクサーパンツとジャージを身に着けた。ゆっくりと静かに、とにかく音をたてないように。


「もう寝ちゃったの? 少し話があるんだけど」

「まだ起きてるよ。話って何?」


 俺は極めて平静を装って返事をした。


「さっきの事なんだけど……いいかな。それと、緋色のスマホも持ってきたよ」

「ああ、ありがとう」


 ここで逃げていてはいけない。そう思った俺は部屋の明かりは付けずにドアの鍵を開けた。そして藍からスマホを受け取り、彼女を部屋の中へといざなった。


「そこに座れよ」


 そう言ってベッドを指さす。そして自分は勉強机の椅子に腰かけ、スマホの充電をするために電源コードを差し込んだ。もちろん、藍に背を向けたままだ。


「ねえ緋色。真っ暗だよ」

「そうだな」

「電気付けないの?」

「ああ」

「私の方を向いてくれないの?」


 ベッドに座った藍に言われた。


「ごめん。今、ちょっと恥ずかしい」


 やっとそれだけが言えた。心臓の鼓動は収まりそうにない。ドキドキしっぱなしだった。




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