176-4.シュィリンのところでも(シュィリン視点)






 *・*・*(シュィリン視点)









 チャロナが無事に王女の地位に戻った。


 玉座の間で、あの男爵だった強固派の若い貴族が……謀反を起こす事がなければどうなったか。


 どちらにしても、王妃殿下を復活した偉業を成したのだ。強固派どころか並大抵の臣下の連中どもは、彼女の功績を認めずにはいられない。



(……だが、それを逆に利用しようとする連中も出そうではあるが)



 姫の後見には、稀代の錬金術師であり、王家お抱えのアーネスト=ラピュンツェル様がつくことになられた。


 謀反を起こしかけた、元男爵はアーネスト様を敬愛し過ぎて……姫がカレリア殿に次ぐ二番目の弟子になった事に嫉妬以上の感情を抱き、そして亡き者にしようとした。姫もだが、カレリア殿も。


 どちらも、俺を含める暗部部隊の働きにより、何事もなく終わった。


 姫は王宮での生活を選んだのだろうか?


 王妃殿下が復活なされたから、そのはずだと思っていたのに。


 あれからそう日も経っていないのに、彼女は自分で覚えたらしい転移の魔法で、オーナーであるマックス様と一緒に……俺がいるリュシアの店にやって来た。



「リンお兄ちゃん!」


『でふぅ!!』



 彼女は玉座の間で俺がいた事を知らないだろうし、俺も元男爵らを捕縛した後は知らない。


 なので、契約精霊であるロティの異常な成長ぶりと……姫の一部の成長ぶりに目を丸くしてしまう。



「……チャロナ。色々……変わったな?」



 いくら幼馴染みの俺でも、女性の変化については直接的に言えないが。



「うん! 私が実は王女様だったとか。お母さんが生き返ったとか……他にも色々たくさん!!」


「ついでに言うなら、チーちゃんはカイルと婚約までしたのよん?」


「ちょ、悠花ゆうかさん!!?」


「……そうか」



 やはり、姫は公爵様と結ばれることが出来たのか。


 再会した直後は、俺も自分の失恋に胸が痛んだが……今は違う。


 いくらか、安堵の感情が芽生えていた。



「あと、シュィリン? チーちゃんは城じゃなくて、カイルんとこにこれまで通り過ごすわ。だから、会いに来るのならそっちで良いわよん?」


「? 王宮ではなく??」


「今まで通り、パンを作っていきたいの。孤児院の方も再開させるんだー」


『でふ!』



 王女であるのに、王女らしく過ごす方を拒否した。


 だが、それは俺も姫らしいと思えてきたのだ。さらに、近々ホムラへまんじゅうなどの製作指導にも派遣員として行くらしい。


 オーナーからは俺も行くように、今日は頼みに来たそうだ。



「チーちゃん、今だから言っちゃうけど。シュィリンも元は皇族なのよ?」


「え!?」


「……謀反があり、セルディアスに逃亡したんだ。チャロナと会った頃は、マザー・リリアンに頼まれて戻ったんだが」


「…………皇族の人だから、そんなにも綺麗なんだ?」


「驚くポイントがチーちゃんらしいわね??」


「だってー」


「ははっ」



 たしかに、チャロナと言えばチャロナらしい。


 そして俺も、姫の名が伝え聞いたのと違い、これまで通りの名のままでいることには少し驚いたが。



「とりあえず、あんたも派遣の時は連れて行くわよん?」


「……承知致しました」



 少しぶりだが、またアシュリンには泣かれそうだと思った。

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