144-5.出来ることは(エリザベート視点)






 *・*・*(エリザベート視点)









 事態はなんとか落ち着くようであった。


 姫のいる、あちらの公爵領地については。フィセル殿の率いる暗部部隊によって、拘束したらしいが。


 まさか、アルフガーノ家まで。


 何故急に、孫と孫に関わり合いのある貴族が襲撃されたのか。


 調べると、どうやらまだくすぶっている強固派でも若い貴族の仕業らしく。


 すぐ引っ捕らえないのは、陛下が式典で姫の異能ギフトなどの素晴らしさを見せつけた上で。それでも屈服しなければ引っ捕らえると。


 随分と甘い対応だが、くだんのアーネスト様の弟子に姫がなったことで、本性が出たらしい。


 そのアーネスト殿も一枚噛んでいらっしゃるようだ。



「……姫に出来ることと言えば。わたくしは」



 出来ることと言えば、姫と一緒にパン作りをすることくらいだが。


 あれから、アイリーンと一緒に練習はしているのだけれど。姫の指導をまだ一回程度しか受けたわたくしでも、いつもよりはマシになった程度。


 姫よりは劣るとは言え、一応異能があるわたくしでもパン作りは難しかった。


 やはり、あの方は前世での知識と経験があるので、わたくしが劣るのは致し方ない。


 襲撃の件については、一応収束はしたようなので。


 今からは時間もあるし、アイリーンが手隙なら一緒に作ろうかしら?


 声をかけに行くと、部屋にはおらず。厨房に行けば、あの子以外にも厨房の料理人が集まって何かをしていた。



「いいですか? パン生地を強く扱うのはいけません! そもそも間違っていたのです! こねるのはともかく、丸めたりするのは丁寧に!」


『は、はい!』


「つい先日あなた達にも食べてもらったのが、本物のパンですの。わたくしもまだまだ及びませんが、特訓を致しましょう!!」


『はい!』



 あらあら。


 頼もしいこと。


 姫を姉のように慕っているのだから、自然と意気込んでしまうのね?


 わたくしも混じろうかしら、とアイリーンに声を掛けた。



「わたくしもご一緒してよろしいかしら?」


「お祖母様!」


『これは!?』


「ああ、そんなかしこまらないで? わたくしも一緒に作りたいと思ったの」


「もちろんですわ、お祖母様!!」



 腕力などは、わたくしよりは上でも。


 まだまだ、成人前の若い少女。


 これからたくさん、いろんな事を学んでいくのだから。そして、長年想っていたレクターとはめでたく結ばれて。


 今では頼もしい少女となっている。


 わたくしもパン生地をこねる作業をしながら、孫達の幸せを望むべく。


 しっかりと生地をこねていく。


 発酵、と言う焼くよりもある意味難しい工程については。


 皆も苦戦して、大体の膨らみ方で挑んだせいか。


 やはり、焼き上がりは良くても味はいまいちになってしまったのだ。

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