184-6.デニッシュモンブラン②(エスメラルダ視点)
*・*・*(エスメラルダ視点)
(さぁて、今日はどんな菓子だろうねぇ??)
姫様……いいや、チャロナが旦那様との遠出から戻ってきた後に、あたいのとこ来てラム酒じゃなくブランデーを少し譲ってもらえないか聞いてきた。
飲むんじゃなくて、料理に使うらしい。肉料理かと聞けば菓子に使うんだと??
『美味しい美味しいお菓子作るので、期待しててください!!』
あの姫様は自分が王女だと知っても、これまで通りあたい達と生活することを選んだ。旦那様と婚約者になっても、いつもと変わらず調理人として。
以前はともかく、今はちょいと気を遣ってしまうのに……やっぱりそこは、これまでの経緯に加えて転生者の記憶を持っているせいもあるだろうねぇ??
「ん〜?」
食堂に向かうと、入り口でちょいと珍しい奴が扉の影に隠れていた。
「ライオネル??」
「!?…………エスメラルダ、か」
「何してんだい??」
食堂なんて、覗かずにさっさと入ればいいのにさ??
あたいが近づいていくと……芳しいほどの酒の匂いがしてきた。
その匂いにあたいも少し納得が出来た。
「あーんた、酒弱いもんねぇ??」
「く……りんごのは食べれたんだが。これは強烈過ぎて」
「けど、チャロナんことだし……酒精の部分は飛んでいるはずさ? 匂いだけじゃないかい??」
「……そうかもしれん」
庭師のくせにガタイがいいんだが、成人したてのガキ以下くらいにこの男は酒がてんでダメなんだよねぇ??
「なーにしてんだい??」
と、寮母のヌーガスがやってきた。こっちは逆にあたいと張り合えるくらいの酒豪だ。
「今日の菓子は、酒の匂いがキツイやつらしいんだよ」
「あー、ライオネルは苦手以上だからねぇ? けど、この前のりんごは食べれたじゃないかい?」
「……ああ。あれ以上にきつい……」
たしかに、あたいやヌーガスがよく飲むラム酒やブランデーは匂いがキツイ。下戸のライオネルにはキツくて仕方がないだろう。
しかし、人一倍以上に甘いものは好む。以前チャロナが主催で開いた『モチツキ大会』では、誰よりもいちごダイフクを食らいついた。
だから、今日の菓子も気になって仕方がないはず。明日から少しの間、チャロナやマックス達はセルディアス城とホムラ皇国に行き来するので不在になる。
料理長の料理がまずいわけがないが、まだまだパン作りはチャロナのおかげもあっていくらか進歩した程度。それ以上の力量を求められない。
とりあえず、三人で食堂の扉を開けると……むせかえるようなブランデーも香りが広がっていた。
「「おお……!!」」
「う……凄い匂いだ」
「あ、お疲れ様です!」
あたいらの声が聞こえたのか、カウンターの向こう側からチャロナが出てきた。
「チャロナ、いい匂いだねぇ? 今日の菓子はなんだい??」
「栗を使ったモンブランデニッシュです!!」
「「「……モンブラン??」」」
どんな菓子か。あたいは、この王女様が転生者だと知っているから異世界の菓子だとはわかるが。ヌーガス達はちんぷんかんぷんだと首をひねっていた。
「今回は冷たいお菓子なので、すぐお持ちします!!」
と言って、戻ってきた時にトレーに乗っていたのは。ミルクティーより濃いめの茶色の渦、てっぺんには栗の煮たようなの。土台には、最近定番になりつつあるデニッシュというパイに似たパン。
しかし、それは芸術品のように美しかった!
ライオネルも匂いよりそれを食いたいのか、チャロナから受け取ると……あたいらは三人で同じテーブルに腰掛けて、一緒に渡されたナイフとフォークで食べることにした。
(うーん……食べるのがもったいないが)
せっかくの菓子だと、あたいはまずてっぺんの栗を食べることにした。薄皮があるのに、渋みもなくよく煮込まれたそれは柔らかく、甘く、ほっくりしていて……かつ、ブランデーの風味が強い!? 酒精はあまり感じないが、火を通したはずなのにここまで強いとは驚きだねぇ??
「こりゃいいね!」
「…………美味い」
ヌーガス達もちゃんと食ってた。ライオネルは匂いを我慢しても美味さが優位に立って、これでもかと勢いを増して喰らいついていく。
あたいは次に渦の部分を口に入れると、これでもかと栗の味と上の部分と同じ甘さと風味を感じた。
デニッシュは違うだろうが……これは栗を贅沢に使った逸品じゃないか?
そのあとにも、内側のホイップクリームにも栗の刻んだものが混じっていた。デニッシュも堪能した頃には……ライオネルがチャロナ達におかわり出来ないか必死に懇願しているのが見れた。
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