102-4.第三回パンケーキ教室②(ターニャ視点)
*・*・*(ターニャ視点)
なにこれ、なにこれ!
卵の白い部分の時もそうだったけど。ホイップってこんなにも作るのが難しかったんだ……。
「ターニャ、大丈夫?」
「ケーミィこそ」
クラットがケーキを焼いている間に、チャロナお姉さんの指示でホイップ作りをしてるんだけども。
さっきのメレンゲだけでも相当疲れたのに、このホイップ作りは大変!
いくらかき混ぜてもドロドロしたまま。
お姉さんはやっぱり、すっごい!
パンもだけど、なんでも出来ちゃうんだー……。
「慌てないで、ゆっくりゆっくり」
「「チャロナお姉さん!!」」
私達の班のところまで、お姉さんがやってきてくれた。
「しっかり、氷水で冷やしながら混ぜれば、綺麗なホイップクリームになるよ?」
「けど、まだドロドロです……」
「う〜ん。ちょっと貸して?」
「「はい!」」
お姉さんに私の方のボウルを手渡すと、私達が見やすいようにゆっくり……けど、シャカシャカと小気味良い音を奏でながらクリームを混ぜていく。
そして、分けて入れてた砂糖を少し加えただけで、シャバシャバしてたクリームが少しずつトロトロになっていった。
「「す、すごい!!」」
ケーミィと一緒に声をあげちゃったけど、お姉さんは私達ににっこりと笑顔になるだけだった。
「氷水でしっかり冷やして、その部分をしっかり混ぜたら出来るよー?」
「は、はい!!」
なので、自分達でもしっかり混ぜてみると……あれだけ頑張ってもトロトロにならなかったクリームが少しずつトロトロになってくれた!
「チャロナお姉ちゃーん。これまだひっくり返しちゃダメ?」
「どれどれ?」
次にクラットに呼ばれて、お姉さんはそっちに行っちゃったけども。
私とケーミィも少し気になったので横から覗かせてもらった。
「これが」
「ケーキ?」
たしかにふわふわしてるようには見えるけど、たまにマザー達が買ってきてくれるのとは全然違う。
丸くて小さくて、少しふっくらしてるような、そんな感じ。
表面が少し乾いているので、ひっくり返してもいいような気がするけども。
「うんうん。いい感じだね? じゃあ、フライ返しでゆっくりとひっくり返してみて?」
「う、うん」
お姉さんに言われて、クラットが慎重にケーキをひっくり返すと、綺麗な茶色に焼けたケーキが出来上がっていた。
「「美味しそう!!」」
「両面が綺麗な茶色になったら出来上がりよ? あんまり時間もないから、ホイップ作りも頑張ってね?」
「「「はい!!」」」
そこから一生懸命、一生懸命にホイップをかき混ぜていき、ケーミィと頑張っていくうちにトロトロから少し硬めの綺麗なクリームが出来上がった。
ちょっと、クラットも混ざって味見したらすっごく甘くて、前にマザー達が買ってくれたケーキと同じくらいに美味しかった。
これを今日は独り占めくらいにたっぷり食べられるだなんて。夢みたいだけど、目の前にある美味しそうなものは本当に自分達で作ったものだから夢じゃないんだわ!
「お、軽い!」
ずっとケーキを焼いているクラットは、ケーキを皿に乗せていく時にそんな声を上げた。
見た目、少し重い感じがするケーキだったが実際に焼くと軽いらしい。
ホイップ作りや片付けが終わった私とケーミィも挑戦してみたいと言ったら、すぐに交代してくれた。
「スプーン一杯と少しを、フライパンに載せて」
クラットの説明を聞きながら、最初は私が焼く係をした。
焼く前に、熱くさせたフライパンを濡れた布巾の上で冷ましたりとやることは多いが。これも美味しいケーキを食べるため。
次にフタをしてからじっくり焼いて。
しばらく待ってから、フライ返しで焼き色を確認してからひっくり返して。綺麗な茶色になったらまた同じようにして焼く。
簡単そうに見えて、これは待ち時間と焼き加減が難しい仕事だ。
「お、もういいんじゃね?」
言われてひっくり返したら、クラットと同じように綺麗な茶色に焼き上がっていた。
うまくいって、ケーミィとやったやったと飛び上がったら、マザー達にやけどするからと叱られて少し反省。
けど、他の班の子達も似た感じになってたから、ほぼ全員で反省。
焼き上がったケーキは、とりあえずひとりにつき三枚載せてから……そこにたっぷりのホイップを載せて。
あとは、夏だけど木苺や苺を洗ってヘタを取ったのも載せて。
「「「うわぁあああああ!!!!」」」
自分達で作った、初めてのケーキ作り。
お姉さんが言うには、見た目は合格点、と言ってもらえたのであとは食べるだけ。
全員盛り付けまで出来上がったら、感謝のお祈りをして。
『『『いただきまーす!!』』』
フォーク片手に、ケーキに刺してみると。
「あ」
「あ、あれ?」
なんだか、泡を触ったような感じがフォークから伝わってきた。
なんだろうともう一度刺してみてもそれは変わらず。
試しに、ホイップをたっぷりつけてから口に入れてみれば。
『『『んんんん!?』』』
「普通のケーキじゃなーい!」
「泡みたーい!?」
「ふ、ふわふわ!」
そう。
皆が言うように、ケーキはふわふわだけど、口に入れたら泡みたいにシュワッとしたのにすぐに溶けちゃって。
けど、後から甘いのがやってきて、自分達で作ったホイップが優しく包み込んでくれる。
まるで、お母さんに優しく抱きしめられているような……。
「た、ターニャ。どうしたの?」
「え?」
ケーミィに言われるまで気づかなかったが、どうやら泣いてたみたいで。大丈夫と返事をしても心配してくれたのだった。
「お母さんを、ちょっと思い出して」
「優しい味だもんね。私も思い出したよ」
もう会えない、たったひとりのお母さん。
だけど、あの戦争で死に別れていなければ、今日のようなお菓子作りは出来なかった。
辛いけど、もう会えないけど、だから今がある。
昔出会った、お貴族様が言っていらしたけども。
「……あ。私、公爵様と一回会ったかもしれない!」
「「え??」」
「ここに来たばかりの時に、綺麗なお貴族様に会ったことがあるの!」
笑うことはなかったけど、温かい言葉をくれた綺麗な男の人。
アイリーン様のお兄様である、ローザリオン公爵様かもしれない。
「ふむ。カイルは、ときどーき、ここに来ることもあるからね? 怖い顔してるけど、悪い奴じゃないんだぞ」
「「「シュライゼン様!」」」
アイリーン様に聞こうとしたら、シュライゼン様がやってきて私の髪を優しく撫でてくださった。
「うんうん。頑張って美味しいケーキが出来たんだぞ。どうだい、自分で作る大変さを学んで」
「「「とっても難しかったです」」」
「けど、楽しかったです」
「私も」
「俺も」
「うんうん。俺もチャロナにはパン作りを教わっているんだけど、まだまだ難しいんだぞ。いつか、皆も出来るようになれればいいんだけど」
「「「はい!」」」
こんなにも美味しいケーキもだけど。
あんなにも美味しいパンが作れるお姉さんは本当にすごい。
アイリーン様のようにお貴族様なのかと思って、お礼と一緒に今日は勇気を出してケーミィと聞きに行ったんだけど。
「ううん。私も孤児だったの。ここじゃなくて、ホムラ皇国って言うところだけど」
「そうなんですか?」
「普段はどこにいるんですか?」
「ローザリオン公爵様のところでパンを作ってるの」
「「へー!!」」
だから、コカトリスの卵もたくさん持ってきてくれたのだろうか?
とにかく、食べ終わったら、全員でまたケーキを焼いては食べるを繰り返し。
お腹いっぱいになるまで食べたけど。
焼くのに失敗したのは、フェリクスお兄ちゃんでした。
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