陽炎天使の最後の望み
5月頭痛
1
「私、レズなの。
私を今ここで犯してくれないかしら?」
天使のような甘い声でそんなことを宮川さんは呟く。
宮川さんの淡い黒髪が夕陽に照らされて綺麗だ。その髪は三つ編みの形になっていたのが、彼女の指によってほどかれて、キラキラと輝いている。
優しく笑う宮川さんは、メガネを少しずつ外し始める。
その宮川さんはとても美しかった。
だけど、宮川さんの口からそんな言葉を聞きたくなかった。
なぜなら、私にとっては彼女は聖女であり、天使だったから。
「ちょっ。そういう冗談やめてよね。マジモンのレズの人にそれを言ったらダメだって」
私はそう言いながら彼女から離れようとすると、宮川さんに手を掴まれた。
その手は少し弱く、すぐにでも離せそうな力だったのに。
宮川さんはそっと私の目を見つめながら続けた。
「杏子さんや修美さんから聞いたの。
中浜さんは私の事が好きなんでしょ?」
あいつら、ほんとにデリカシーのクソもねぇな。と、少し心の中で舌打ちをした。
彼女の長いスカートが私の足にあたる。
「ふふっ。あなたってピアスも付けているのに、意外と純情なのかしら?」
宮川さんはかなり誘ってくる。
あぁ、この甘美な声を受け入れられたら。この思いを叶えることが出来たらどんなに幸せだろう。
でも、私はそんなことはできない。
できるはずもない。
「いい加減にしてよ!宮川さん!
私がいくら不良だからって言ったって、それだけはできないの!
だってあなたは……」
私はその言葉を飲み込んだ。宮川さんはその言葉の続きを知っているようで、そっと微笑んだ。
陽炎の血脈。
血族というのだろうが、私たち普通の人にとっては、それは不治の病としか思えない。
性行為をしたら死ぬ。しかし、性行為をしても餓死をする。
宮川さんはおそらく、陽炎の血脈だろう。生まれながらに初潮もなく、最近は何も食べなくなった。
宮川さんは本当に聖女や天使とも呼べるくらい優しく清い人だ。
こんな、酒とタバコと汚いメイクで汚れた私に彼女を落とす権利なんてない。
「……なら、お願いを変えるわ。
『どうか、あなたの愛で私を殺して楽にしてくれるかしら?』」
なんて、残酷なお願いなんだ。
よりによってなぜ、私なんだ……。
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