109-2.親子が揃う(カイルキア視点)






 *・*・*(カイルキア視点)









 父と母が来ると、知らせは受けていたのだが。


 とっくに帰ったとメイド長のメイミーからも、聞いてはいたのに。


 何故か、いきなり執務室に父の転移魔法でやって来られた。


 しかも、意味深な笑顔で。



「……姫との茶会は終わったと聞きましたが?」


「あら、つれない息子ね? 姫様とは楽しい楽しい逢引きデートをされたのでしょう?」


「……母上。すべて姫に聞いたのですか?」


「もちろん、僕も一緒に全部」


「……はぁ……」



 姫は最高神の計らいを知らないでいるから、実は俺が告白しようとしてたこと以上の事実すら忘れてしまっている。


 俺や周囲の人間は、何故か不完全な記憶の封印による口止めをさせられてしまっている。加えて、マックスから聞いたが、真実の一端でも話そうとすると口を強制的に閉じられてしまうそうだ。ただし、姫の前だけで。


 さておき、誰だこのお節介夫婦に、俺や姫の気持ちを話したのは!



「あ、話してくれたのはリーンだから?」


「……あいつ」


「妹を責めるのではないわよ、カイル? いいじゃない、アクシアとの約束を果たせるでしょう?」


「……それは」



 やはり、母は亡き伯母上とは従姉妹同士であったから、彼女の生前の頃に色々話し合いをして俺の気持ちすら筒抜けであったようだ。



「姫の気持ちもだが、何故両想いなのに告げていないんだい?」


「……父上。陛下やシュラから、最高神の話は聞いていますか?」


「……いいや」


「……まあ、どう言うこと?」



 この時点で、最高神からの妨害がないと言うことは二人には秘密をいくらか話しても問題はないと言うことか。選別対象が、おそらく俺の身内であり、父は元王弟だったからか。



「……俺と姫の。気持ちを交わすことが最高神により、止められています。今はまだその時ではないと、神託も」


「まあ、何故?」


「想い合う気持ちはあれど、最高神には何か都合があるようだね?」


「ええ。その都合により、俺からも無闇に言えませんでした。実は、姫と遠出に行った時に告げようとしてもやはり」


「……そうか。それでは、すぐに姫を安心させてはあげられないんだね?」


「神託からいただいた情報は、時期が来るまで待て。姫とはいずれ心を通わせられると」


「まあ……では、姫様のお気持ちは無駄にはならないのね?」


「……おそらくは」



 あの神託が本物であれば、俺と姫はいずれ結ばれる。


 それが、早くて成人の儀なのか、それ以降なのかはわからないが。俺も、姫も、自分の気持ちを無駄にしたくはない。


 本音は、今すぐにでも告げたいのだが、最高神により止められてしまい、毎回なかったことにさせられている。


 いつになれば……と焦ってしまいそうになるが、こればかりは。



「……うんうん。了承したよ? けど、姫のことはもうお前の嫁のつもりでいるからね?」


「……は?」


「ふふ。女っ気のないあなたのお嫁さんには、もったいないくらいだけど。想ってもらってる上に、お母様以上の料理上手の女性よ? お嫁に来て欲しくないだなんて思わないわ〜」


「は、母上?」


「それに。お前が義姉上に宣言してた時に、僕と兄さんが決めてた……自分達の子供を結ばせる約束も果たせるよ! これは全力で取り掛かる!」


「ええ、旦那様!」


「帰ってください!」



 たしかに、その話は幼い頃になんとなく聞いた覚えはあるが。まさか、今まで反故されていないとは思わないでいた。


 無理矢理、転移で帰らせてから、ずっと部屋の隅で待機していたレクターには苦笑いされてしまった。



「大旦那様と大奥様……相変わらずお元気そうだね?」


「……元気どころですまん!」


「ふふ。けど、いいじゃない? 姫様のこと応援してもらえるなら」


「……無事に告げられた直後に。婚約式まで開くつもりでいるだろうな」


「あー、あり得そう!」



 だが、俺的にはそれは悪くないと思い始めていた。


 結婚のと違い、純白ではないにしても美しく着飾った姫……他人に見せたくないと囲ってしまいそうだと、己の煩悩を振り払った。



「……とにかく。生誕祭と成人の儀に向けて……俺も贈り物を考えねば」


「あ。それなら、ダメ元でも一番のがあるじゃん?」


「一番?」


「カイル自身」


「……最高神が何もして来なければ、だが」


「だから、ダメ元」


「…………」



 別で用意はしておくが。


 本当にそれでいいのか? と少し悩むのだった。

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