146-2.まだ出来ない(シュライゼン視点)
*・*・*(シュライゼン視点)
城に戻ってすぐに。
俺は、フレイズ殿に連れられて、アーネスト殿のいる研究棟に向かったのだ。
俺と爺やが以前作った落とし穴はすぐに修復されていたのは残念だったけど。そこはまあいいとして。
興奮したままでいるフレイズ殿は、
「アーネスト殿!」
研究室に到着すると、フレイズ殿は少し乱暴に扉をノックしたんだぞ。
「なんじゃ、騒々しい!」
出てきたアーネスト殿は、ちょっと髪がぼさっとしてたけど。多分寝てたわけじゃない。
マンシェリーのところで見た、ロティが変身する魔導具の再現に徹夜で頑張っているはずだ。今日のパン教室もそれで来れないって言ってたし。
「なんじゃどころではありません! 中に入らせていただきたい! あなたも欲する品を持ち帰ってきましたぞ?」
「む? まさか」
「はいはい。俺もいるから、入れて欲しいんだぞ?」
「おや、殿下」
おや、ってくらい気づかない目の前のフレイズ殿しか見ていなかったとは。
とりあえず、中に入らせてもらうと。以前よりも乱雑な状態である研究室となっていた。
「調子はどうなんだぞ?」
奥に、見た目だけならロティの
「……少し、マシな感じにはなりましたのじゃが。相変わらず、温度と湿度? の表記が難航してまして。数字を浮かばせる術式しか組み込めませんでしたわい」
と言って、がっくしと肩を落としたのだった。
「たしかに。わざわざ目で暑さなどを確認出来る仕組み。容易ではなさそうでしたの?」
「お主も今日見てきたじゃろ? あの奇跡の数々。……それを実現しようにも、その仕組みまでもが奇跡過ぎるのじゃ! やはり、今日も行くべきだったかぁあああ!!」
「けど、もうパン教室は終わりなんだぞ?」
「くぅうう!!」
そう。
マンシェリーとパン作りをするのは、とりあえず今日で終わり。
マンシェリーには、またやりたいと言っておいたが。あと数日で行われる定例会もとりあえず一区切りするつもりである。
あの子のための式典。
それが間近に迫っているのだ。マンシェリーにも、行儀見習いとか色々を付け焼き刃でも叩き込まなくてはいけないからね?
「まあ。ひと休みするんだぞ」
と言って、フレイズ殿にお願いして今日作ったパンを
「おお!?」
卵サンド
サバサンド
シャケのフライサンド
それを見ると、アーネスト殿は奥にあるらしい洗面所で丁寧に手を洗って来たのだった。父上とは別にパンを持ち帰ってきたので、俺とフレイズ殿の分も余分に持ち帰ってきたんだぞ。
俺はもちろん、シャケのフライサンド!
「では!……おお、おお!? 相変わらず柔らかい!……んん!? ふま!? シンプルな卵との組み合わせなのに美味い!!」
まずは、卵サラダのサンドイッチ。
ひと口食べたらあふれそうだったそれを、アーネスト殿は夢中になって食べ進めていく。まるで飲むように食べた次に手に取ったのは、サバサンドだ。
「……これは。魚?」
「サバなんじゃが、食べてみればその素晴らしさがわかるですぞ!」
「ほう?……臭いがほとんどしない。焼いた感じではあるが」
どれ? と勢いよくひと口でかぶりつくと。
大きく肩が震えたのだった。
「!」
「ふふん? どうですじゃ、アーネスト殿?」
「な……んじゃ、これは。塩とレモンだけなのに。美味い……!! 美味過ぎる!? 臭みは全くと言っていいくらいなくて、魚の旨みと脂の蕩け具合が口の中で一体化するこの快感!! これが……庶民達しか食うことのないサバじゃと!?」
まったく、マンシェリーは凄い。
神からいただいた調味料をここまで美味に仕上げられるのは、マンシェリーの前世、『チサト=アマネ』の知識と経験があってこそだ。
もちろん、今のマンシェリーの経験も踏まえて、調理には活かされているだろうけど。この調理法は凄いんだぞ。
たしか、魚に使った酒はホムラとかならあるかもしれないと言っていたが。一度、アシュリンに確認を取ろうと思うんだぞ。
「アーネスト殿ぉ。こっちのフライはシャケなんだけど、卵を使ったタルタルソースが絶品なんだぞ!」
「なんですと!?」
と、ちょうどサバサンドを食べ終えたタイミングでフライのサンドイッチを勧めて。
また美味だと騒いでしまったけど。一度、今の魔導具で作れるか試したところ。
仕上がりは、今まで俺や爺やが苦労していた発酵部分がだいぶマシになった仕上がりになったんだぞ!!
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