102-6.不釣り合いなわけがない(マックス《悠花》視点)






 *・*・*(マックス《悠花ゆうか》視点)








 んま、大変じゃなぁい。


 転移が成功したけども、力が抜けたのか腰砕になっちゃって立ち上がれないのって。


 慌てて、あたしの気配を辿って、カイルの執務室にいたあたしに飛びつくようにやってきたロティちゃんには驚いたわ。


 とりあえず、カイルは執務があるからとレクターと置いてきて、シュラとレイと一緒にチーちゃんの部屋に向かったけど。



「うーん。遠距離はやっぱり無理あったかなあ?」


「あんたはガキの頃から使いまくってんでしょ?」


「まーね?」


『でやんす』



 五、六歳の頃からバンバン、王城内外、従兄弟であるカイルの屋敷に行ったりきたりしてるから、初心者のチーちゃん自分の妹とは違って体に感覚が馴染んでて当然。


 フィーの教え子でもあるし、元から筋がいい。


 だから、チーちゃんとは違って転移使用後の反動がないに等しいのだ。


 けど、チーちゃんは今回初体験だから、体がついていかなかったのだろう。


 訓練のためとは言え、先にその説明をすべきだったわね。


 とにもかくにも、元凶の一端? を担うシュラに回復魔法をかけてやることになったので、レイが抱っこしている、涙を流したままのロティちゃんをあやしながらチーちゃんの部屋に行けば。


 中に入らせてもらうと、まだ動けないままのチーちゃんがカーペットの上に座り込んでいた。



「チーちゃん!」


「チャロナ、大丈夫かい!」


『ご主人様ぁ〜』


「た……立てないんですぅ」


「今回復魔法をかけてあげるんだぞ!」



 今はなんともなくとも、シュラだって習い始めの頃は覚えた感覚だったのか。チーちゃんのズボンの上から手をかざして魔法を施し。


 手を貸してやれば、なんとか立てるようになったのだった。



「ありがとう、ございます」


「俺も悪かったんだぞ。遠距離の場合は慣れないうちじゃ体に負担がかかるって」


「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで」


「そうかい?」



 ああ、ああ。


 ほんと、チーちゃんの服装をしっかりしちゃえば、似たもの兄妹のツーショットでしかないのに。


 あとひと月くらいだからって、チーちゃんが王女様だって言えないのが歯痒いわぁ〜。



『ご主人様ぁああああ!!』


「ロティ」



 レイの抱っこから抜け出したロティちゃんは、顔をぐしゃぐしゃにしながらチーちゃんにダイブして行った。


 ちょっと大きくなっても、まだ二、三歳くらいの大きさだから、若い母親が子供をあやしているように見えるわねぇ?



「あ、そうだ。悠花ゆうかさん」


「なにー?」


「シュライゼン様にも少し聞いていただきたいんですが」


「ふむ?」


「私……記憶が戻る以前と今とじゃ。持てる技能スキルが違い過ぎるのはもちろんなんですけど。使えなかった魔法や錬金術まで使えるようになって」


「「うん」」


「ウルクル様にお聞きしたらわかるかもしれないですけど。神様方は私になにをさせたいのか。正直わからなくて」


「「む」」



 頭の良い子だから、やっぱりそこに気づいたのね?


 あたし達も気にしていなかったわけじゃないけど、あのフィルドを含める最高神らしき神のことを、ここでチーちゃんに告げたら、きっとこれまでにないくらい、記憶の封印をさせられるに違いない。


 けど、はぐらかしてうやむやにさせるのもよくない。


 どうする? とシュラに目配せしたら、バチコーンって音が鳴るくらい自信のこもったウィンクを見せられた。



「チャロナ、いーい話をしてあげるんだぞ」


「お話、ですか?」


「うむ。この国の神話のような話になっているが、ホムラでも聞き覚えがあるかもしれない」


「はあ」


『でっふ?』


「創世神話でも話す気?」


「いいや、加護の部分なんだぞ」


「神話、ですか?」



 そして、シュラは語り出した。


 枯渇の悪食よりもっともっとはるか昔のセルディアス。


 農耕の地として栄えていたセルディアスに、ようやく代表となる王族が選出された。


 その王族には、神々の中でも最高神と呼ばれる神に、祝福の名を一部の縁戚も含めて与えられるようになったのだ。


 子々孫々、繁栄の意味を込めて、持てる技能スキルや選ばれし民にも、異能ギフトを惜しみもなく与え。


 やがて、他国にも負けない大国に発展したのだった。



「その初代国王が、アルバート=ガイウス=セルディアスなんだぞ」


「元は、農家のお人だったんですか?」


「そう。その中でも、村長のようなまとめ役を担ってたらしいんだが、神のお目にかなって様々な技能スキルを与えられたそうなんだぞ」


「でも、私はホムラの出ですし」


「そうとも限らないんじゃないかい? 君の髪色は俺とも似てるが、この国じゃ王侯貴族の中でも珍しい髪色だ。ひょっとしたら、その中に両親が居るかもしれないんだぞ?」


「え」


「シュラ!」



 あんた、下手したら自分が兄貴だってことバラすようなきっかけ作ってどーすんのよ!


 けど、衝撃の言葉を受けたチーちゃん本人はぽかんと口を開けているだけだった。



「わ、わ、私……が、貴族かもしれ、ないですか?」


「可能性として、なんだぞ。なんなら、俺が調べてやってもいいんだぞ?」


「え、いえ。そこまでは」


「ん?」


「いーの? チーちゃん?」



 実は目の前にいる男本人が、血の繋がった兄貴だとか。


 あんたに二つも手製のぬいぐるみを作ってあげたあのおじさんが実の父親で、この国の王だとか。


 カイルが実は、あんたと婚約(仮)させられているとか。


 全部全部、スッキリわかって、カイルと結ばれるかもしれないって言うのに。


 なんで拒否するの?



「えっと……無理に知りたくないんです。もしかしたら、私……いらない子じゃないかもって」


「なんでなんだい!」


「ぴゃ!」


『ぴょ』


「あたしは止めないわよぉ」



 シュラが思わず抱きつくのも当然だわ。


 チーちゃんは、赤ん坊だった当時の記憶がないんだから、あの時何があったかも知らない。


 自分達の母親を敵国の奴によって殺されたのだって……知らない。


 だから、いらない子だっただなんて、事実は絶対ない。


 王妃様が、体を張って守った命なのよ?


 絶対そんなことあり得ない!


 けど、今は……言えない。



「こんなにも可愛い子がいらない子だなんてあり得ないんだぞ! 君は自分のこととなると、本当に考えが消極的なんだぞ!」


「けど、実際数年前までは孤児でしたし……」


「この国の現国王の国母は、孤児だったんだぞ! その方のようになれとまでは言わないけど、身分どうのこうのと実力は関係ないんだぞ! 今のチャロナは国から授賞されたのだから、貴族と大差ないって前に言っただろう?」


「でも……」


「んもう、チーちゃん。カイルあんな奴だけど、見た目はパーフェクトなのよ? 社交界の女共にとられてもいいわけ?」


「嫌!」


「「!?」」



 あたしがやけくそになって言った言葉に、チーちゃんは即座に否定した。


 けど、一番驚いているのはチーちゃん本人だった。


 思わず、自分の口を手で塞いでいた。



「わ、私……なにを」


「チーちゃん……」



 本能はやっぱり諦めたくなかったのかもしれない。


 表面上はいくら消極的でいても、心までは嘘をつけない。


 なら、あたしは無理にでも背中を押すまで!



「そーいや、カイルと遠出に行くのよね〜?」


「なんだい、なんだい! その楽しそうな企画は!」


「尾行はバレるから無しよ。それより、チーちゃん。告白は無理でももっと距離を縮めたら?」


「きょ、距離?」


『チャロナはんに出来るでやんすか?』



 ずっと端で黙ってたレイも、さすがに口出ししてきた。



「無理じゃなくて、すーるーの! 年頃の男女が二人っきりで遠出よ? 何かあっておかしくないわ。あー、ついていけないのが歯痒い!」


「ついてこないで!」


「じゃ、チーちゃん。カイルと二人っきりで長時間話せる?」


「が…………頑張る」


「よし!」



 当日は、メイミーと一緒に着飾るわよぉおおお!


 とりあえず、一旦カイルの執務室に行って体調は戻ったことを伝えてから、遠出は明後日になることに決定したのだった。

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