143-2.こってりあんバターサンド②(レクター視点)
*・*・*(レクター視点)
今日の姫様が作られたおやつは、アンコとバターを挟んだコッペパンらしい。
アンコは姫様のおかげで、ホムラやコクレンよりもずっと美味しいのは知れたけど。ただでさえ、甘くて濃厚なあの味と食感にさらにバター。
少し想像し難いが、姫様の前世の知識はバカには出来ない。
この世界が、かつて【枯渇の悪食】により食だけでなく大半の文化が潰えた。のに、食以外はなんとか数百年で持ち直しはしても、食はイマイチなまま。
特に、パンやコメは悲惨そのもの。
その歴史を塗り替えたんだから、姫様に勲章を与えられるのは当然。
だから、おやつのパンもワクワクしながら取りに行くことにした。
今カイルは執務で少し忙しいので、食堂で食べられないからだ。
「チャロナちゃーん?」
食堂のカウンターに着くと、姫様はすぐに出てきてくれた。
「はーい、レクター先生。今日のおやつですか?」
「うん。こっちに来れないカイルの分も」
「わかりましたー!」
昨日はマックスと魔法の訓練をしたはずなのに、元気だ。六つ違いでも、若さゆえか?
いやいや、僕達も十分若いけど。僕はこの屋敷に来てからは運動はからっきしだしね?
下手すると、婚約したリーンよりも弱いかもしれない。ちょっとだけ、鍛えた方がいいだろうか?
(それにしても……)
食堂側に振り向けば、使用人達は一同にコッペパンを貪るように食べていた。
見たところ、アンコとバターは見えないから挟んでいるのだろうか?
けど、そんな美味しいのだろうか?
気になって待っていると、姫様は小ぶりのコッペパンを四個載せた皿を出してきたのだ。
「お待たせ致しました。こちらがあんバターサンドです!」
「? 普通のパンに見えるけど?」
「横に切り込みを入れたんです」
姫様が蓋を開けるように、パンを開いたらたしかにバター山盛りでアンコもたっぷりな中身が見えた。
「……美味しいんだよね?」
「是非、カイル様と召し上がってください。コーヒーが合いますよ?」
「……うん。わかった、ありがとう」
そこまで力説してくれるのなら、絶対美味しいだろう。
出来るだけ急いで、皿を持って執務室に戻り。僕が出てからだいぶ進んでいたようで。今は、カイルがコーヒーを淹れていたのだった。
「……戻ったか」
「公爵が直々にコーヒーを淹れるだなんて」
「俺とお前の関係だろう? 今更だ」
「まあね?」
本当に今更なので、僕も持ってきた皿を応接スペースの卓の上に置いた。
「……見た目は、以前のコッペパンと同じだが」
「中にたっぷりとアンコとバターがあるんだよ」
「アンコ……にバター?」
「使用人の皆は凄い勢いで食べてたよ?」
「……なら」
ひとつずつ手にとって、すぐに口に運んだ。
最初のひと口はアンコ。少し甘めだが、パンとの相性は相変わらず素晴らしい。
そして二口目に突入すると。
得も言えない、本当に例えようがない多幸感が口いっぱいに広がった。
「しょっぱ……甘い!?」
「しかし、アンコを邪魔するどころか引き立てている!?」
「やっば……これ止まんないよ!?」
ひと口食べたら、次が……次が!!
待ちきれなくて、どんどん食べ進めてしまう。あまりにも美味しすぎて、一個をペロリと食べ終えてしまったのだ。
「……これだと。生クリームとも合いそうだな?」
そして、カイルはあっという間に二個食べ終えてしまった。
僕は僕で、ゆっくり二個目を食べながら聞くことにした。
「たしかに。モチにも合うし、このアンコって凄いね?」
「だが、最高神がどこから持ってきたらしいが……」
「あれ以来本当に来ないね?」
式典まで、あちらもご準備をされているのだろうか?
カイルと姫様のお気持ちも、特に阻んでいないのなら。出来れば、結ばれて欲しい。
けど、そこはまだ無理なのかもしれない。姫様を付け狙う厄介な強固派が出てきたのだから。
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