第26話
「あまり人間を舐めるなよ! こっからが本番だ!」
俺は剣を拾い、アンシェルに向き合った。
「何故だ……闇の衣は消えていないのに……」
「レイン、起きろ! 勇者がここで立ち上がらなくていつ立つんだ! おい、レイン!」
「うぅ……」
レインは呻き声をあげて苦しそうにしながらも何とか立とうとする。
「そうだ! 立て! 自分の使命を思い出せ!」
「俺は……勇者だ! みんなは俺が守るんだ!」
レインから強大な光の魔力が放たれる。
その光はアンシェルを包み、アンシェルの闇の衣を打ち消す。
「闇の衣が!? なぜだ!?」
「俺は……勇者だ……みんなは、守るんだ!」
「まさか!? 覚醒したのか!?」
アンシェルは闇の衣を消されてかなり動揺している。
よし、今のうちにさっき手に入れたスキルを確認しよう。
【守る者】
守るときに能力が上がる。守る対象が自分にとって大事であればある程能力は大きくあがる。
ただステータスが上がるだけでなく、一時的に特殊能力も付く場合もある。
【貫通】(守る者)
相手のスキルや魔法を無視して攻撃することができる。
なるほど。これのおかげで俺はさっき闇の衣を纏ったアンシェルを殴れたのか。
「だが、俺の優勢は変わらん!」
アンシェルは腕を変化させ、突進してくる。
かなり速いがまだ見える。
「それはどうかな!」
俺とレインは左右に飛び、それを避ける。
そして、結界を蹴って方向転換し、壁に突っ込んだアンシェルに突進する。
「付与魔法エンチャント:ウインド、【風の衣】」
俺は身体強化とさらに風の衣を使い、一瞬でアンシェルに近づく。
レインは驚くことに身体強化だけで俺と同じスピードを出している。
「【神風斬】!」
俺は魔力をいつも以上に付与し、より高位の技を発動する。
剣は輝く風を纏っている。
「光剣シャインソード!」
レインの剣は覚醒したからなのか剣が帯びている光がより強く、より優しく感じられる。
「「くらえっ!」」
俺達は壁に腕が刺さって動けないでいるアンシェルに斬りかかる。
「ぐぁぁぁ!!」
俺達2人でアンシェルの右手を切り落とした。
右手を切り落とされたアンシェルは苦痛のあまり叫び、悶えている。
「追い打ちをかけろ!!」
「おう!!」
俺達は一度離れたが、もう一度アンシェルに突進する。
「うおおおおおおおおお!!」
アンシェルは今まで一度も聞いたこともないような恐ろしく、大きな声で咆哮する。
すると、体が縛られたように全く動かせなくなる。
「ぐっ、体が……」
「動かねぇ……」
「貴様らは絶対に殺す!!」
片腕を失ったアンシェルは左腕を更に大きく変化させ、それを振り上げる。
「せいぜい苦しんで死ぬんだな!」
アンシェルは左腕に闇の魔力を集め、振り下ろす。
カキィン!!
俺はレインの前に出て爪を剣で受け止める。
「何故だ!? なぜ動ける!?」
「俺にはスキルや魔法の類はもう効かないのさ!」
俺はアンシェルを押し飛ばしてレインのもとに行き、トンと押す。
「お? 体が動くぞ!」
やっぱり解けたか。
基本、こういう能力は衝撃を与えることで解除させることが多いからな。
「大丈夫か、レイン。油断大敵だぞ」
「油断大敵? まぁありがとう」
この世界ではことわざとか四字熟語とか通じないのか。
「さぁ、気合いいれなおすぞ!」
「くそっ、何一つ思い通りにいかない……! それどころか、片腕まで落とされたなんてあいつらに知られたら……」
「行くぞ、アル!」
「おお!」
「勇者には負けん! うおおお!!」
アンシェルは闇の魔力を放出する。
そして、部屋が闇の魔力で満たされる。
「おいアル、これはまずいぞ……」
「ああ、このままじゃみんなが……」
俺達はスキルやら何やらでこの魔力濃度でも耐えきれるが他のみんなは違う。
このままだとあと数分で全員闇の魔力にやられて死んでしまう。
「……この一撃で決めるしかない!!」
「ほほう、一撃で決めるだと……? ならば俺もここで決めさせてもらう!」
アンシェルは片腕に全魔力を注ぐ。
「聖剣エクスカリバー・解放!」
レインはエクスカリバーの真の力を解放する。
「能力変更:防御力を攻撃力に。付与魔法エンチャント:ブレイズ」
「【インフィニティ一・スラッシュ】!!」
「【新滅斬】!!」
「【終焉ノ焔剣】!!」
アンシェルの巨大な爪とレインと俺の剣がぶつかる。
そして、巨大な魔力どうしがぶつかって魔力の嵐が発生する。
アンシェルの攻撃はあまりにも重く、レインと二人がかりでも負けそうになるほど強い。
だが、
「負けるかぁ!!」
「絶対に守るんだぁ!!」
尽きそうになる魔力を無理矢理出し、倒れそうになる体を無理矢理立たせて更に押し込む。
「「終わりだああ!!」」
俺達は最後の力を振り絞り、アンシェルを斬る。
「ぐぐぐ……うわあああ!!」
傷口から浄化されるようにアンシェルが消えていく。
「くそっ、次会うときは必ず貴様らを殺す!」
そう言ってアンシェルは転移魔法を使う。
アンシェルの足元に魔法陣が現れ、アンシェルが消える。
「逃げられたか……」
「そうみたいだな。あっ! みんなは!?」
俺達はみんなのもとへと向かう。
全員ぐったりと横たわっているが、脈はある。
良かった、生きている。
俺はセリィの肩を持って揺する。
「セリィ、起きて。セリィ、返事して」
「んんっ……アル……?」
「セリィ! 良かった!」
「私達……確か……あ! 魔王軍の幹部は!?」
「逃げたよ。俺達が撃退したんだ」
「全く……アルはほんとに凄いわね」
「レインのおかげさ。それより、どこか痛む所はない?」
「ちょっと頭が痛いけど、それ以外はどうってことないわ」
「良かった……生きてて……」
「私ね、頭の中に負の感情が流れてきた時飲まれかけたの」
「うん……」
「でもね、頭の中が真っ黒い感情に包まれた時に一筋の光が見えたの」
「光?」
「それがレイン様だったのよ。彼は私を救ってくれた。私、身分とかそういうの関係無く彼が好き」
「うん……」
やっぱりだ。最初から感じていたことがある。
彼女は地位とか身分とかのためにレインに好きになってもらおうと必死なんじゃなくて純粋に惚れてるんだ。
悪役令嬢とか言われるのは度が過ぎただけで、彼女はとても一途な人なんだ。
だから俺はレインと彼女を引き離すんじゃなくて、行き過ぎを抑えるだけでいいんだ。
彼女の純粋な恋が間違った方向に進まないように少し手伝うくらいで良かったんだ。
だったら俺がやる事は決まっている。セリィの恋を応援する。それだけだ。
「……セリィ、応援するよ」
「ふふ、ありがとう。やっぱりアルは私の頼れる味方だわ」
そう言って彼女は寝てしまった。
みんなも闇の心と戦ってお疲れなんだろう。
正直俺もそろそろ限界だが、フロウは叩き起して3人でテントを貼り、すぐに寝た。
こうして一日が終わった。
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