135-2.王として、父として(アインズバック視点)






 *・*・*(アインズバック視点)









 少し前に、アーネスト殿が来たらしいので。報告の読み上げをカイザークに頼んだのだが。


 なるほど、納得出来るものだった。



「あの子の、城での後見人を王族だけでなく。宮廷錬金術師でもピカイチのアーネスト殿をか? 悪くない」



 マンシェリーの異能ギフト以外での錬金術の才能も、あの人の一番弟子であるカレリアと同等かそれ以上らしいから。


 であれば、ただ王女として帰還させるだけでなく、アーネスト殿の弟子と言うことになれば実力を認められるのだ。


 何せ、堅物で錬金術馬鹿のアーネスト殿ご本人が、例の魔導具で苦戦してるくらいの才能がマンシェリーにはあるからだ。この提案もアーネスト殿ご本人からの推薦だしな?


 なら、俺は王として証明書を素早く発行するまでだ。



「カイザーク」


「はっ」


「強固派の残党をおびき出すのに、この任命を噂として広めようと思う」


「承知致しました。アーネスト殿に新たな弟子の誕生……程度でしょうか?」


「わかっているな? あくまで新しい弟子。それを噂が誇張すればあの子に行き着くかもしれない。ローザリオン公爵家には警備を強化。マンシェリーには指一本触れさせないぞ?」


「はっ」



 すぐに家臣達にも事情を話に行こうとしたカイザークの前に、我がバカ息子のシュラがやってきた。



「なーんか。物騒な企みの予感がするんだぞ?」



 相変わらず、俺に似たのか勘が良過ぎる奴だ。



「アーネスト殿から提案があったんだが」


「うん?」


「マンシェリーをあの人の二番目の弟子にしたいらしい」


「すごいんだぞ!? あの爺様が自ら!?」


「まあ、喜ぶのは待て。で、噂は流れるだろうが、それを逆手に取って残党を誘き出そうと思ってな?」


「あー……まあ。それは俺でも思うんだぞ? 単純な反対派よりも強固派の方が厄介だし」


「だろう? あの人もそれを予知してるはずだが。……これもマンシェリーのためだ。根絶やしにしたいからなあ?」



 俺の娘を利用して、セルディアス内でのしあがろうとする連中は、本当に厄介だ。


 まあ、先日の禁忌に触れて幼児化してしまったことで、だいぶターゲットは絞れて家格の剥奪、降格やらなんやら色々してきたが。


 それでもまだいるのだ。このセルディアスを蝕む毒は。



「そうだね? それと、次の定例会が終わってからが本番なんだぞ。当日どうなるか、最善を尽くしても俺はわかんないんだぞ?」


「それは俺にもわからん。が、記憶を封印される以上の何かが起こるやもしれない」



 式典をやめさせる方向に神は動かれていないし、あの子もメイミーを主導にマナーのレッスンを積んでいるらしい。


 ああ……。アクシアに生き写しのあの子を見た瞬間。強固派がどう反応するのか。


 楽しみ半分、わくわく半分。どっちも同じかもしれないが、俺はわくわくの方が強かった。


 俺もだが、シュラやマンシェリーを利用しようとするなど言語道断。


 ソーウェンがかつて我が国に残した爪痕を癒すために奮闘してきたのだ。その要となる我が子達を利用されるなんて俺は許せない。


 今いるバカ息子の前で、それは恥ずかしいから言えないが。



「じゃ。表面上は俺と爺やがマンシェリーにパン作りを習いに行くのでいいのかい?」


「そうだな? なんならアーネスト殿も誘ってやれ。魔導具制作には骨が折れているらしいからな?」


「そうですな? ロティちゃんのあの魔導具をすぐに再現は難しいでしょう」


「じゃ、俺。爺様のとこ行ってくる!」


「では、私めも」



 と、執務室には俺一人になったので。伸びをしてから、部屋の隅に置いてあるガラスのケースに近づいた。



「……もう少し、だ。アクシア……マンシェリーが」



 どう言う形であれ、王女としてこの城に戻ってくる。


 俺は、アクシアやマンシェリーに似た自分の手で作り上げたヴィスクドールを眺め。


 気合を入れてから、執務に戻った。

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