第16話
「グルァァァァ!!」
クルガは咆哮する。
俺達を威嚇するようにこちらを睨む。
お互い回るように動き、タイミングを伺う。
無闇に飛び出せば避けられる。それどころかカウンターをいれられる。
だからお互い動けない。クルガもそれを分かっているようだ。
「うおっと」
フロウがちょっとした段差につまづいた。
「グルァ!」
その瞬間、クルガがすごい速度でフロウに突進する。
「フロウ!」
まずい、間に合わない! スキルも発動する暇もない!
フロウは急いで回避しようとするが間に合わない。
「ぐぁっ!」
クルガの鋭い爪がフロウを襲う。
血飛沫が上がり、フロウは壁に叩きつけられる。
「グルァァ!!」
これで終わらないぞとばかりにクルガは咆哮し、再びフロウの元へと突進する。
「はぁ!」
すると横から巨大な岩が飛んで来て、クルガを横に吹き飛ばす。
「魔法自体は効かなくても魔法で生み出した物の物理攻撃は効くみたいね!」
「セリィ!」
「大変! 鎧を付けてるのに肉まで抉られてる!」
「鎧の隙間を的確に狙ってきやがった……」
「今回復させるからね! ギガヒール!」
ナージャが上級の回復魔法をフロウにかける。そこまでダメージを受けたのか。なら、攻撃は受けられないな。
「とりあえず防御力移動:クルガから俺、フロウ、レインに!」
俺は防御力移動を使い、クルガの防御力を前衛組に付与する。
「仕切り直しだ、連携攻撃で行こう」
「ああ、今度はしくじるなよ?」
「悪かったな! さぁ行くぞ!」
「おおっ!」
俺は身体強化を強めに発動し、クルガの左側から回り込む。
三方向から攻める作戦だ。
「グルァァ!」
するとクルガは鱗を立てて威嚇してくる。
「鱗が飛んでくるぞ! 気をつけろ!」
「ああ!」
バシュン!!
クルガは鱗を飛ばしてくる。
鱗は風をも切り裂き、高速で迫ってくる。
「「「衝撃波インパクト!!」」」
俺達は3人とも衝撃波を発生させ、鱗を防ぎ、近づく。
「おおおお!」
俺は飛び上がり、剣を振り上げる。
それを見たクルガは後ろに跳ぶ。
しかし、そこにはフロウがいる。
「闘気オーラ纏い! 黄金粉砕斬ゴールドクラッシュ!」
フロウは金色の光を帯びた斧を振り下ろす。しかし、クルガはそれもサイドステップで避ける。
「断ち斬れ! 断罪ノ剣!」
そこにもレインが待っている。聖剣の光は目を開けていられないほど眩しく光る。
レインは眩しく輝く剣を振り下ろす。
すると光の刃がクルガを襲う。
「グルァァァァ!」
「当たった!」
「3人目でやっと当たるのか……何て奴だ」
「だが攻撃を当てられる事が分かった!」
「グルルルルル……」
クルガは攻撃を受けて相当頭にきているようだ。牙を見せて唸り声をあげている。
「さぁもう一度!」
「おう!」
「全員に斬鉄、高速化を!」
ナージャが全員に援助魔法をかけてくれる。
「タンクは任せろ! 挑発!」
俺はクルガの目の前に出て、スキルを発動し、クルガの注意を引く。
「グルァァ!!」
クルガは爪で攻撃してくる。一撃一撃が重く、的確に急所を狙ってくる。俺はそれを高い防御力で何とか耐える。
「今のうちに!」
「ああ! 黄金粉砕ゴールドクラッシュ!」
フロウが俺に夢中になっているクルガに斧を振り下ろす。
クルガはフロウに気づくが、そのタイミングで挑発を発動し、意識を強制的にこちらに向ける。
「ギャォォ!!」
フロウの斧が命中し、鱗が一部砕け、クルガは少し怯む。その隙にレインもクルガに近づく。
「おおおっ! 付与魔法エンチャント:シャイン」
レインが光を剣に纏わせ、怯んでいるクルガに剣を振り下ろす。
「ギャォッ!」
それも命中し、鱗を数枚断つ。
「グルルル……グルァァァァァ!!」
クルガは咆哮する。咆哮による風圧で俺達は飛ばされてしまう。
「アル、ダメージは溜まったか?」
「まだ決められない!」
「ダメージを溜める?」
レインが聞いてくる。
「俺は受けたダメージを溜め、それを攻撃に上乗せすることが出来るんだ」
「なら俺達の攻撃も溜めれるか?」
「え?」
「いわゆるフレンドリーファイアーだよ」
「ちょっと待って、調べる。ステータス、フレンドリーファイアーもダメージに入る?」
俺はギルドカードを取り出し、話しかける。。
『【ダメージ蓄積・上乗せ】
受けたダメージを溜める事が出来ます。フレンドリーファイアーもダメージの中に入るので可能です』
「ギルドカードが喋った!?」
「ああ、話しかけてたら返してきたんだ。たまたま見つけたのさ」
ただの可哀想なやつだとは思わないでくれ。暇だったんだ。
「よしじぁ皆! 俺を攻撃してくれ!」
みんなが何言ってんだこいつ、目覚めたか? みたいな目で見てくる。
「違うそうじゃない。俺のスキルはフレンドリーファイアーもダメージと判定して蓄積出来るんだ」
「なるほど! それなら魔法の分のダメージも入れられるね!」
「とりあえず俺達はあいつを牽制するからセリィとナージャがその役をやってくれ」
そう言ってフロウとレインは素早くクルガの周りを動き回り、クルガの気を引く。
もちろんクルガは何もしてこない俺達には目もくれない。
「わかった!」
「任せなさい! でも大丈夫なの?」
「俺は防御力が取り柄なんだ。加減せず来てくれ」
するとセリィとナージャが同時に詠唱を始める。
「「業火を纏いし火の神よ。その強大なる力を矮小なる我らに見せたまえ! いざ、顕現せよ! 【火神】!!」」
セリィとナージャは2人で神級の火魔法を発動する。
すると俺の目の前に巨大な火の塊が現れる。
「ちゃんと耐えてね? はぁっ!」
その巨大な火の塊は俺に向かってくる。
ドォォォォン!!
魔法が命中する。体中が熱い、だがそれだけで痛みなどはほぼ無い。
言うなればサウナだ。さすがは守護神の申し子の能力補正だな。
「アル! 大丈夫?」
セリィが心配してそう聞いてくる。
「ああ、大丈夫。ちょっと熱かったぐらいで痛みは無いぞ」
そして煙が晴れる。
「うそ、ほぼ最大火力なのに無傷……」
「ずっとおかしいと思ってたけどこれは異常だね……逆に引く」
「引かないで!? 強いのはいいことじゃないの!?」
「いやでもねぇ……」
なんてことだ!
強すぎると逆に引かれるのか……
うぅ……あ、涙が。
「アル! 溜まったのか!?」
「まだまだ溜めれる!」
「さっさとしてくれよ……こっちも体力の限界が来そうだっ!」
「二人とも下がって。後は任せろ」
「え? まだ溜まってないんじゃ……」
「大丈夫だ」
「分かった! はっ!」
レインとフロウはクルガから離れようとする。
「グルァァ!!」
クルガは逃がさない、とばかりに2人を追う。
鱗を逆立て、二人に向かって飛ばす。
「やべっ!」
カカカカン!
俺はそれを盾で全て受け止める。
「さぁ、こっからは任せろ!」
俺はクルガの前に立ち、睨みつける。
「グルルルルル……」
クルガも唸り声をあげ、威嚇してくる。
「防御力移動:全員から俺に!」
俺はこの場にいる全員の防御力を奪い、自分に移動させる。
「グルァァッ!」
俺がスキルを発動した瞬間にクルガは飛びかかってくる。
俺はそれを横に飛ぶことで避ける。
「能力変更:防御力を攻撃力に!」
俺は自分の防御力と奪った分の防御力を全て攻撃力に変更する。
「ナージャ、狂戦士化バーサークをかけてくれ!」
狂戦士化バーサークとは攻撃力が普通の魔法より上がる代償として闘争本能のままに戦う狂戦士になってしまう援助魔法の一つだ。
「でもそれをかけたら自我を失っちゃう!」
「大丈夫、申し子は狂戦士にはならないらしい」
「信じるからね! 狂戦士化バーサーク!」
ナージャは俺に狂戦士化バーサークをかける。攻撃力が更に上がる。
「行くぞっ!」
俺はクルガに突進する。
「グルァァ!!」
クルガは飛び上がり、天井に張り付く。
俺は結界魔法で足場を作り、上に行こうとする。
するとクルガは天井を蹴り、口を開けて急降下してくる。
「くそっ!」
俺は結界を蹴り、横に跳ぶが間に合わず、地面に叩きつけられ、クルガの牙が食い込む。
防御力を全て攻撃力に変更したのでかなりダメージを受けたが死なないで済んだのはこの防具のおかげだろう。
「固定魔法展開【リフレクト】!」
俺は防具の固定魔法を発動し、上に乗って俺を噛み続けているクルガを吹き飛ばす。
「ガハッ! 死ぬかと思った……」
「アル!」
「大丈夫だ。言っただろ、任せろって……」
俺は剣を再び握り、ひっくり返っているクルガに突進する。
「グルァァァァ!!」
クルガはすぐに起き上がり、腕を振るう。
俺はそれを避けて腕に乗り、走る。
「付与魔法エンチャント:ブレイズ!
ダメージ上乗せぇ!」
「グルァァッ!」
クルガは焦ったように顔から鱗を飛ばしてくる。俺はそれを全て受ける。
片目が潰されたが止まらず走り、顔の近くで飛び上がる。
「終わりだぁぁ!! 獄炎剣!!」
一刀両断。
俺の斬撃はクルガを縦に真っ二つにした。
そして断面から炎が上がる。
「倒した……俺達の勝ちだ!!」
「やったー!!」
「さすがはリーダー!」
「はは、どうだ。これが俺の実りょ……」
バタン!
俺は思ったよりダメージを受けていたらしく意識を失って倒れてしまった。
「……ル…………アル」
「うん……?」
「良かった! 目が覚めたのね!」
セリィが笑顔になる。
それよりも何だこの後頭部に感じられる柔らかい感触は! もしや……膝枕!?
そうに違いない!
「もう傷は大丈夫?」
そう言われて俺は自分の体を見る。
恐らくナージャが回復魔法をかけてくれたのだろう。完治している。
「うん。大丈夫だよ」
「そう。それなら私も皆の手伝いしてくるね」
「待って! もうちょっとこうさせて」
「もう……仕方ないわね! ちょっとだけよ!」
そう言ってセリィはそっぽを向いた。
あら、ちょっと引かれちゃったかな?
でもここで止めるのは勿体ないなぁ。
その時、セリィが顔が赤くなっているのを隠すためにそっぽを向いた事を俺は知らなかった。
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