117-4.意外な一面だと


「か……カイル、様??」


『でふぅ?』



 なんだろう、いつも異常に顔が険しい。


 もしかして、フレンチトーストが美味しくなかったのだろうか? いや、シェトラスさん達が旦那様に美味しくないものをお出しするわけがない!


 なら、私にお話があるのだろうか?


 とりあえず、じっとしていると……目が合った途端、カイルキア様に両肩を掴まれた!?



「は、はい!?」


「チャロナ。あれはどう言うパンなのだ!?」


「え、えっと?」


「食パンでないのはわかった。だが、あのパンはなんだ?? 朝のもフランスパンと説明は受けたのだが、同じパンなのか?」


「あ、はい……同じパンです。卵をベースにした液に一晩寝かせて置いたものですが」


「!? あれは……革命過ぎた」


「そ、そんなにもですか?」


「ああ。俺のおばあ様のよりもはるかに凌駕していた」


「そ、そんな! エリザ様とだなんて!」


「俺は嘘はつかん。……が!?」



 至近距離でのやり取りに、ドキドキしながら応対していたら。さらにカイルキア様の後ろから何かに引っ張られて、カイルキア様が吊り上げられてしまった。



「な・に・し・て・ん・の?」


「ぐ、レクター!?」


「チャロナちゃんに、そんな距離詰めたら。驚かれるでしょう?」


「う、しかし……!」


「問答無用!」



 そしてそして。レクター先生は、カイルキア様をカーペットの上に正座させて、ガミガミと教師のようにお説教をするのでした。



「あんらもぉ〜〜? レクターが出てくれたから、あたしの出番なしね?」


「マックスさん!」



 先に、悠花ゆうかさんが出てくるかと思ったら、今日はレクター先生の出番だったと言うことか。悠花さんは、お行儀悪くフレンチトーストのお皿を持って。立ったまま、フォークで口に運んでいた。



「専門店顔負けのフレンチトーストが出ちゃうんだもん。そりゃ、カイルも気になってチーちゃんに聞きに行くわね?」


「あ、ありがとう。今回のには、バニラビーンズとかは入れてないけど」


「是非、次はそっちにしてほしいわ〜! プリン感も相まって、さらに美味しくなりそう!」


「あ、プリンだと。一度、フィルドさん達にもらった豆乳でプリンの試作しないと」


「そうね〜? 人手が欲しいなら手伝うわよ?」


「うん!」



 で、カイルキア様なのだが。


 レクター先生のお説教に加えて、慣れない正座でカーペットの上で耐えていたせいか。


 しばらく立ち上がれないくらいに、倒れてしまわれた。ので、悠花さんに俵担ぎさせられて食堂からはご退場に。



「あ〜、びっくりした。レクター先生があれだけ怒るのもだけど。チャロナに問い詰めるのもびっくりした! カイル様にあんな一面があるんだ?」


「……うん」



 食べる手を止めてた、サイラ君とエピアちゃんが互いに頷き合いながら話していた。



「……そうなの?」


「うん。旦那様って、鍛錬以外で熱くなられるとこを見たことがないからだけど。あんなにも、甘いものが好きなの知らなかった」


「……ちょっとだけなら、笑うこともあったけど?」


「「ないないないない!!」」


「え?」



 最近の近況の一部を口にすると、二人には大きく首を振られてしまった。



「【氷の守護者】とか言われてる旦那様がだぜ!? さっきのもだけど、あんま感情的になること少ねーんだぞ!? 笑う……笑うってあんのか!?」


「ちゃ、チャロナちゃんどこで?」


「……えと。この間、カイル様と遠出した時とか。パン食べていただく時とかは割と?」


「「……遠出??」」


「あ」


『でっふ!』



 内緒のつもりではなかったけど、友達組にはまだ打ち明けていないのを忘れていたので。


 二人に問い詰められてしまい、私がカイルキア様とデートしたことや。サイラ君にも、カイルキア様のことを慕っているのもバレてしまったわけで。



「脈ありじゃね? 全員にじゃねーけど、旦那様って女性のこと苦手だったらしいし?」


「エイマーさんやメイミーさんとかは違うけど。使用人の女の人には必要最低限しか言葉かけてもらわないし」


「わ、私がパンを作れるからじゃ?」


「だからじゃね?」


「チャロナちゃんが、旦那様の胃袋掴んだ」


「え、え?」



 嘘、まさか。とは思うけど。


 何故かそれ以上先の事を考えると、頭の奥がチクチクと痛み出して。


 とりあえず。冷めちゃったけど、美味しいフレンチトーストを食べ終えてから。自室で少し休むことにしたのだった。

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