103-1.親バカ再発動(シュライゼン視点)






 *・*・*(シュライゼン視点)







 あーあ、あーあ。


 言いたいのに言えないのが歯痒いんだぞぉおおおお!!!!


 ちょっと、うっかり口を滑らせかけたけど、マンシェリーは自分が貴族の家の子じゃないだろうと、両親を調べることについては消極的だった。


 それどころか、自分がいらない子だったかもしれないと思うだなんて!


 あーあ、神からのお告げを母上が受けていなければ、それを爺やが受けなきゃ、ずっと一緒だったかもしれないのに。


 けど、そうすると、今のように生活は出来なかったかもしれないから、俺にとっては歯痒いんだぞ!


 とりあえず、今日の目的はすべて終わったので、報告も兼ねて父上の執務室に転移したんだが。



「な……んだと?」



 マンシェリーに、建国伝承を話した後の状況を伝えたんだが、父上は羽根ペンをぽろっと落としてしまい、ガタッと椅子から立ち上がった。



「ほ、本当にマンシェリーがそんなことを言い出したのか!?」


「嘘じゃないんだぞ。孤児だった自分がいらない子だったかもしれないって思うのは、実際孤児・・だったあの子が思っても無理ないんだぞ」



 俺もあの時否定はしたんだが、考えてみればそうだ。


 マンシェリーを育てたマザーは真実を隠しているし、それを知らなければ、自分は赤児のままいらない子だと孤児院に捨てられていてもおかしくはない。



「……陛下。それは私めの」


「……いいや。アクシアが受けた神からの神託。それがあったからお前を責めることは出来ん」


「しかし、姫様をそこまで追い詰めてしまったことに」


「けど、爺や。でなければ、今のマンシェリーには成長しなかったんだぞ。【枯渇の悪食】によって、失われたレシピを復活させられなかった」


「そ、それは、そう……ですが」


「そこも、神にとっては我が娘だった方が都合が良かったかもしれない。だが……」



 あ、このあと父上の言いたいことが予想つくんだぞ。



「だが、要らない子などあり得んんんん!!!!! お前は俺とアクシアの子供なんだぞ!!!! 当時とて待望の姫と言われて、国は喜びで溢れかえっていたんだぞ!!!! く、すぐに言えないのが悔やまれるぅうううう!!!!」


「父上、うるさいんだぞ!!」


「ですが、その通りですしね……」


「そうだけど」



 これではただの駄々っ子ではないか。


 ああ、あとひと月に迫った、マンシェリーの生誕祭と成人の儀が気になって仕方がないんだぞ。


 と言うか、あとひと月しかないんだぞ!



「爺や、マンシェリーにはなんと言ってこの城に来てもらうべきか」


「そうですのぉ。授賞式とはまた違いますし、決めた側とは言えなんとお告げすればいいのでしょうか? まさか、王女様であられる真実をいきなりお告げするのは難しいですし……」


「うーん」


「なんだ。簡単なことだ。俺がマンシェリーにこの国の食文化の発展に力を貸してくれと告げたんだ。なら、そのための式典を開くことにすれば良い!」


「いきなりかい!?」



 たしかに、それは以前マンシェリーに直接伝えて了承は得たんだが。


 強固派が未だ潜むこの城内に、それを告げて大丈夫なのだろうか?


 まあ、あいつらは英雄王である父上には基本的に逆らわない。基本的には。


 ソーウェン帝国の脅威を退けて、あまつさえ従属国にさせた手腕を持つ父上には、あの馬鹿どもは基本的には逆らえない。


 だから、母上の亡き後も、後妻とも言われる王妃を娶らすことが出来なかった。愛する人は、唯一無二であった母上だけだったから、父上に王妃の後釜を据えるなどとても出来なかった。


 と言うのは表向きの理由で、実際は母上以上の女性などいない! と断言して全部のお見合いを蹴っただけなんだけど。


 今は年も年なのであれらはもう諦め半分ではあるが、失われかけてた、行方不明だった王女がいると知ればどうなるか。


 すぐに、とはいかずしても友好国の王妃に望む連中も出てこないとは限らない。


 マンシェリーとカイルは想い合っているんだぞ!


 絶対そんなことはさせないんだぞ!


 と、考えが脱線したが、いきなり王女と告げるよりはずっと良いかもしれない。


 あの馬鹿どもにも、牽制するいい事になりそうだし。



「表面上は、それで良いかもしれませぬな。いきなり王女様であられることと、生誕祭をお告げされますと、あの方は混乱されかねますから」


「半月後に、カイルキアの屋敷に招待状を出す! それでいいだろう!」


「であれば、お兄ちゃんの俺が持って行くんだぞ!」


「よし!」



 それと、今日の米の炊き方がうまくいったので、一旦俺はつけ置きしておいた米でささっと炊いてから父上達におにぎりを作ったんだぞ。具は鮭がなかったから、塩のみなんだぞ。



「! これは」


「実にシンプルですが、とても美味しゅうございますぞ!」


「これが、米本来の旨さか……」


「近いうちに、シュィリンを伴ってホムラに行ってくるんだぞ!」


「そうだな。あの国の主食がこれで改善されれば……米の需要が高まり、粉以外の使用法も高まっていく」


「マンシェリーはオムライス以外に、カレーと言うのがあるって言ってたんだぞ!」


「「カレー??」」


「ちょっと辛いんだけど、美味しい料理らしいんだぞ!」


「むむ。食べてみたいな……」



 その時に俺が行けるかはわからないけど。


 あのホムラ……マンシェリーが過ごしてきた国の皇子は、日々主食がマンジュウばかりで困ってたと言ってたんだぞ。


 手紙はもう送ったが、返事はまだない。


 きっと信じれない部分が大きいだろうが、俺が納得させるんだぞ。


 我が妹のおかげで、美味しいお米を食べられるのが実証出来たのだから!

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