第17話

「さぁ、そろそろ起きて準備するか」


俺は起き上がってセリィを見た。



「セリィ、ありがとう……って、寝てるな」


セリィはスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。



「そっとしとくか」


俺はセリィに布団をかけてテントを出る。



「お、アル! もう大丈夫なのか?」


食事を作りながらフロウがそう聞いてくる。



「ああ、もうバッチリだ。手伝うよ」



「ありがとう。助かる」



「でも安全地帯に行かなくてもいいのか?」



「ボスを倒した後の部屋は安全なんだよ。他のモンスターは入ってこれないからな」



「そうなのか。じぁ今日はここに泊まってまた明日出発しよう」



「そうだな」


それから少しして食事の準備が終わる。




「そろそろセリィを起こした方が良いな」



「ああ、起こしてきてくれ」


俺はセリィの寝ているテントに入り、セリィを起こす。



「セリィ、起きて。もうご飯だよ」



「んん……あれ? 私寝ちゃってた?」


セリィが目を擦りながらそう言う。

まだ少し眠いのか目がとろけている。

正直ドキッとした。



「う、うん。疲れてたんだね」



「魔力を結構消費したからね」



「そうだね。じぁご飯食べようか」



「うん!」


俺達はテントを出て夕食にした。



――男子テント――



俺達3人は川の字に寝る。



「ほんと疲れたな」


フロウが言う。



「俺達は足止めしてただけだけどな。勇者がこんな扱いさせるなんて思ってもいなかったよ」


レインが笑いながらそう言う。



「たまたま俺が相性良かっただけさ。それに、フロウとレインが足止めしてくれたおかげで倒せたようなものだしな」



「俺は心の奥で自分より強い人間はいないと思ってたらしい。

でもお前達のパーティーに入ってまだまだだって気づけたよ。ありがとう」



「へへっ、照れるじゃねぇか」



「勇者は魔王を倒すのが仕事なんだろ?」



「ああ、儀式の時に最高神様にそう言われたんだ」



「最高神?」


アテナ様の上の立場の人? 創造神様よりも上なのかな?



「ああ、この世界の1番上の立場の神様らしい」



「なるほど。そういや俺、そもそも神話とか知らねぇや」


そもそもこの世界の人間じゃないし、あんまし興味無かったからな。



「俺もあんまり知らないな」



「俺は勇者になってから嫌という程教わったから教えてやろう」




――これはまだこの世界に神しかいなかったとき。


最高神と暗黒神は生き物を生み出すために創造神を生み出した。



そして、創造神は新たに10の神を作り、世界を回していく上での役割を分担した。



しかし、最高神と暗黒神は世界の利権を巡って次第に対立していく。



暗黒神は世界中の生き物を戦わせて強い生き物を生み出す、といった計画を立てていた事に気付いた最高神は世界を二つに分断し、魔界に暗黒神を追放した。



追放され、怒った暗黒神は魔物を作り出し、それを統べる魔族や魔王を生み出して人間を襲うように仕向けた。



だから、最高神は勇者に魔王を討伐するように頼むのである。



「とまぁ、簡単に言うとこんな所だ」



「そんな歴史があったんだな」



「勇者は責任重大だな」



「ああ、だから俺はもっともっと強くならなきゃいけないんだ!」



「ああ、楽しみにしてるぜ」



「ならこんな迷宮さっさと攻略しないとな。おやすみ」


フロウはもう眠たいのか無理矢理話を終わらせて寝た。



「そうだな。おやすみ」



「おやすみ」




――女子テント・セリィ目線――


「ふぅ、今日は大変だったね」



「ええ、アルが自分に魔法を撃てって言った時はびっくりしたわ」



「そうだね。でもアルは凄いね。あんな強い魔物を真っ二つにしちゃうなんて」



「そうね。でもレイン様も勇者なのだからそれくらい出来るはずよ!」


いくらアルが凄いと言ってもレイン様には敵いませんわ! だってレイン様は勇者なのですから。



「勇者が私達のパーティーに入るなんて思ってもいなかったよ」



「私もだわ。でもこの機会に心を射止めるのよ! いつまた泥棒猫が現れるか分かりませんもの!」



「セリィはほんとにレインの事が好きだね」



「当たり前だわ! そう言えばナージャの色恋話は聞いた事無かったわね。好きな人とかいるの?」



「えっ!? 私!? い、いないよぉ!」


ナージャは顔を真っ赤にして焦ったように否定する。

ははーん、これはいますわね。



「バレバレですのよ! 言ってみなさい。言うだけでスッキリするものよ」



「いや悩み事じゃないんだから……」



「恋も悩み事のひとつよ」



「そう……?

実は私、フロウの事が……好き……なの……」



「やっぱりですわね!」



「知ってたの!?」



「バレバレですのよ。いつも顔に出てるわよ」



「えぇ!? じぁ気づかれたりしてるかな……?」



「それは無いと思いますわ。フロウは鈍感そうですもの」



「良かったー……」



「スッキリした?」



「ちょっとね」



「なら良かったですわ。おやすみなさい」



「うん。聞いてくれてありがとう。おやすみ」




――翌日――


「さぁ、忘れ物は無いか? 準備はバッチリか?」



「「「「おー!」」」」



「さぁ、こっからは未知の領域だ。気張っていこう!」



「「「「おー!」」」」


俺達は下へと続く階段を降りた。



――迷宮・61階層――


そこは草原だった。所々に岩があるくらいでそれ以外はほぼ何も無い。



「環境が変わったね……」



「草原はしんどいな。隠れる所が無い」



「あまり時間をかけてもいけない。一気に降りよう」



「待って! あそこに何かいるわ……」


セリィが何かを見つける。


俺達はその方向をよく見る。するとそこには角が異常に発達した牛がいた。

それも数え切れない程たくさん。



「あれはB+ランクモンスターのデンジャーホーンの群れだ!」



「気づかれてるな……」



「戦うしかないな! アル、壁はってまとめて防げ! その後は任せろ!」


レインが自信ありげにそう言う。



「分かった! アイギスの盾!」


デンジャーホーンは突進のタイミングを伺っているのだろうか、まだ来ない。



「ブモォォ!!」


一匹のデンジャーホーンが走り出したのを境にデンジャーホーンの大群が一気に突進してくる。


ドォォォォン!!


どんどんとデンジャーホーンがアイギスの盾にぶつかって止まる。



「よし、行くぞっ!!」


そう言うとレインは飛び上がる。



「ホーリージャッジメント!!」


レインがそう叫ぶとレインの剣の上に巨大な光の玉が現れる。



「悪しき者には裁きを、はぁ!!」


レインは剣を振り下ろし、光の玉はデンジャーホーンの元へと高速で落ちていく。


光の玉が地面についた瞬間、視界が真っ白になる。



「うおっ! 眩し!」



「目が目がああ!!」


おいフロウよ、お前はム○カ大佐か?

レインはバ○スって言ったのか。


そんな事を考えていると視界が戻る。



「おおっ……」



「す、すげぇ……」


そこには超巨大なクレーターが出来ていて、デンジャーホーンの姿は見当たらない。



「へへっ、どうだ? ちょっとは見直したか?」



「流石はレイン様ですわ! 惚れ直しましたわ!」



「やっぱりレインは勇者だったんだね!」


ナージャとセリィが興奮した様子でレインと話している。レインはどこか嬉しそうだ。


ちきしょうめ!



「さ、剥ぎ取り剥ぎ取り! あれ?」


フロウが剥ぎ取りをしようとクレーターに行く。


しかし、デンジャーホーンはレインが跡形もなく消し去ったので何も残っていない。



「レイン、ちょっと良いか?」



「いやぁ照れるなぁ。ん? フロウどうした?」



「ふぅ……お前何で跡形もなく消し飛ばしてんだよ!

デンジャーホーンの角は大事な素材何だぞ!?

そんくらい考えて戦えよ! 分かったか!」



「あ、はい。ごめんなしゃい……」


レインがフロウに怒られて小さくなった。

女の子にチヤホヤされて調子に乗るからだ! ざまぁ見やがれ!


ダメだ、言ってて悲しくなってきた……



「さぁ、どんどん進もう」


俺達は再び階段目指して歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る