100-3.お兄ちゃんの勘(シュライゼン視点)
*・*・*(シュライゼン視点)
ふむふむふむ。
ふむふむふむ!
これはお兄ちゃんの勘が働くんだぞ!
シュィリンは自分の気持ちを押し殺したとは言ったが、もしかして一度は気持ちを伝えたかもしれないと。
だが、
なら、いったいなんなのか?
優しく問いかけながら、紅茶のカップを渡してあげると……マンシェリーは、小さくため息を吐いたが。
「あ、あの……」
「うん?」
「しゅ、シュライゼン様は……知っていたのですか?」
「なにについてだい?」
「そ、その……わ、わわわ、私が」
「うん?」
「か……カイル様をお慕いしている、のを」
「うむ!」
そう言えば、俺自身が二人の想いを知っていると言うことは直接マンシェリーには告げてなかったんだぞ!
と言うことは、シュィリンにも知っていることを言われて、告白しないか云々を話した後に……この子特有の自己嫌悪に陥ってしまったかもしれない。
なるほど、なるほど。
なら、お兄ちゃんが全力でフォローするんだぞ!
「わ、私……そんなにもわかりやすいですか?」
「うむ。君のカイルに向ける眼差しは特にわかりやすいんだぞ。しかし、カイルが公爵だからって、諦める理由にはならないと思うんだが?」
「い、色んな人にも言われましたが……振られるんじゃないかなって」
「自信持っていいんだぞ? チャロナは可愛いんだから」
「あの……皆さんにも言われるんですけど、私可愛いんですか?」
「んん゛ん!?」
な ん だ っ て!
我が妹の口からとんでもない言葉が出てきたんだが?
母上のことを覚えてないにしても、知らないにしても……自分の容姿の素晴らしさを知らない、だと?
鏡は普通に見るはずなのに、自分の顔立ちを理解してない?
なんでだ!
(いや……待て待て。たしか、マックスから聞いたような?)
それと、リーンも気づいたらしい。
いくら周りが告げてみても、化粧させられる以外マンシェリーは自分の容姿に自信がなさ過ぎると。
それは、もしかしたら例の最高神の仕業かもしれないと。
「あの……皆さんは可愛いとか綺麗とか言ってくださるんですけど。自分じゃよく分からなくて」
「俺は思うんだぞ! 君は綺麗で可愛いんだぞ! カイルの隣に立っても申し分ないんだぞ!」
「え、そこまで?」
「うむ。誰かに言われたのかい?」
「い、いえ。その…………前にいたパーティーの子達の方が可愛かったり綺麗だったんで」
「む。その子達になにか言われたのかい?」
「い、いえ。特には」
「じゃあ、自分の可愛さを決めつけてはいけないんだぞ?」
ぽんぽんと髪を撫でてやってから、俺は自分の手にしてた紅茶のカップをあおった。
「決めつけて……?」
「たしかに。君の周りの人間は程度は問わずに、外見が麗しい人達が多い。けど、他人は他人。自分は自分だ。この間のカイルとの散歩の時に、あいつからなにが言われたりしなかったかい?」
「こ、の……間!」
あー、ひょっとしたら思い出したかもしれないんだぞ。
カイルが……あのカイルが!
女性の髪を撫でただけでは飽き足りずに、求愛の情を見せたりと。
あれは俺も驚いたんだぞ。
従兄弟が、好意を抱いた相手とは言え、あんなにも素直な求愛行動をするだなんて。
マンシェリーもそれを思い出したのか、顔を真っ赤にしながら俯いた。
「んふふ〜。俺も覗き見したあれはすごいと思ったんだぞ?」
「け、けど。あれは私を励ましてくださって」
「それにしたって。あの堅物が女性の髪に無闇に触れたりしないんだぞ。リーンですらそうそうないのに?」
「え、リーン様でも?」
「年の離れた兄妹でも、カイルがああいう性格だからスキンシップは赤ん坊の頃だけさ」
「けど……カイル様には昔、婚約者様がいたって聞きました」
「あ、うん。未だに見つかってないけどね?」
どこから聞いたのか、マンシェリーは『自分』が探されていたのを耳にしてしまったようだ。
口ぶりから、まだ詳細はバレていないのにほっと出来たけど。カイルが未だにマンシェリーを気にかけているのだろうと思ってるのかもしれない。
でも、まだ言えない。
実は婚約者が
そして、打ち明けるあとひと月後に、ひょっとしたら結ばれるかもしれないこと。
俺としては、妹の不安を取り除くのに打ち明けたいんだが、自分で提案したのだからそういうわけにもいかない。
だから、ここは。
「チャロナ、婚約者のことはともかくとして。君はカイルを好いているんだろう? その気持ちは大事にした方がいいんだぞ」
「……いいん、でしょうか?」
「俺以外にも色々言われてるかもしれないが、好きな気持ちは諦めちゃいけないと思うんだぞ」
「でも。強固派のこともありますし」
「あれは根絶やしにするつもりでいるから、ぜんぜーん気にしなくていいんだぞ?」
「そ、そうですか」
城内外、アルフガーノ家やその周辺。
まだまだ根付いてる、あの偏屈頭達にはお仕置きが必要なんだが。
マンシェリーとカイルの恋路は絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対ぜぇーったい、邪魔させないんだぞ!
「だから、チャロナ。君は堂々とカイルのことを好きになって構わないんだぞ。むしろ、俺は応援するんだぞ!」
「あ、ありがとう……ございます」
と言うか、両想いなんだから絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対ぜぇーったい、くっつけるつもりでいるからね!
ぽんぽんと髪を撫でてやると、マンシェリーは冷めた紅茶のカップにそっと口をつけた。
「なーにぃ、恋バナ?」
「ゆ、
「マックスぅ」
ちょうどいいところに来たんだぞ。
「おにぎりとかドーナツ無くなっちゃうけど、チーちゃんほとんど食べてないじゃなーい?」
「あ、うん。ちょっと取ってくる! シュライゼン様、ありがとうございました」
「なんのなんの」
マンシェリーを見送ってから、マックスが壁に背を預けた姿勢で俺を見てきた。
「あの子とカイルについて?」
「歯痒いんだが、まだ王女だとは言えないしね?」
「そうね。お互い両想いの部分さえ告げてもいいかもしれないけど」
「最高神が邪魔をされるから、どうにもうまくいかないんだぞ」
「チーちゃんの記憶も書き換えられてるから。自信がついても、そこを忘れさせられてるから」
難しい……難しいんだぞ。
そこもあるから、忘れるたびにあの子を勇気づけさせるしか出来ない。
神の御意向がいったいどんなものなのか。
今は得策ではないと、カイルには伝えたらしいが。
なら、いったいいつなのか。
成人の儀で何もあって欲しくない。
もう二度と、あの子を失いたくないんだぞ!
「絶対、成人の儀まであの子の心の安寧を保ちたいんだぞ」
「そうね。あたしもそう思うわ」
「護衛役、頼むんだぞ」
「ああ」
今マンシェリーは、全然食べてないと知られてから。ここの店のスタッフ兼暗部部隊の連中らに、いっせいに皿に盛られたのを渡されていた。
少し困った顔でいたが、すぐに笑顔に変わった。
あの笑顔は、母上そっくりなんだぞ。
(母上……マンシェリーはここにいるんだ。もう失いたくはないんだぞ)
十六年前の、あの戦争で母上と神の御意向でホムラに亡命させたとはいえ。
俺はあの日、大事な家族を二人も失った悲しみで二年も塞ぎ込んでしまってた。
今の性格にまで戻れたのは、父上やシャル達がいてくれたお陰。
だからって今度は、俺がマンシェリーを助ける番なんだぞ!
「ふふーん。よーし、俺ももっと食べるー!」
「程々にしときなさいね?」
「うむ!」
それはさておき、ホムラの皇太子に美味しい米の炊き方を伝える件だが。
彼がまだ信じ切れていないので、仕方ないがシュィリンだけを連れて行こうと思う。
元皇族のシュィリンなら、従兄弟と言うこともあるし、きっと聞き入れてくれるかもしれないからね!
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