116-4.懐かしいお説教(カイザーク視点)
*・*・*(カイザーク視点)
ああ、少しばかり懐かしさを覚えた。
まだ、王妃様もご健在……いいえ、もっと幼い頃でしたでしょうか?
今の陛下が、まだ王太子殿下になる少し前。
王弟殿下になられる前の、デュファン様も揃いに揃って、侯爵家の姫君でいらっしゃったアクシア様をお誘いになさって。
終いには、殿下同士で喧嘩を始めてしまったので。登城なさっていたエリザベート殿が、叱る場合が多かった。
今は彼らの御子の世代になられたのに、エリザベートがお叱りになられると……どうしてもその光景が重なってしまう。
まったくにもって、歳を重ねたせいか涙が緩みやすいですなあ?
「……いいですか? いくら冒険者を経験されたとは言え、成人していくらかの女性に重労働は許されませんよ? チャロナさんのパンが美味しすぎるとは言え、ほぼ毎日労働させてはなりません!」
「「「……はい」」」
「わかりましたか!?」
「「「は、はい!!」」」
とにかく、姫様のお身体をご考えなさってのお説教でしたが。肝心の姫様はおろおろとし出してしまいました。どうなさったのでしょう?
「あ、あの、エリザ様」
「どうかなさって? チャロナさん?」
「私、孤児ですし。ずっと働き詰めでしたが。そこまでひ弱では……」
「ですが、チャロナさん? カイザーク殿にも伺いましたよ? 熱を出されて倒れられたと」
「! え、でも、あれは!」
「いくら、これまでの経験と前世の事がおありでも。あなたも出自は関係なく、一人の女性だもの。もう少し、ご自分の体を労ってくださいな?」
「……はい」
実は王女だと言う御身分を明かせない今は。カイルキア様の祖母でいらっしゃるエリザベート殿の言葉はとても重い。雇い主となられている、カイルキア様ご本人の言葉よりも重いはず。
すると、私めの隣にいらっしゃった殿下が、『まあまあ』と彼女の間に割って入られた。
「チャロナの風邪がなかったら、俺達も気づかなかったくらいなんだぞ? 貴女も食べたように、彼女の作るパンは美味以上のものだ。カイル達だって、うっかり忘れてしまうくらいだし?」
「……ですけど」
「あれ以来、カイル達も気をつけてたけど。今回は俺達の指南役などを買って出てくれた結果だ。次は、孤児院での定例会だし、俺も気をつけるよ」
「……シュライゼン殿がそうおっしゃるなら」
「うむ」
さすがは王太子殿下として、この爺めがお世話させていただいた方。いたずらっ子な部分はあれど、きちんと姫様の兄君として、エリザベート殿を諭されました。
なので、お説教はここまでにして、お茶会を再開されたのですが。
「まあ、これがわたくしの作ったパン? 今までのと比べられないくらい美味しいわ!」
「やはり、捏ねすぎと発酵に具合。あと、打ち粉のつけ過ぎに原因があったかもしれないですね?」
「……本当に。その注意点を意識しただけで、こんなにも違うだなんて」
「けど、一回で出来る様になったのは流石です!」
「でも、帰宅してから気をつけなくては」
まるで、祖母と孫。
そんな雰囲気でいらっしゃるお二人の間には誰も入れなかった。
やはり、同じ
同じ女性としてか。
意気投合なされたお二人の間には、たしかな絆が生まれたようでしたとも。
「この白パンには、茹でたとうもろこしを混ぜたり。ペポロンやかぼちゃをペーストにしたのを混ぜ込むことも可能です」
「是非、レシピを教えてくださらない?」
「じゃあ、ロティを使って召喚させますね?」
「ロティちゃんを?」
『にゅ! ん〜〜〜
と、ロティちゃんが両手を広げたところから、光の線が出来上がり。紙がひとりでに出てきて、エリザベート殿の前に舞い降りたのだった。
「まあ、この紙の手触り……どこかで?」
「リーン様にお渡しした、アイスクリームのレシピと同じ紙です」
「そうなの。まさか、そんな仕組みだったとは」
「今のところ、カイル様やシュライゼン様以外ですと。リーン様にしかお渡ししていません」
「賢明な判断だわ」
そして、レシピをよく読まれてから、彼女は簡易ドレスのポケットに仕舞いやすいように畳んだのだった。
「えと、何か聞いておきたいこととかはありますか?」
お茶会も終盤となったので、姫様がそうおっしゃいました。
「そうですな。二回に分けての発酵。特に、生地を形作ってからのふくらみ加減は」
「俺も、それ聞きたいんだぞ!」
「そうね。わたくしも」
「えっとですね」
途中、シェトラス殿とエイマーが使用人達のおやつを配膳するのに席を立ったが。
私め達は、姫様に出来るだけパンの知識を教えていただき、帰ってからの課題を増やすことにしました。
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