92-3.パンケーキ実食(デュファン視点)
*・*・*(デュファン視点)
なるほど、なるほど。
我が姪の手料理は、我が娘の祝賀パーティーで食した以来だが。
こうも愛らしい手料理は、義母君と同じかそれ以上に美味で、いくらでも胃袋に入ってしまうくらいに。
今日のおやつも、予想をはるかに上回るくらいに可愛らしくて、でもとても美味しそうで。
なんだか、食べるのがもったいなく感じた。
「こちらは、スフレパンケーキの手作りアイスクリーム添えになります」
少し厚みがありながらも、焼き色の美しいケーキらしきもの。
その上に、これまた手作りだと言う見た目はクリームのようにしか見えない、ピンクと白の二色の添え物。
アイスという単語と、事前にメイミーから聞いてた話と照らし合わせれば、冷たい菓子らしいが。
いったい、どんな美味なのだろうか?
「焼いてある方のケーキにも甘味はつけてありますが。是非、アイスクリームやメープルシロップと一緒に召し上がってください」
「このアイスクリームというのは、見た目よりも硬いのかな?」
「はい、デュファン様。ナイフで切り込みを入れれるくらいには固いです」
なら、と。
全員で食事の祈りをしてから、僕はナイフとフォークを手に取り。
ケーキの方も美味しそうだが、まずは冷たいと言うアイスクリームの方を食べてみよう。
マンシェリーの言うように、ナイフで切ろうとすると少し抵抗する力でうまく切れなかった。
(……ほう?)
クリームと言えど、やはり凍らせてあるのか予想よりも硬かった。
けれど、切れないこともなかったのでゆっくり切って、フォークですくいあげて食べてみることにした。
「これは……!」
「革命的だな。冷たいクリームと言う名に違わぬほどに」
愚息は……と、隣を見ると何故か頭を押さえていた。
「……カイル?」
「か、カイル様。そんなにもアイスを一気に召し上がられたら!」
「あっはっは! かき氷じゃねーが、アイスでもたまにそうなるもんな!」
どうやら、このアイスクリームというのはいっぺんに食べると頭痛を伴うらしい。
なら、と自分の食べかけを口にすると。ピンクの方は、木苺の甘酸っぱさに加えてさっぱりとした口当たりで……クリームは一瞬にして舌の上で溶けてしまった。
「これは……美味しいクリームだね?」
城にいた時期は、ここまでクリームを美味しいと思ったことがなかったのに。
「叔父貴、チーちゃんの料理はなんだって美味いぜ? 前公爵夫人と遜色ないくらいにな?」
「確かに、義母君も負けそうだ」
「そ、そんな!」
「チーちゃん、俺達の前世はこの世界以上に美食の宝庫だったんだぜ? カイルのばあ様よりあんたの料理が美味いのは当然だ」
「そ、そうかな?」
「ああ、そうだとも」
やはり、一度は会わせた方はいいかもしれない。
これ程の美味を生み出せる、稀有な転生者としてもだが。
ある意味自分の孫に等しいひとりの少女としても、あの方はこの子に会いたがっていたしね?
それについては、あとで兄さん達と話すとして。
次は、メインらしいケーキの方に移ろう。
少し溶けたアイスのクリームがかかってるケーキに、マンシェリーが薦めてくれたメープルシロップをたっぷりとかけて。
ナイフで切り込みを入れると、今度はあっさりと切れたが。
切った瞬間に、なんとも言えないふわふわした泡を切ったような気がした。
「チャロナちゃん……このケーキは?」
「はい、どうされましたか?」
「なんだか、泡を切っているような気がしたんだが」
「はい。卵を黄身と白身に分けて、白身を泡にしてから混ぜ込んだんです」
「……ふむ」
とても興味深い調理法だが、肝心の味はと、シロップをたっぷりとつけてからフォークを口に運ぶと!
「んん!?」
アイスクリームの時もそうだったが、こちらはまた違った。
切った時に思った以上に、口の中で優しい甘味の泡を食べたような食感。
けど、スポンジケーキのような食感も確かに残ってて。
ひと口を食べた次に、またひと口と口に入れたくなってしまう。
しかもこれは、アイスクリームを少し乗せると二重の甘味が口いっぱいに広がっていく!
白い方のアイスクリームとも非常に合う。甲乙つけがたい、珠玉の美味だ。
「美味しい……。これは、すごく美味しいよ!」
「美味。美味ですな、デュファン様。今までに食べたことのないこの食感は甘い物を好む者には、至高の味ですぞ」
「アイスクリームもだが、このケーキも美味すぎる! これは……作るのが難しくないか? 子供達でも」
「アイスクリームは凍らせるのに時間がかかり過ぎるので難しいですが、パンケーキの方は白身を泡立てる以外はそこまで難しくありません」
「「「……ほう」」」
今日の場合は、彼女の目の前で自分なりにパンケーキを食べている契約精霊と自身の
このパンケーキがそこまで難しくないと言うのが驚きだ。
こんな繊細な味なのに、子供達でも作ろうと思えば作れるのか?
「チャロナ。父上達に、例のコピーでレシピを出してもらえないか?」
「わかりました。ロティ?」
『でふ!』
ちょうど食べ終わった、契約精霊のロティは。
宙に浮くと、両手を頭上高く掲げた。
『んん〜〜!
そして、広げた手の内側に光の線が走り、そこからなぜか一枚の紙らしきものがひとりでに出てきた。
それをマンシェリーが受け止めると、カイルに差し出した。
さらに、カイルがそれを私に渡してきたので広げてみると!
『ふわしゅわ米粉のスフレパンケーキ』
<材料>
卵
牛乳
●グラニュー糖
●米粉
●重曹
メープルシロップなどのトッピング
《下ごしらえ》
①米粉をふるっておく
②卵の卵黄と卵白を分けて、卵白は冷凍庫で少し硬めておく
《生地作り》
①卵黄に●の材料を加えて、泡立て器でよく混ぜる
②卵白でメレンゲを作る。途中何回かに分けて別に用意しておいたグラニュー糖を加えておくことを忘れない。硬く角が立つまで泡立てる
③完成したメレンゲを①に混ぜ合わせる。泡を潰さぬように優しく
《焼き》
①フライパンを熱して、薄くオイルを引く
②一度濡れ布巾の上で冷ましてから、スプーンで適量生地を流し込む(三枚焼けるくらいが望ましい)
③蓋をしてじっくり焼く。焼き目がついたら裏返す
④出来たら、皿に載せてメープルシロップやバター、蜂蜜にアイスなどを載せる
「……こんな少しの材料でこの出来上がりに?」
以前兄さんにも見せてもらった、マンシェリーのステータス表と同じ材質の紙ということはすぐにわかったが。
それがどうでもよくなるくらい、手もとにあるレシピは画期的過ぎた。
工程も然程難しくないのは頷けるが、これだけで今食べ終えたデザートが作れる?
僕でも出来るんじゃないかと思えるくらいに、
「デュファン、俺にも見せろ」
「あ、うん」
驚きのあまり、言葉を失いかけたが。兄さんに言われたのでレシピを渡せば、僕と同じような反応を見せた。
「チャロナ、本当にこれだけで今俺達が食べたデザートが可能になるのか?」
「はい。スフレ、と呼ばれるものでしたらそちらの調理法になります。他にもパンケーキと呼ばれるのは卵を分けずとも作れますが」
「どんな違いがある?」
「お召し上がりいただいたような、泡のような食感がなく、重曹で膨らませたふわふわとした感じになったりしますね?」
「アインズの伯父貴。俺達の前世じゃ専用の粉みたいなものもあって、それだけで作れるのもあったな?」
「その粉と他の材料があれば、簡単にか?」
「ああ。だいたい、卵と牛乳があればな?」
「む、甘味は粉に含まれてるのか?」
「確かな?」
マックスも加わり、質疑応答を繰り返しているが。
僕はさらに驚いていた。
専用の粉があれば、誰でも作れる?
どうやら、マンシェリーとマックスの前世の世界では庶民のおやつの定番だったそうだが。
このケーキじゃなくとも、温かくかつ甘いものを庶民が食せるなどと。
クッキー以外、僕は元王族でも知らなかった。
【枯渇の悪食】にて、失われたレシピはいったいどれほどあるのか。
ここで、僕は隠居した身としてのんびりしてる場合じゃないと真剣に思ったのだ。
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