96-3.告げられない(カイルキア視点)
*・*・*(カイルキア視点)
何が……。
何が起きたんだ……?
姫の瞳から光が消え失せて、俺の方に倒れ込んできた。慌てて受け止めると、姫は小さく寝息を立てているだけだったが。
「チャロナ!」
受け止めてからすぐに顔を上げさせても、姫が目覚めることはなく。
ただただ、安らかに寝ているだけ。
呼吸音や脈を測っても特に問題はないようでほっと出来たが……いったい、何が起きたと言うのだろう。
「おい、カイル!」
「マンシェリーに何が起きたんだい!」
「お姉様!」
と、冷静に考えようとしてたら茂みからマックスやらシュライゼンやらが出てきた。
レクターとシャルロッテはいないが、おそらく俺と姫の様子を見るために尾行してきたのだろう。
そこについてはあとで叱らねばならないが、それよりもまず姫の状態だ。
「……どこから見ていた?」
「お前らがベンチに座ったとこから」
「マンシェリーは……寝てるのかい?」
「ああ。俺に何か告げようとした途端にこうなった」
「お加減は悪うありませんわね?」
妹はレクターの真似事から始めた医療の知識があるので、簡単な診察は出来る。俺も似たような感じで冒険者時代に覚えたものだ。
しかし、姫の突然の気絶はなんだ?
俺に……きっと愛の言葉を紡ごうとした途端に、こうなってしまった。
ならば、まさか最高神の仕業か?
「シュラ……姫のこの状態は、おそらく最高神が関わっているかもしれない」
「む。神の御業なのかい?」
「あり得るぜ。俺達の記憶をいじったり出来るのはあの神らだけだ。
「せっかく……せっかくお姉様がお兄様にお気持ちを告げれるとお思いましたのに!」
「それを止めたっつーことは、チーちゃんとカイルをまだくっつけたくねー理由があんだろうな」
キィイイイイイイイイイン
そして、マックスの言葉を最後に。
俺達の記憶の中から、今のやり取りを消されてしまった。
「まあ! わたくし達は何故お庭に?」
「クッソ! また
「どう言うことですの、ユーカお姉様?」
「むむ、俺まで直接書き換えられるとは。嫌な感覚なんだぞ!」
ただ、一つ。
俺だけは少し違っていたようだ。
皆がヤキモキしてる最中に、俺の頭に神らしき声が聞こえてきたのだから。
【皆に言うのは避けよ。主の
青年らしかぬ、老成された声音。
最高神らしきものいいだったが。
かの方は、俺と姫になにを望んでいるのだ?
なら、俺と姫が今は結ばれても良くないと言うのは。
まさか、城に関係があるのか?
(……せめて、兄であるシュラには告げたいのだが)
下手をすると、伯父上である国王陛下にも知られるのを避けるため。
神御自ら動かれているのなら、お手をわずらわせてはならない。
であれば、俺の内に留めておいた方がいいだろう。
「カイルお兄様!」
「……なんだ」
思案にふけっていたら、妹に顔を覗き込まれた。
「お兄様がヤキモキされててはいけませんわ! きちんとお姉様……王女殿下にお気持ちを告げるべきですわ!」
やり取りは消されたが、妹の記憶には俺と姫の想いは残っているらしい。
他の二人も頷いていた。
「神側がどーこーしようが、チーちゃんはそこを不安に思ってる筈だ。時期云々言ってる場合じゃねーぞ?」
「……しかし」
しかし、今回のように俺が逆に告げたとしても。
神側はまた姫の記憶から、俺の記憶から始めたその想いを削除させるはずだ。
たとえ、互いに想う心は残されたとしても。
「んじゃ、こうすればいいんじゃないかい?」
俺が言うのをためらっていると、シュライゼンが人差し指を立てた。
「実際に仮の婚約者としているのは俺達しか知らないが、マンシェリーにも後見人込みでその事実を伝えるんだぞ!」
「「は??」」
「まあ! シュラお兄様、素敵ですわ!」
「
「待て。だからとは言え仮の婚約者の事実は……」
「父上の名前を使ってもいいんだぞ。親バカな部分は置いといて、国王としては認めているんだし」
「その事実を告げれば、チーちゃんの意識も不安はあるにしろ接し方は変わるかもしんねーな?」
「だぞ!」
マックスの言う通り、姫の控え目な性格を思うと、不安の部分は大きく出るかもしれないが……。
そう思っていると、腕の中の姫がみじろぎをした。
「あれ……私なんで?…………え、え、カイル様!?」
「大事ないか、チャロナ?」
「え、え……あ、は……い」
「チーちゃん!」
「お姉様!」
「チャロナ!」
本当に気絶しただけで体調を崩していない姫の様子に安心はしたが。
駆け寄ってきた三人の驚きように、逆に姫も盛大に驚いていたようだが。
「え……あの?」
「ちょーっとチーちゃん達を尾行してたのよ。けど、あんた急に倒れるから出てきたってわけ」
「
「うふふふふ!」
「ですわ!」
姫を安心させるために、わざと女口調で話すマックスだったが。今は、少し安心が出来た。
姫を思うのならば、苦手なものを克服出来るのだなと我ながら関心したが。
とりあえず、姫を一旦ベンチに座らせた。
「こいつらのことはともかく。散歩の続きやめにしておくか?」
「あ……はい」
「む、体調はいいのか?」
「い、いえ。大丈夫……ですが」
さすがに女性の扱いに疎い俺でもわかる。
これはもっと俺と居たいと言うわけか。気持ちを知っているからこそ、さらに嬉しくは思うが。
「シェトラス達にはあたしから言っておくわよ〜。チーちゃんはカイルともう少しデートしときなさいな?」
「「で、デート!」」
「お兄様、先程のお言葉を是非お姉様にもお伝えくださいな?」
「そうなんだぞ」
と言うわけでもないが、三人に後押しされて散歩の続きをすることになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます