119-2.共有①(エスメラルダ視点)






 *・*・*(エスメラルダ視点)







 細くもなんでもない、ひらぺったくするだけのパスタ。


 だが、乾燥もさせずに茹でた後使用すると、チャロナ姫様はおっしゃっていた。


 いったい、どう言う料理なのか。構造は聞いたが、想像がしにくい。


【枯渇の悪食】が去って300年以上は過ぎているとは言え。レシピの大半は一度消失したのだ。


 なのに、姫様はその失われた以前のようなレシピを、蘇らせたかのように。すべてを可能・・にしている。


 パンはその筆頭だが、他の料理も。


 ホムラの出とは言え、そのホムラに近い港町出身のあたいよりもはるかに色々知っている。


 やはり、例の最高神の加護のせいか。なにか、特殊な技能スキルもしくは世界に数少ない所持者しかいない、異能ギフトの持ち主か。


 であれば、すぐに納得は出来るのだが。正直悔しいねぇ?


 粗方仕事を終わらせてから、ラザニアに必要なパスタを試作してはいるんだが。良いものは出来ない。


 もう少し、姫様に詳しく聞けば良かったが、試作したうちのほとんどのパスタが板状に湯がくとぶよぶよしてしまうのだ。


 これじゃぁ、焼き込んでも満足のいく出来にはならないだろう。


 だもんで、一度気分を変えようと作業所の外に出たら、その姫様がサイラと一緒にやってきたのだ。



「チャロナ?」


「こんにちは、エスメラルダさん! 試作してるってサイラ君に聞きました!」


「そうかい。けど、なんか用でもあるのかい?」


「はい! やっぱり実食が一番かなと。パンで代用したラザニアを今晩のお夕飯にするってお伝えに来ました!」


「!? パンで可能なのかい!?」


「はい! けど、試食したんですが。やっぱりパスタの方がいいですね」


「……ちょいとお待ち」


「はい?」



 今の言い方だと、この姫様は食べたことがある口ぶりだ。


 あたいも食べたことがない料理を、孤児として長く他国で過ごしてきたこの女性が食べたことがある?


 やはり、これはまさか。



「あんた。あんたの料理は錬金術の一種だって聞いたけど。いくらなんでもレシピを知り過ぎだよ? 一体全体どこで知ったのさね?」


「え、えーと……」


「料理長とエイマーは当然知ってんだろう? あたいも無闇に口外しないから、教えてくれよ」



 ラスティには口止めされた部分は大半あるが。もう我慢ならなかった。


 別に、旦那様の仲をどうこうするわけじゃないし、いいだろうと姫様の口が動くのを待っていても。


 最高神が、特に手出ししてくることもなく記憶を弄られることもなかった。なら、この答えは聞いてもいいはず。



「あ、あまり言いふらさないでくださいね?」


「ああ、もちろん。サイラ、お前もだよ?」


「う、うっす!」



 まだ近くにいたサイラにも釘を刺してから、姫様はあたいらに近くに来るように手招きして。


 そして、衝撃の真実を伝えてくれたのだった。



「「異能!?」」


「あと……私、転生者なのでレシピは色々知ってるんです」



 しゅん、と大人しく首をすくめた彼女の口から出てきたのは、さらに衝撃的な真実。であるのに、最高神はなにもして来ない。これは、試されているのかもねぇ?



「じゃ、なに? さっき質問した答えは半分嘘だったのか?」


「い、一応旦那様からは口止めされてたから」


「あ、そっか。じゃ、仕方ねーな?」


「お、怒らないの?」


「驚いたけど、別に怒んねーよ? 言い難いことだったんだろ?」


「う、うん」



 まったく、恋仲が出来てから少し大人びてきたねえ?


 あたいの言いたいこと全部言いやがって!!



「んじゃ、チャロナ。あんたの前世……では、そのパスタは一般的だったのかい?」



 とりあえず、本題はこっちだ。



「えっと……そうですね。もともと他国の料理でしたが、私のいた国でもよく食べられていました。冬が多いですけど、年中作ることは出来ましたし。老若男女好まれていたんです」


「そうかい。なら、試作を一度食べてみてくれないかい?」


「わかりました」



 大部分の謎は解けたが、最高神が何故王女以外の理由でこの女性に過保護になってたのか、よーくわかった。


 世界の食文化を揺るがしてしまう存在。


 そりゃ、過保護にもなるさね?

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