第26話 欲求
花枯れて 水やれぬ時の 爪長く
パッチン切りて 白髪を染める
「どうして中学生なのに白髪があるの?」
私の回りに女の子達が集まり、珍しげに覗き込む。
私にも分からない。
いじめの対象にこそならなかったが、
学校に行くのがこの白髪というコンプレックスで嫌になった。
ヘアカラーなどない。
母はオキシドールで脱色すれば目立たないとコットンと一緒に渡す。
目立たないどころか金髪になる。
不良だと男子にもからかわれる。母のせいだ。
嫌な事があると私は何かに没頭した。
編み物にはまった。
不器用なうえ応用力も進歩もないのでひたすらマフラーを編む。
集中力は人一倍あるので、三メートルの長さまで一気に編み上げた。
私は四才の頃からずっと内職をしていた。
母は私を手先の器用な子にするため、いつも手伝わせる。
出来高制でお金をくれる。高校生になっても内職。はまった。
主婦になっても内職にはまった。
勿論、お金も欲しかったが、極めたくなる という欲求が止まらない。
ルアーの内職。
数をこなす事が出来ると次は良いものを仕上げたいという欲求が芽生え釣具店にまで行き、形を研究したが、そんなことは求められていない。
ハンダ付けの内職。十ミリ、六ミリ、四ミリと細さに挑戦する。
片手でやるピストルハンダをマスターした時、
工場で雇うから、社員になるように言われた。
絶対一ミリハンダを成功させる。
その為には一日十時間以上、夜中まで仕事をしなくては追い付かない。
八時から夕方五時の会社勤めでは達成出来ない。
練習あるのみ。家計の足しに始めた内職。本末転倒。
私はやはり変わっている。
どこかに所属していたいという満足感、
つまり、社会的欲求もない。存在価値を集団から認められたい、
つまり承認欲求もない。
キャンディークラッシュも八千越えた。
自分の可能性を最大限に発揮したいという自己実現欲求が止まらない。
過集中の時は、花は枯れて、髪が真っ白だ。
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