98-4.王城では(シュライゼン視点)






 *・*・*(シュライゼン視点)








 シャルをまた転移で彼女の邸に帰してから、俺は城の厨房にこもった。


 たしか、父上はつい先日、マンシェリーのパンケーキを叔父上と食べたと聞いたから。


 多分、このアイスクリームも食べたんだろうけど。


 爺やはたしか食べてなかったはずなんだぞ!


 だから、ほとんど爺やのために作ったんだぞ!


 出来上がってから、俺はワゴンに盛り付けセットも載せて父上の執務室まで運んだ!



「ちっち上〜、爺や〜、差し入れなんだぞ!」


「む、そうか」


「ちょうどお茶の休憩を挟むところでしたので、ありがたく頂戴しますぞ」


「うむ! マンシェリーに教わったアイスクリームなんだぞ!」


「あの冷たくて美味いものをか!」



 やっぱり父上は一度食べていたようで、書類の山から顔を上げたんだぞ。


 なので、応接スペースを片付けて、俺は三人分のアイスを盛り付けて卓に置いた。



「ほう。殿下、これがアイスクリームというものですかな?」


「うむ! 材料を色々混ぜてから、冷却コールドで冷やし固めたものなんだぞ!」


「それは素晴らしい」


「では、早速」



 先にひと口茶を含んで口の中を温めてから、それぞれアイスクリームをスプーンに載せて口に入れた。



「「「んん!」」」



 木苺の方は、甘酸っぱくてさっぱりしてるのに、少し濃厚で。


 バニラの方は、ミルクの滑らかな舌触りに芳香が口いっぱい広がり。


 まだ作って二度目だが、マンシェリーに劣らずうまく出来たと思う。


 もちろん、実地のお陰もあるがくれたレシピのお陰もある。


 お菓子は特に分量が大事だと言っていたが、まさにその通りだ。



「これは……やはり、美味い。暑い時にはいくらでも食べたいな?」


「けど、父上。急いで食べると頭痛が起きるらしいから、ちょっと欠点があるんだぞ」


「ああ……。カイルキアがこの間なってたあれか」


「ぶふ!」



 やっぱりカイルは勢いよく食べたんだ!


 その時の光景が簡単に想像出来たが、俺はそのカイルについての報告をすべく、溶けてもいいのでアイスの皿を卓に置いた。



「父上……爺や。また最高神からの妨害が、今日あの屋敷であったんだぞ」


「なに?」


「また、ですか。今度は如何様に……」


「うむ。マンシェリーがようやく、カイルに何かを告げようとした時に……気を失わされた。その後に、俺達の記憶も一部いじられた」


「「え」」



 考え直せば、マンシェリーがカイルに愛の告白をしかけたのはわかるが、そこを口にしなければ最高神も動かないのだろうか。今は特にあの音も聞こえない。


 それと、無理を承知でカイルに最高神が告げたことを口にしても、なにも起こらなかった。



「……成人の儀まで、なにが起こるかわからない……からか?」


「ですが。せっかく姫様が勇気を出されましたのに」


「今は得策ではない……か。強固派の動きか」


「考察しか出来ませぬが、それもありましょう」


「俺はちょくちょくお縄にかけているんだぞ!」


「報告は聞いているが、まったくどんな方法で……」


「おばあ様達を貶してる連中に、即刻拘束をかけてるだけだぞ!」


「よくやった」



 強固派の連中はけしからん奴らばかりなんだぞ。


 あんなにも心身共に国に尽くしているおばあ様を。


 国の恥だと言い切る愚か者は誰であれ俺は許さない。


 父上の生みの親である国母をそのように貶すだなんて、許しがたいからだ。


 他にも、おじい様まで貶すのだからもう放っておけないんだぞ!


 今月だけでも10人はひっ捕らえたからね!



「……それと、お前も知ってるだろうが。先先代公爵夫人のところへ今日行ってきた」


「む、エリザベート殿のところに?」


「ああ。マンシェリーの報告をしてきたが……エリザベート殿は転生者ではなかった」


「ほー」



 母上の叔母でもあるあの方の持つ料理の技術は、王城以上にピカイチだったが、どうやらマンシェリーやマックスとは違うらしい。


 聞くに、異能ギフトのお陰だそうだ。



「ファート・シャイン……聞いたこともないんだぞ?」


「おそらく、だが。最高神が何かしらの加護であの方にお与えになったのだろう。マンシェリーのことも告げたし、近いうちに会いにいくやもしれん」


「そうか……ようやく」



 あの方が父上にそう告げたとなれば……母上とのことを許されたかもしれない。


 おそらく、マンシェリーが見つかったからかもしれないが。


 俺が気落ちしていたあの二年間のことも知っているし、大事にしていた姪の死のことも受け入れられたかもしれない。


 そして、自分の孫が、忘れ形見のマンシェリーを見つけたのだから、きっと会いに行きたいのだろう。



「であれば、俺も一緒の方がいいのかい?」


「それは好きにして構わん。が、ちょっかいはかけるな」


「うむ!」



 は〜、俺もエリザベート殿にお会いするのは皇太子式典以来だから久しぶりなんだぞ!


 いつになるかはわからないが、一度魔法鳥で連絡を入れてみるのもいいかもしれない。


 少し楽しくなってきた俺は、溶けかけてたアイスを勢いよくかき込んで、自分で注意したにもかかわらず頭痛を起こしてしまった。



「……い、痛い!」


「殿下、大丈夫ですか!」


「自業自得だ。少しすれば治るらしいから放っておけ」


「は、はい。しかし……このような欠点がある菓子は広めにくいですな」


「だから、マンシェリーも孤児院の子供達に広めるのをやめたらしい」


「左様にございますか」



 とりあえず、お茶を飲んでから少しして頭痛も落ち着いたが。


 俺はアイスを片付けて自室に戻ってからすぐに魔法鳥を公爵家本邸に飛ばしたんだぞ。



「楽しみなんだぞ!」



 お互い、本当のことはまだまだマンシェリーには告げられないんだが。


 きっと、あの方はマンシェリーを見たら涙を流してしまうかもしれない。


 母上と瓜二つだから……絶対そうだと思うんだぞ。


 その時は、俺もフォローを入れるんだぞ!

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