107-3.うっかりさん? が
*・*・*
乗馬にも少し慣れたのか、周りの景色を見る余裕も出てきた。
多分だけど、カイルキア様に見つけていただいた森の中かもしれない。結構経っているが、カイルキア様の領土の一部だって言うことはエイマーさん達から教えていただいたし。
もしかして、と思っても今は二人っきり。
あれから好きになるだなんて、テンプレ王道ルートに乗っかってしまったのは自分でも驚いているけど。
でも、その……好きになってしまったのは仕方ないと思う。
美貌もだけど、表情に出ないとは言え、気遣いはとても出来る方だもの。あの日目が覚めてからもだけど、無理のない範囲で働かせてもらっているし、今だってゆっくりジークフリート君の手綱をさばいて目的地である滝に向かっている。
こんな方、モテないはずがないのに。例の行方不明なままだった婚約者さん以外女性の影がないだなんて。
ちょっと、信じられない。
けど、勝手な想像だが、カイルキア様の性格を考えると社交界とか苦手そうだし。派手な女性は好みではないかと。
私の場合、どっちでも当てはまりそうにないから、相手には……されてないよね?
けど、皆さんに聞かされてきた、女性の扱いに不自由な方にしては、私なんかをデートに誘う、のは。
(あれ、自分のことだけど。これってフラグ立っているの!?)
異世界転生者達のテンプレ王道ルートである、恋愛ルート。
その攻略相手がまさか、カイルキア様?
ま、まさかね……? と思っても、ここには
悶々と考え込んでいたら、カイルキア様に肩を軽く叩かれた。
「……着いたぞ」
「え?……うわぁ」
いつのまにか到着していたところは。
緑が豊かな、自然に囲まれた滝。
岩場もそんなに大きくなく、下の川は魚がすいすいと泳いでいる。
かなり上から落ちてくる水と、その勢いで吹く風は涼しくて心地よく。
避暑には、絶好の穴場だった。
「たまに、この辺りで鍛錬した帰りに寄る程度だが。気に入ったか?」
「はい! 綺麗ですね!」
「……そうか。しばらく涼んで行くか?」
「はい!」
そうして、下ろしていただいてから。早速、川の水を触りたくて走ってしまう。
手を水につけると、夏場でもぬるいどころか、冷たくて気持ちが良かった。
例のパーティーにいた頃は、メンバーにいた魔法師の女の子とかが、川遊びとかしてたっけ? その間、私は炊事に洗濯……うん、悲しいから思い出すのやめとこう。
それに、今日はカイルキア様との遠乗りだ! 子供っぽい遊びをしにきたわけじゃない!
「……釣り道具があれば、釣りも出来たな?」
と、こっちもこっちでデートと言うか、遊びにきた感覚なのかカイルキア様も悩んでいらっしゃった。
「釣り、なされるんですか?」
「冒険者だった頃は、日常的にしていたな?」
「なるほど」
そう言えば、この方も冒険者だったんだ。
悠花さんも、フィーガスさんもだけど、なんでお貴族様が冒険者に?
なんとなく、聞くタイミングを逃していたけど、カイルキア様に聞いていいかな?
「あ、あの。カイル様」
「なんだ?」
「あの。悠花さんにも聞いていないんですが、どうしてカイル様も冒険者に?」
「……そのわけは、悪い。今は話せない」
「そ、うですか」
複雑な事情があるかもしれない、なら残念だ。
多分、悠花さんやレクター先生も話してくれないかもしれない。
ちょっと、落ち込んでいると頭に温かいものが触れてきた。
「機会が有れば話す。それまで待っててくれ」
「……はい!」
カイルキア様が撫でてくださっただけで、元気が出るだなんて私ってばちょろ過ぎる!
けど、元気にはなったので、涼むために場所移動しようとしたら、うっかり低いヒールのついた靴で石につまずき。
そして、これまたうっかり、カイルキア様に受け止めていただいたのだった!
「す、すみません!?」
「……いや、怪我はないか?」
「だ、大丈夫です!」
「……そうか」
あ、あの。何故ですか?
もう大丈夫とわかっているのに、背中に回された腕が離れません。
逆に、私が離れようとしたら、何故かキュッと抱きしめられた!
コレハ、ナンノゴホウビ??
「か、カイル……様?」
「……すまない」
え、何が? とツッコミたくても、今度は苦しい一歩手前の力で強く抱きしめられてしまったので、私はキャパオーバーで口をハクハクするしか出来なかったのだった。
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