99-3.思い返す(カイルキア視点)






 *・*・*(カイルキア視点)









 姫と衝突とはいえ、キスをしてしまった翌日。


 俺はいつも通り、レクターとともに執務をこなしていた。


 休みにしてもよかったが……その、なんだ。


 何かをしていない・・・・・・・・とどうにも落ち着かないのだ。



(姫も、今はいないしな……)



 姫に休みを取らせるのもままならないと思ってた時期もあったが。今日と明日は実質的な休みではない。


 カレリアのところで錬金術の確認。


 明日は、シュライゼンとリュシアに向かって、元皇子であるマックスの部下と米の炊き方について研究するらしいが。



「なんだか、少し寂しく感じるね?」


「……レクター」



 こいつ、俺の心情を読むのが相変わらずうまい。


 乳兄弟である理由もあるが、爵位を継ぐ前からずっと一緒に生活してたせいもある。


 加えて、俺の妹のリーンと結ばれたこともあってから、余計に遠慮がなくなったと言うか。



「姫様がいらっしゃる時は、定期的にこっちまでいらっしゃったからね? 今はいないから、君の纏う雰囲気が少し寂しさを感じたんじゃないかなって」


「そう言えるのはお前だけだ」


「けど、姫様も結構敏感だよ。パンとかの料理を食べてる君を見て、一喜一憂してるし」


「……姫が?」


「それに、昨日君とあんなことがあったんだから。夕飯の時は隠してても、眠る時は大変だったんじゃないかな?」


「……拒否はされたぞ」


「いやだって、お互い初めてだったんでしょ? だとしたら、姫様はもっとロマンティックな場面を思い浮かべてたんじゃない?」


「ろ、ロマン……だと?」


「例えば、恋人同士になってから……君からキスしてあげるとか」


「……………………随分と詳しいな」


「僕だって、リーンの事考えてからしてあげたんだし?」


「…………そうか」



 なら、姫は俺とのキスを嫌がってはいなかったのか?


 シャルロッテが言ってたように、俺のことが好きで好きで仕方がないと言うのなら……場を考えれば受け入れてくれたのか。


 だが、最高神のこともある。


 姫からの告白にも、封印術を施されたのなら……俺から告げても同じではないかと。


 それに、今はまだ得策ではないと告げられたし。



「けど、やってみないと分からないんじゃない?」


「……しかし」


「最高神からの妨害はあって当然かもしれないけど。姫様が自分にどんどん自信を持っていないのが現実なんだから。妨害はされてもお互いの気持ちは消されていないんでしょ? これっておかしいとは思わない?」


「おかしい?」


「最高神だとしても、本気で妨害するならお互いを想う気持ちすらも消すはずだよ。けど、あえてそれをしてない」


「…………たしかに、そうだが」


「だから、一回でも挑戦してみなよ。それで無理でも、また僕らが加勢するから」


「…………いいのだろうか」


「僕らのようになって欲しくないって言ったでしょ? それに、姫様も」


「……姫も?」


「彼女が転生者以上に、心に抱えている不安は大きい。例のパーティーにいた頃もだけど、自分が役立たずだと思い込んでいた時期が長い」


「なん……だと」



 姫のどこが役立たずだと?


 だが、俺は今の姫を知る期間が短い。


 ホムラで過ごして、そこから冒険者として独り立ちした後のことは、何一つ知らないに等しい。


 けれど、今は、日々この屋敷で美味いパンや料理を振る舞ってくれる彼女は、どこが生き生きしていた。


 あの幸せそうな笑みを壊す要因が昔あったとは言え、俺なんかで癒せられるのだろうか。



「けど、この屋敷に来て……あえて試験を受けさせたとは言え、生き生きとパン作りとかをしてる環境を作ったのは他でもないカイル自身だよ。そこは自信を持ってもいいんじゃないかな?」


「……提案はお前だろうが」


「ロティちゃんに教えてもらったからだよ。とりあえず、好かれているんだから、受け止める気持ちも持ってあげないと」


「……俺のどこに惹かれたんだか」


「んー、まずは顔だろうけど」


「顔……」



 父上によく似たこの顔か。


 たしかに、数少ない社交界の場では華であった父上の再来とまで謳われはしたが、はっきり言って迷惑だった。


 その当時は、早く冒険者になれる年齢になって姫を探しにいかねばと使命を抱いていたからな。結果は、爵位を継いでから見つけたのだが。



「けど、日々一緒に過ごして来て、彼女も君の人となりを気に入ったんじゃないかな? 昨日何か言われなかった?」


「…………記憶を封じられる前に、確か」



『そんなことはない!』と強く言われた。


 そして、俺もだが……色々励まされて嬉しくなり、姫の髪をひとふさ手に取って口づけたりしてたな。


 十分な求愛行動をしてたではないか。


 それを言うと、思いっきりレクターに頭を殴られた。



「じゅーぶん、君もアピールしてるじゃないか!」


「……すまん」


「だったら、明日は無理でも定例会が終わってから君と姫様も休みにして、遠乗りにでも誘ったら?」


「……は?」


「最高神のことはともかく、さっさと告白しなさい? 姫様の不安を取り除くのが第一だよ?」


「…………ああ」



 姉のメイミーに似た、黒い雰囲気を纏った奴には敵わない。


 結局、定例会の翌日に俺と姫を休みにすることにして、遠乗りの予定を組むことはほぼ決定となったのだった。

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