第37話

頭上を赤く照らすのは太陽とも思える程巨大で強大なエネルギーを持った火の玉だった。


それはゆっくりとしかし確かに地上に近づいてきている。






「おい、ここも危ないんじゃないか……?」




フロウは声を震えさせてそう聞く。


やはりあれのヤバさは分かっているみたいだな。






「ここどころか、この星が危ない……」




レインはどこか悔しそうな表情でそう言った。




レインの言う通りだ。


あんな強大なエネルギーの塊が地上に落ちてきたらこの星は一瞬で灰と化すだろう。






「大丈夫よ、あそこには神様達が沢山いるもの!」




マーリンは何とか皆を元気づけようとする。


しかし、誰も何も言わない。


しばらく沈黙が続くとアテナ様の声が聞こえた。






――アル! 今すぐそこから逃げろ! あれは我らでも対処出来るかわからん!




僕も手伝います!






――ダメだ! あんなもの人間には止められん!




止めなくていいんです! あれをみんなでどこかに転移させましょう!






――ん? 転移? はっ! その手があったのか……全く気づかなかった……




皆を連れて行きます!






――逃がしておいてまた来てもらうなんてすまないな。




いえいえ。では神様たちに伝えて待っていて下さい。






「皆、神様達の所に戻るぞ」






「どういうことだ? 逃げるんじゃ無いのか?」




フロウは何を言っているのか分からない、といった表情だ。






「逃げても意味が無い。だからあれをどっか遠い所に転移させる。もちろん皆でな」




セリィとナージャも連れて行こう。


確か王宮にいるんだったな。






「俺は王宮にセリィとナージャを迎えに行ってくる。魔王は軍隊を連れてきてくれ」




人は多い方が絶対に良い。


来れるならば王国軍も連れていきたいな。


教会軍は信用ならないから止めておこう。






「じぁ出来るだけ早く来てくれよな」




俺はそう言い残して王宮に転移した。


王宮の中は人で溢れていた。


少し離れているとはいえ、あれ程の戦いがあったのに中は全く壊れていないのは凄い。






「セリィ! ナージャ! どこにいるー!?」




俺は大声で叫び、二人を呼ぶ。


すると、セリィとナージャと一緒に武装した騎士達も走ってきた。


お、呼ぶ手間省けたな。






「アル、準備万端だよ! で、作戦は?」






「まだ何も言ってないんだけど……」






「アルの考えてる事は大体わかるよ! で、作戦は?」






「あ、あぁ。あの巨大な火の玉を遠い所に転移させる。手伝ってくれ」






「分かった! じぁ皆行くよ!」






「「分かりました、姐さん!!」」




何かナージャが騎士達を束ねてる……?


それに姐さん? どういうこと?






「あ、これ? 何か怪我してるこの人達を回復魔法で助けたら何かこんなんなっちゃって……はは」




ありゃまー。でも悪い奴らじゃ無いし、良いか。






「まぁナージャの人間性だろうね。ナージャは可愛くて優しいから尊敬されやすいんだよ」






「ふふ、そう言ってくれると嬉しいな」






「無駄話してないで行くわよ! 一刻も早く現地に行かないと」




ナージャと楽しく話しているとセリィが少しふくれてそう言う。


そうだ、こんな所でゆっくりしてられない。






「じぁ行くよ……転移!」




俺達は神様達の元へと転移した。


そこは俺達がいたときよりもかなり荒れ果てて地面はクレーターで凸凹になっていた。


それにかなりの魔力が漂っているのが激しい戦闘が行われた事を物語っている。






「来たか、アル! とりあえず破壊神の動きは止めてある! だが時間が無いから急ぐぞ!」




アテナ様の言う通り、破壊神は石化していた。


しかし、まだとてつもない量の魔力を放っている。


全然消費してないな……






「よし、皆一気に行くぞ! 場所は最果ての惑星、三つ数えたら一斉に魔力を妾に注げ! 良いな!?」






「おう!!」




この作戦に参加しているのは神10名、勇者パーティー、アイギス、王国軍50余名、そして魔王軍数万名だ。




大半が神の力だろうが、あの火の玉を最果ての惑星に転移させるには恐らく十分だ。


俺達はこれから対峙する火の玉を見上げた。






「1……」




火の玉は唸りを上げて少しづつ近づいてきている。


近づけば近づく程、火の玉から受ける圧力が強くなる。


常人なら魔力障害で倒れるレベルだが、全員それに耐えている。






「2の……」




全員が息を呑む。




失敗すればこの星は終わる。絶対に失敗出来ない。


中途半端でも巻き込まれる。


全員が本気を出さなければあれはどうにもならない。




皆、頼むぞ……






「3! 今だっ!!」




アテナ様の掛け声と同時に俺達はありったけの魔力を注ぐ。


物凄い勢いで魔力が注がれていく。




くっ、魔力が減りすぎて意識が朦朧としてきた……


気合いだ……! まだまだこんな所で倒れてられない!




俺は気合いを入れ直し、魔力を注ぎ続ける。






「転移魔法展開! 行けえぇぇ!!」




アテナ様は転移魔法を発動し、火の玉を転移させようと魔力を注ぐ。


その間にも俺達は魔力をアテナ様に注ぎ続ける。






「もうダメだ……」




そう言って王国軍の騎士達はバタバタと倒れていく。


それに続いて魔王軍の下っ端達も倒れていく。




おいおい、頑張ってくれよ……!






「魔力が足りない! もっと渡せ!」






「やってる!」






「くそぉぉぉぉ!!」




アテナ様に注がれる魔力が一気に増える。


ラストスパートだ!






「おおおおおおおお!! 行っけぇぇぇぇ!!」




ドォン!!




大量の魔力が消費され、火の玉は空から消えた。


あんなにも明るく、エネルギーを持っていた空は清々しい晴天に変わっていた。






「行ったか……ふぅ」




全員が安堵のため息をついてその場に座り込む。


とりあえずこの星は守れた。


でもまだ破壊神がいる。




こんな体力も魔力も消費した状態で勝てるのだろうか……






「よし、では皆ここから離れろ! そろそろ破壊神が石化を解くぞ!」




アテナ様は急かすように全員に呼びかける。


しかし、誰も動こうとしない。






「ここまで来たんだから最後まで戦いますよ! な? 皆!」




レインは立ち上がり、周りに呼びかけるようにそう言う。


周りの者も賛同するように首を縦に振る。






「ダメだ! あれは最強最悪の神だぞ?」






「大丈夫よ、見てみなさいよあの馬鹿面! あんなのに負ける気がしないわ!」




セリィは石化した破壊神がある場所を指さしそう言う。


だが何かがおかしい。


あそこにあった魔力反応がどうも変だ。






「誰が馬鹿面だって?」




聞き覚えのある凍てつくような声が背後から聞こえる。




間違いない、破壊神だ。




俺達は振り返ることも出来ず、その場で硬直する。






「俺を悪く言うやつは許さねぇ……死ね」




突如、背後から死を感じさせる程強大なエネルギーを感じ、固まる足を無理矢理動かしてセリィを突き飛ばし、横に飛ぶ。




ゴォッ!!




その直後、俺の頭上を小太陽が通り過ぎた。


もしあれが当たっていたらと思うとゾッとする。






「アル……ありがとう」




セリィは自分が死にかけた事を理解し、恐怖で声を震わせながら礼を言う。






「いえいえ、セリィを守ることが俺の役目だから」






「そこをどけ、人間。俺が用があるのは奥の女だ」




破壊神はその赤く光る目で俺を睨みつけ、そう言う。


正直内心めちゃくちゃビビってるがここで退く訳にはいかない。






「ならば俺を倒し――ぐはっ!!」




俺が言葉を言い終える前に破壊神の右腕は俺を横方向に吹き飛ばした。


言葉の途中で殴るとは容赦ないな……






「よくも俺様のことを悪く言ってくれたな? さて、どうやって殺そうか……」






「ひっ……!」




セリィは恐怖に顔を歪めている。




助けに行かないと……!


くそっ! 体が動かない! 動け!






「罪の深い貴様には恨みを味わってもらう」






「恨み……?」




恨み……?


これはまさか……!?






「お前への恨みは色恋沙汰ばかりだな。では、行くぞ……連鎖の業チェイン・カルマ・怨嗟の槍」




破壊神が詠唱すると奴の右腕に禍々しいという言葉でも足りない程魔性の魔力を持った槍が具現化する。


それからは声が聞こえてくる。




――あんたなんかがレイン様に近づこうなんておこがましい!




――レイン様にあんなに近づくなんて何様のつもり?




――レイン様との時間を邪魔すんなんて恨めしい……




――あの女が恨めしい!




――恨めしい!




――恨めしい!




――恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい!!






「もう止めて!!」






「くっはっはっは! これは貴様が今までに恨みを買ってきた結果だ。どうだ? 死にたくなっただろう? 安心しろ、今楽にしてやる」




破壊神は嘲るような笑顔でゆっくりとセリィに近づき、槍を構える。




ダメだ、セリィ! 助けないと!


くそっ! 動けええ!!






「死ね」




俺は槍が突き出される直前にセリィの前に出る。


防御魔法を使う時間もない。




すると、槍が突き出された直後、俺の更に前に誰かが飛び出してきた。




ドスッ




破壊神の槍は俺にもセリィにも届くことなく、目の前の誰かで止まった。


前の人は槍が抜かれた後、力なく倒れ込んできた。


そして俺は顔を覗き込む。






「アテナ様……?」

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