第4話 猫の死骸

  公園に猫の死骸の散らばりて

  毒撒く人の 罪と埋葬


 昭和50年。あちらこちらに野良猫がいた。

 今ならしっかり保健所が保護してくれる。

 当時は、恐ろしいことに殺傷のために農薬が撒かれた。

  

 学校から帰ると近所の同級生と遊んだ。ランドセルを放り投げる。


「味噌汁作ってから行きなさい」宿題やってから行きなさいではない。

 母は一度も勉強しなさいと言ったことがない。

 小学生の親にしては珍しい人だった。

 

 遊ぶことが楽しい年頃だ。私は母の命令を無視して公園に走った。

 いつもと雰囲気が違う。あちこちに猫が寝ている。異臭がした。

 恐る恐る友達と近づく。泡を吹いて死んでいる。

 数えると、10匹の大人の猫。足がすくむ。



「八百屋さんで大根、魚屋さんで鮪の刺身を買ってきて」

 買い物かごを渡されお使いに行く。4才。

「自分で言えるね」

 お金と診察券を渡され38度の熱のなか一人で病院に行った。5才。

 大人はしっかりしてるねと誉めてくれたけど、心細くて辛かった。

 母は大人になるための練習だと厳しかった。

 スパルタ教育のオンパレードだ。悪いことをすると、ホウキで叩かれた。

 

「お墓作ろうか」友達が言う。穴を掘った。

 猫を二人で運んで埋め、土をかぶせる。 

 死骸に素手で触ることの危険を知らなかった。

 毒を撒いた人に腹が立った。

 野良猫を嫌う大人の残酷なやり方に心が潰されそうだった。


「そんなの汚い、触っちゃいかん」どこから聞いたのか、母が般若の顔で

 怒鳴っている。猫に視線を落とし、ゴミでもみるかのように、目を背ける。

「そんなことしている暇があったら、早く晩ごはんの仕度を手伝って」

「あと、3匹埋めてあげたい」

 母はもっと怒る。かわいそうだと埋葬する

 子供の心に寄り添いもせず、ただ怒る母が犯人に思えた。



 毒親。子供に与える影響は大きい。いきなり否定するのではなく、

 何が正しく何が間違っているのか、優しく諭し、納得させて欲しい。

   

 夕日に照らされながら、埋葬できなかった3匹の猫に手を合わせた。





 

  

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