137-3.第四回パン教室②
次に分割。
お師匠様には、素手で生地に触れてもらうのに驚かれたが。スケッパーを使って、サクサク切れる感覚が楽しくなって気にならなくなったようだ。
ラップもお見せして、構造がどうのこうのと考え込むのをシュライゼン様と一緒に止めて。
いよいよ、メインの成形に取り掛かることに。
「いいですか、お師匠様」
「なんじゃ? 神妙な顔つきじゃの?」
「生地をペシャンコになるまで潰さないでください」
「!……それがあの美味いパンにするための秘訣かの?」
「それもありますが。根本的に、潰し過ぎるのはダメです。せっかくの食感が台無しになります」
なので、ベンチタイムを置いた生地を手に取り。軽くガス抜き。潰し過ぎないように麺棒で正方形に伸ばし。
裏返して、内側に閉じて。
閉じ目を下にして、平らになるように伸ばして。あとはくるくる巻く。これを三つ作って、油を塗った型の半分に入れる。
そして、出来上がってからお師匠様を見たら。
思いっきり、口をポカーンと開けてしまっていた。
「あーあ? アーネスト殿?」
「……なんじゃ、今のは。流れるような所作。食材を扱う繊細さ。……今までのパン作りが堕落だと思えるぞ。この調理で、あのような美味いパンが」
「事実ですからなあ? 私めどももまだまだ彼女には追いつきません」
「……先日。シュライゼン様からご指導をいただいた時以上。これは、簡単には真似出来ん!!」
「そうなんだぞ!!」
錬金術師の最高峰に位置していても、私が知ってる前世でのパン作りは革命的らしい。
少し、誇らしく思えた。
「さあ。これを今から全員でやりますよ! 多少の失敗には目をつむります。とにかく、潰し過ぎないようにしてください。蓋を被せるので、焼く時に凹まないためです」
「うむうむ!」
「特にお師匠様は今回が初めてなので、気をつけてください」
「承知。あの技術を見せてもらったからには、今までの調理技術など意味がないわい」
と言いつつも。
そう言ったので、実際はどれくらいの力加減でいいのか悩んでしまい。打ち粉もつけ過ぎ手前まで、などと。
シュライゼン様やカイザークさんも食パンは初めてだったせいか、白パン以上に慎重に作業していった。
逆にアイリーン様は。最近、おばあ様のエリザベート様からタルト生地を教わったらしく、私の手本で力加減がなんとなくわかったからか作業はスムーズ。
けれど、巻く作業で力を込め過ぎたので微調整が大変だった。
全部の食パン成形が終わった頃には。慣れたレイ君とエイマーさん以外は力尽きてしまいました。
「……ポーション作り以上に疲れた」
「いつもの、成形より疲れたんだぞぉ」
「これは、良い鍛錬になりますなあ?」
「ですわね……」
と、死屍累々となりそうだったので。糖分摂取も兼ねて、甘ーいアイスカフェオレで生き返ってもらいました。
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