第27話
翌朝、俺達は75階層まで降りてみた。
しかし、そこにはアンシェルが使っていた家具くらいしかなく、下に降りる階段も無かった。
「前の迷宮は最下層にはボスがいたんだけどこの迷宮はいないのか?」
「ねぇアル、この本見てみて」
セリィがアンシェルの本棚から一冊の本を見つけて渡してくれる。
『人工迷宮について』
この世界には迷宮というものが一つだけある。
それは大量の魔力が集まって出来た魔石を核としてできる1つの魔物のようなものである。
迷宮は迷宮内で更にモンスターを生み出し、侵入者を拒む。
侵入者はモンスターを倒し、モンスターも侵入者を倒す。
そしてその際に生まれた魔力を吸収して迷宮は生きる。
我々魔王軍はそれを人工的に作ることに成功した。
それを世界各地に生み出し、それぞれを幹部に管理されることによって各地から大量の魔力を集める。
そして邪神復活のエネルギーにするのだ。
「人工迷宮だと……」
自然にできた迷宮は1つだけ、つまり最初に行ったあれのことだろう。
つまり、それ以外の迷宮の最下層には魔王軍の幹部が待ち構えているという事だ。
「じぁこの迷宮も人工的なものということ?」
「そうなるな。早く帰って報告しないとな」
それから俺達は急いで地上に向かった。
アンシェルが大半を吸収したおかげで魔物は各階10数匹程度しかいなかった。
森もせいぜいワーウルフが群れで出てきたくらいで何事も無く、街まで帰ってくることができた。
――ザラクの街――
「ふぅ……帰ってきたねぇ」
もう日が暮れるので報告は明日にして俺達は宿屋に行くことにした。
迷宮内で休んだものの見張りなどもあったため疲れは完全にとれていたとは言えない。
だから久々に見張りもなくゆっくり休めるのだ。
「はぁ、疲れた。おやすみー」
「「おやすみー」」
そう言った瞬間、レインの方から寝息が聞こえてきた。
の○太くんかな?
「なぁアル」
「どうした?」
「お前は幹部と戦ったんだろ?」
「ああ、そうだけど」
「俺は闇の心を弾き返すことが出来なかった……ほんとは俺も立ち上がってお前らと一緒にセリィと、ナージャを守らなきゃいけなかったのに!」
「あれは仕方なかった。あいつも言ってた勇者と申し子でしか耐えれないって。だからあまり自分を責めるなよ」
「そうじゃないんだ。俺は悔しいんだ! いっつもみんなに助けられてばっかで自分一人じゃ何にも出来ない!」
「フロウ、俺だってみんなに助けられてここまでやってきたんだ。お前だけじゃない。お前は強い。だからちゃんと自信をもて」
「俺は強くない……! こんなんじゃあいつを守れねぇ!」
「だったら、強くなればいい。お前はまだまだ強くなれる。この俺が言うんだ、間違いない」
俺は笑顔でフロウに語りかける。
「お前にはお前の良さがある。
俺には到底真似出来ないことだってある。
フロウ、誰かの真似をするんじゃなくて自分のやりたいこととか得意な事を伸ばしたら良い。
お前の出来ないことはみんなでカバーするし、逆にみんなが出来ないことをお前がカバーしてくれたらいいんだ」
「……それ聞いて安心したよ。俺は足でまといなんかじゃないか? お前達と一緒に冒険してもいいのか?」
「もちろん。フロウは大切な俺達の仲間だ」
「ありがとう、アル」
「ああ、じぁおやすみ」
「おやすみ」
――翌日――
俺達はザラクのギルドマスターに報告をするためにギルドに向かった。
「ギルドマスター、ただいま戻りました」
「ご苦労だった。元気そうだな。で、迷宮はどうだった?」
「はい。最下層まで攻略しました。それで迷宮の事なのですが……」
俺はギルドマスターにザラクの迷宮であったことを全て話した。
「人工の迷宮に、魔王軍の幹部とは……これは国王陛下に報告せねばならんな」
「国王陛下にですか」
「ああ、一応魔王対策の最高責任者は国王陛下だからな」
「一応とは、どういうことでしょう?」
「最高責任者は国王陛下なんだが、実質的には聖教会が指揮を執っているんだ」
「なるほど。では、俺達は王国に向かえば良いんですね?」
「ああ、ギルドから馬車を出すからそれに乗っていってくれ。3日くらいで着くだろう」
3日もかかるのか……遠いなぁ。
「わかりました。ありがとうございます」
俺はギルドマスターの部屋を出た。
「ギルドマスターはなんて?」
「ああ、魔王に関わるから王国に報告に行ってくれだとさ。馬車はギルドが出してくれるらしい」
「えぇー、こっから王国って遠いじゃーん」
「まぁ文句を言うな。これも仕事だからな」
それからしばらくしてギルドの馬車が迎えに来たのでそれに乗って俺達は王国へ向かった。
――3日後・王国――
「つ、着いたぁー……」
王国に着いた俺達はもうヘトヘトだった。
なぜならこの馬車が凄く揺れるからだ。
寝れないし酔うしでもう最悪だ。
ああ、車や電車、飛行機が懐かしい……
「国王陛下への謁見はもうしばらく後だから休憩しておいてくれ」
そう言えばギルドマスターも急に私も着いていく! と、馬車に乗ってきたのだ。
それよりもこのおっさん、全くしんどそうじゃない!
めっちゃ寝てたし。
しばらく止まった馬車で休み、俺達は王城に向かった。
――王城・玉座の間――
今回の謁見は俺とレインが呼ばれた。
他のみんなは部屋で待機だ。
「久しいな、アルバートよ」
「お久しぶりでございます」
「で、報告とはなんだ」
「はい、この世界にある迷宮は1つを除き、全て魔族が作り上げた人工迷宮ということが判明致しました」
「何だと!? 1つとは現在攻略済みのメリーナの街の迷宮のこたか?」
最初の街ってメリーナって言ったんだな。知らなかった。
「はい、今回我々が攻略したザラクの迷宮には魔王軍の幹部、アンシェルが最下層で待ち受けていました」
「魔王軍の幹部が迷宮の最下層に……つまり、この世界にある迷宮のほとんどは魔王のものということか?」
「はい。そしてその目的が魔力を集め、邪神復活のエネルギーにするという事のようです」
「邪神か……本当にそれが実現してしまえば人類どころかこの世界が滅びるであろうな……とりあえずご苦労だった」
「有り難き幸せ」
「ところでレインよ、この者達と冒険してどうだった?」
「はい、自分の未熟さに気づくことができました。そして、覚醒することができました」
「やはりな。この者達と冒険すれば覚醒するであろうと我は確信しておったのだ。よし、勇者覚醒とアイギスの功績を讃え、5日後に宴を開く。必ず参加するように」
「はっ! では、失礼致します」
俺達は玉座の間を出た。
「どうだった?」
「5日後に宴だってよ。準備しないとな!」
「宴!? やったー!!」
「でも私達、ドレスとか持ってないよ?」
「流石にこんな格好ではでれないわよ」
「じぁ買いに行くか!」
「えー、服なんて何でもいいじゃん」
フロウ、その気持ちはわかるが各地からお偉いさん達が集まるんだ。宴の主役の格好は大事だぞ。注目を浴びるんだからな。
「「行きましょう!!」」
うん、どこの世界でも女の子は買い物とかおしゃれとか好きだね。目がキラキラしてるよ。
――城下町・高級商店街――
ここは貴族やお金持ち商人らがよく買い物をする商店街だ。
どこの店もキラキラしていて庶民の俺としては入りづらい。
「えっと、ここがそうかな?」
俺達は正装については全く知識がないので王城にいた使用人さん達にオススメを聞いたら教えてくれた店がここだ。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃいませ。今日は何の御用で?」
中からとてもオシャレなお姉さんが出てきた。
何と言うか……うん。
ビューティフォー!!
「ちょっとアル、フロウ!」
おっといけない。俺とフロウはお姉さんに見とれてしまっていた見たいだ。
まさかその服、魅力魔法が付いているのか!?
セリィとナージャの視線が痛い。ごめんなさい。
「えっと、国王陛下主催の宴に出る予定でして。その時に着る服装を聞いたらここが良いとお聞きしたので」
「そうでしたか。少しお待ちください。マリウス! ちょっとこっち来て!」
お姉さんが呼ぶと店の奥からこれまたオシャレな男性が出てきた。
「どうしました、店長」
「この男性お二人にあう服を選んで差し上げて。私はこの女性お二人のを選ぶわ」
「わかりました。ではこちらへ」
それから店員さんと相談しながらそれぞれの服を決めた。
決めたのをもとに採寸して出来たものを4日後届けてくれることになった。
「大分時間かかったな。セリィとナージャはもう終わってるかな?」
「セリィ、ナージャ、こっちは終わったけど?」
「待って。まだかかるー! きゃー、これも良いわね!」
ダメだ。こりゃまだ時間かかるやつだ。
それから3時間位待ちました。
女子の買い物は長いね。それと値段見てビックリしたよ。
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