【記念SS】王弟と兄王
*・*・*(デュファン視点)
式典が目前に迫って来ているので、兄王の顔でも見に行こうと転移の魔法でフィセルと一緒に向かったら。
兄の私室は布で溢れかえっていたのだ。
「……これは」
「……兄さん、張り切り過ぎだね?」
きっと、いや、絶対姫のためだろう。
ただ、布の大きさが小さいからまた人形作りか?
英雄王と言われている兄の趣味が人形作りだと言うのは、ごく一部だけしか知らない。
弟である僕は当然知っているけど、これはまあ。
「おや、デュファン様にフィセル殿」
甥である王太子の爺や兼宰相を務めているカイザークが布をまとめようとしていた。
「カイザーク殿、これは陛下が取り揃えられたのでござるか?」
「はい。姫様へお贈りなされる人形本体は完成したのですが」
「せっかくだから、着せ替え用にってたくさん作ってるところかな?」
「その通りです、デュファン様……」
まったく、親バカも親バカだ。
僕も覚えがないわけでもないけど、リーンはなあ……エディに顔は似てるけど、どう言うわけか武闘派になっちゃったし。
最近は、姫の指導を受けているから厨房に籠りっぱなしではあるけど。あれはあれでいいかな?
義母上とも頑張っているし。あの方は姫が生きていたとわかって心底安心してくれたから、元気になられてよかった。
まだまだ姫のパンには及ばないが、随分とマシになったパンがうちの邸でも食べれるようになったからね?
城ではどうなったかまでは聞いていない。知らせで、シェトラスの師であるフレイズ殿を愚息の邸に招いたらしいが。
「ん? ああ、来たか」
「……兄さん、なんでそんなところにいるの?」
いきなり、布の山が盛り上がったかと思えば、中から兄が登場したのだった。
まるで、子供かとツッコミたかったが。
趣味に没頭すると、昔からこうだったなと思い出した。
「マンシェリーのためだ! たしかにあの子は今子供ではないが、前回の時も大層喜んでくれたからな! ロティもいるし、あの子の着せ替えに使えるかもしれん!」
「兄さん……ロティちゃんは、レベルアップ? とかで見た目がだいぶ変わっちゃったらしいよ?」
「な……に!?」
嘘じゃない。
昨日も、そのレベルアップのせいで姫が意識を失ってしばらく目が覚めなかったとカイルから報告もあったし。
今日は休んでいるらしいが、ロティちゃんの方も見た目が変わったそうだ。
そのことを兄さんに伝えれば、やっぱり号泣し出したし。
「兄さん、うるさい!」
「陛下! お気を確かに!?」
「いくら言われてもダメですよ、フィセル殿」
これが稀代の英雄王の現在って、誰が思うだろうか?
とりあえず、泣くだけ泣かして落ち着かせてから。全員で布の山をまとめることにしたのだった。
「……式典前にあの子に会いたい」
「無理でしょ」
「なりません」
「ですな」
「……はあ」
父親だと明かさずとも、兄さんの親バカオーラが今びんびんに出ているからね?
会ったら、抱きつきに行こうとするかもしれない。
そうしたら、うっかり言いそうになるからね?
だから、そこは式典当日まで我慢してもらうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます