187-4.知らない彼女(マシュラン視点)






 *・*・*(マシュラン視点)









(すっごく、美味しい……!)



 中央孤児院に滞在することになって、数日。


 今日も子供達の遊び相手をしている途中に、差し入れだと十歳くらいの子供達が作ったと言う『蒸しパン』を渡してくれたのだ。


 少しあったかくて、パンって基本的に美味しくないはずなのに……疲れていたから、なんでもいいやって思ってたけど!!


 ひと口食べただけで、その考えは覆えされた。僕らより小さな子供達が……もっともっと美味しいものを作れていたんだ!


 ふかふかで、ちょっとしょっぱいけど……少し甘い。


 思わず、夢中でかぶりついてしまった!!



「うんめ!?」



 メルクも食べたのか、すぐに声を上げていた。僕と目が合うと、互いに頷き合うくらい。



「やったー!!」


「王女様に教えてもらったんだもん!!」


「「はぁ!?」」



 姫様……チャロナが、これを子供達に教えた??


 たしかに、孤児院に料理を教えに来たりしてたとは聞いていたけど……パン作りは、普通の市民とかと変わらなかったはず。


 こんなにも、美味しいものは他の料理以外でなかった。



「ほんとだよ?」


「王女様のパンはすごいよ!! すっごくおいしいの!!」


「俺達でも、まだこれぐらいのしか作れないけど!」


「絶対絶対! もっと美味しいパンが作れるようになりたいんだ!!」



 嘘じゃ……ないみたい。


 僕が追い出した後に、何かあったのだろうか??



(……何かあっただけじゃない、か)



 この国の公爵様に保護された後に、色々あったはずだ。


 国王陛下の元へ帰られたのはごく最近でも……この国では色々あったらしい。


 姫様の帰還もだが、戦争で亡くなられたはずの王妃様の復活が成された。


 彼女は……家事以外何も出来なかった冒険者じゃないんだ。


 国元に帰ってきて、きっと変われたんだ。


 僕らがしてきたことは、彼女にとって許されたことではないけれど。



「にいちゃん達も明日作ろうよ!」


「え?」



 考え込んでいたら、子供達のひとりがいつのまにか僕の服を軽く引っ張っていた。



「パンケーキ! 明日作ろう!!」


「……パン、のケーキ??」


「すっごく大変だけど、すっごく美味しいんだぜ!」


「どんなんだあ??」



 メルクも知らないから、わからないと首を傾げていた。



「ふわふわで、口に入れるとすぐ消えちゃうんだ!! 俺達頑張ってるから、数日に一回は作ってんだよ!!」


「……それも、王女様が??」


「うん! 王女様はすぐ作れちゃってたけど」



 ここに居れば、いずれは会えるとギルマスは言っていたけど……会えても、言葉をかけてくれるだろうか?


 恨まれるような形で、僕は彼女に宣告したんだから。


 それが……使者殿からの指示だった。

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