125-3.偶然(リリアン視点)
*・*・*(リリアン視点)
ああ、どこ。
ここはどこ?
いつものように、孤児院の主として子供達を育てていただけなのに。
いきなり、火の海にのまれてしまい、私は賊に囚われた時に袋の中へと無理矢理押し込まれたので。どこに連れて行かれたのかもわからない。
殺されるのだろうか? でも、それならばすぐにその場で切り捨てられるはず。
なのに、何故私だけ連れて行かれるのか?
逃げようにも、袋に入れられる前に身動きが取れないように縛られているので何も出来ないのだ。
とりあえず、情報を少しでも得るために耳を澄ませていたのだが。袋越しだとくぐもってよく聞こえない。
(…………ああ。ご無事だと分かった姫様に。一目でもお会い出来たら……と思っていたのに)
死ぬのよりも、もう二度と手塩にかけてお育てさせていただいた、あの方ともう会えないかもと言うのが悔しくてたまらなかった。
セルディアスに戻られ、ローザリオン公爵家に匿われたと知った時の私の気持ちは……涙だけで言い表せなかった。
冒険者として、世界を見て回りたいと強く願ったあの方の想いを無駄にしたくなくて、成人を迎える前に見送ってしまったが。
亡くなられたアクシア様に瓜二つ故に、いずれ訪れるかもしれないセルディアスで不敬な輩に囚われてしまうのではと心配してたのだが。無事に、婚約者候補であられたカイルキア様の元へと、辿りつけたのなら。
私は、セルディアスの孤児院にいる姪やカイザーク殿からのお知らせを知った今。もう一度、姫様とお会い出来たら……と思っていただけなのに。
この状況では、それも叶わない。
こんな最後か……と思っていると、袋の外から騒がしい声が聞こえてきた。
(……何かしら?)
別の賊がさらに襲撃されたのだろうか?
であれば、私の死期もいずれ……と覚悟を決めていると。袋の上から、誰かが触れる感じが伝わってきた。
「誰か囚われている!」
「マジか!? 例のマザーか!?」
「わからない! すみません、今開けますね!?」
賊、でないなら……ひょっとしたら冒険者か?
どうして、私のことまで知っているのかはわからないが。助けてくれるようなのでじっとしていたら、目の前が明るくなった。
「……ありがとう、ございます」
今はどうやら、夕方らしく。辺りは夕闇に包まれていた。
そして、助けてくれた若い冒険者達は男性二人で、私のことを心配そうに見つめていた。
「お怪我は?」
「……いえ。手足を縛られていた以外は」
「良かったです。失礼ですが、マザー・リリアンですか?」
「……どうして、私の名前を?」
「ホムラ皇国の皇太子殿下が探されていたんです。襲撃については、この国に到着した僕達もすぐに知っただけですが」
「マシュラン、そっちはとりあえず頼んだ」
「ああ」
「マシュラン……さん?」
「? はい?」
その名前は、一度だけカイザーク殿の報告からお聞きしたことがある。
姫様が所属していた、パーティーのリーダーの名前。
「……あなたは、ひ……いいえ、チャロナと」
「え、チャロナを!? あ、そう言えば……姫様の故郷はこの国だし。マザーの名前も……」
「? あなたはもしや、姫様のことを……?」
「知っていました。その上で、わざとセルディアスに到着してから離脱させたんです」
「じゃあ……」
カイザーク殿からの指示があったとしても、本意で離脱させたのではなかった?
それがわかって、私はほっと出来たためか。体の力が抜けて、地面に倒れそうになったのをマシュランに受け止めてもらった。
「とりあえず、荷馬車に移りましょう。孤児院は……残念ながら、もう」
「……そうですか」
職員や子供達のことも、もちろん気がかりではあったけれど。もう手遅れであるのなら、私の居場所はないのだろう。
ひとまず、荷馬車に運んでもらうことになりました。
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