98-5.狭間では(ユリアネス視点)
*・*・*(ユリアネス視点)
「……どうするの、フィルド?」
「んー?」
水鏡から、セルディアスの王宮を覗いてみてはいるが、夫のフィルドは絶えずニマニマしてるだけだった。
「あえて甘い封印術をかけてるとはいえ、綻びがすぐ出てるじゃないの。このままでは、あなたがカイルキアに告げた事も実行されかねないわ」
「ま、それでも面白いんだけど」
「フィルド!」
面白いで済む話ではないのに!
なに悠長に口笛とか吹いているのよ!
「まー、落ち着けって。カイルキアに念話で送りはしたが、あれはカマをかけただけだ」
「……は?」
「弱気になってちゃ、姫を幸せには出来んだろ? 姫にもチャンスがあると一度認識はさせたが。あれの前世は一度も恋をしたことがない。だったら、もっと大舞台で告白させた方がいいだろ?」
「……まさか」
「成人の儀……あれの直後にさせた方がいいんじゃないかってな」
「あれも邪魔するんじゃないの?」
「邪魔はするさ。けど、強固派の方だけ。そいつらの思考をこれを機に根絶やしにさせる」
「……まあ、それははじめからの目的ではあったけれど」
強固派、実質的血統主義者。
神の私達が望んでいない、【枯渇の悪食】による、レシピ以外の悪影響の一つだ。
姫と、ロティのナビレベルアップの際に、夢を通して見せた過去の出来事。
あれは、この国だけでなく、各国に植えつけてしまった強固派の種だ。
姫は本来この国の王女だから、成人の儀と式典を開けばカイルキアと結ばれるのになんら問題はない。
彼女の祖母にあたる、先代王妃は元は宮廷の女官であり、孤児だった。
その血統がまだ三世代の差なので、いくら元侯爵家の姫を娶った現国王が父であっても、強固派にとっては目障りでしかない。
だからこそ、私達が選んだ
彼女を通じて、その血統主義者達の思考を根絶やしにさせる。
でなければ、いにしえの口伝を彼女単体が告げても、広まらないからだ。
そのまま王女に戻したとしても、暗殺の対象にしかならない。
そんなことには、絶対させない!
「封印術を軽めにしてるのも、俺達の本来の目的を遂行する邪魔をしない程度だしな。姫の方については、ある意味どっちでもいい」
「の割りには、カイルキアに告げてたじゃない」
「あれくらい言わなきゃ、奥手のあいつは考えねーじゃん?」
「余計に消極的にさせてたじゃない?」
「んふふ〜」
本当に。
あの中庭で、姫とカイルキアを結ばせても良かったが。
シュライゼン達が計画している成人の儀と生誕祭にはもう少し時間が必要だ。
単なるサプライズだが、あの子のネガティヴ思考を少しでも和らげるためにはその方がいい。
それに、今いる厨房以外の使用人達とも距離を置かれたくないだろうから。
出来るだけ、過ごしやすい環境でパン作りをして欲しいからだ。
(……私達の勝手ではあるけれど。ちゃんと幸せになって欲しいのは本当よ)
ごめんなさいね、王女。
貴女の幸せのために色々隠蔽工作をしなくちゃいけないのは。
だけど、最終的には貴女もカイルキアも幸せになって欲しいのは本当よ。
だからこそ、選別した魂を選んでこの世界に転生させたのだから。
「王妃を目の前で亡くしたせいで感情の起伏が乏しくなったからね。姫と、あのロティのおかげで変わりつつあるけど」
「そうね。けど、ロティの方は消去させて正解だったわ」
あれは、まさか気づかれるとは思わなかった。
見た目を多少は姫の方に寄せてはいたけれど。
そこから、亡くなったと
「あれは……式典の時に姫の方に選ばせるからね。それまで、ロティのレベルがもう一つ上がれはいいけど」
「今の調子だと難しいわね」
「俺達から課題だすー?」
「そうね、その方がいいかもしれないわ」
と言っても、なににさせようかしら?
いい加減、フランスパンをと思ってても。最近米の需要が増え過ぎて、パンは普通になっているのよね。
(……そうだわ)
米の方でも、作りたいものがあったはずだわ。
「カレーライスの方で、わざとPT増加させましょう」
「お、いいね。俺達が食いに行く日にわざと合わせるか?」
「ええ。カイルキア好みの辛さにするなら、シアも食べやすいでしょうし、カレーライスはレイの世界でもピザに次ぐ人気料理だもの。飛躍的に伸ばすのならその方がいいわ」
「よしきた!」
今水鏡の向こうで、シュライゼン達が食べてるアイスもだけど。あまり多くのPTは与えていない。
美味しいが、体調を崩しやすい欠点があるからだもの。
カレーも食べすぎはよくないが、お代わりを求められるあの味ならPTを上乗せしても大丈夫。
チャロナ、少し覚悟しててね?
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