89-2.和食は無限大(ユリアネス視点)







 *・*・*(ユリアネス視点)







【『鯖の味噌煮』


 ・製作者……マンシェリー=チャロナ=セルディアス(偽名チャロナ=マンシェリー)


 ・味付けのメインは、味噌、醤油、砂糖、酒


 ・骨を除去してあるので、食べやすく皮も美味


 ・身は臭いもほとんどなく、柔らかくてとても美味なのは確実】





 神の特権である、異世界の料理を鑑定する技能スキル


 夫も使ってはいるかもしれないが、出された魚の煮付けは、艶々していて本当に美味しそうだった。


 特に、シアは今にも手を伸ばしそうだったけど、この子が普通に食べようとすれば黒っぽいソースで服とかがぐちゃぐちゃになってしまう。


 なので、チャロナマンシェリーに頼んで布のナフキンを用意してもらった。



「あなたはまだ赤ん坊なんだから、こう言うのはしないとね?」


「えー、よごしゃないよぉ?」


「わからないわよ? さ、これでいいわ」


「うー」



 即席の前掛けを作ってから、シアが食べやすいようにフォークで身をほぐしてやり。


 夫にも目線で合図をしてから、シアにフォークを持たせた。



「…………っ! おいちー!」


「良かった。シアちゃん、お皿のお米も食べてみて?」


「……これ?」



 昔、孫のレイアークが言っていたわ。


 和食には、基本的に米が必須。


 味の濃いのでも、薄いのでも。


 とにかく、米があるだけで食卓が変わるそうだ。


 この世界では、現在の調理工程だと悪食が原因でほとんど間違ってるものになってしまってるが。


 今目の前にある、純白でホカホカと美味しそうに湯気が立っていて。


 口にいれたら、どんな美味しさが待ってるか、想像しただけでワクワクとしてくるわ。


 けれど、せっかくだから鯖の方から口に入れると。



「まあ!」


「おこめもおいちー!」


「魚、全っ然青臭さもないよ! ちょっとピリッとするけど、これ何〜?」


「生姜を使ってるんです。臭み消しと味のアクセントになるんです」


「へー?」



 夫は、本当は知ってるけど、今は普通のヒトの子のフリをしてるから、そこは感心するように見せた。


 けど、本当に美味しいわこの煮付け。



(ソースもくどくなくて、甘辛いし。身はホロホロと崩れてても、ジューシーで柔らかくて。米と一緒に食べると手が止まらなくなりそうだわ!)



 一緒に用意してくれたサラダにスープももちろん食べたけど。


 私達はとにかく、鯖の味噌煮と米が美味しくて交互に食べ進めていく。


 これは、あの酒を入れただけにしてでも美味し過ぎるわ!



「ねーね、おかわりもらっちゃダメー?」


「……この大きさをもう一つ食べれるの?」



 神の胃袋だから一応は問題なくとも、今はただのヒトの子を演じているのに。


 夫に目配せすると、肩を落としたので仕方ないと諦めるしかなかった。



「残してはダメよ?」


「わーい!」


「俺もお代わり!」


「……あなた」



 貴方も食べたかったからなのね!


 けど、私自身もあっと言う間に食べ終えてしまい、チャロナ達にはにこにこと微笑んでた。



「遠慮せずに言ってください」


「本当にありがとう。でも、美味しいわ」


「いただいたみりんで作ると、もっと風味がいいんですよ?」


「あら」



 夫の提案で出現させた調味料だけど、次は何が出て……いけないわ。


 夫と孫に感化されて、私までも次の機会を楽しみにしてしまっている。


 いけないと思いつつも、この子の作る料理が絶品過ぎるからだわ……。



「お代わり待っててください」


「あなたはまだなのに、いいの?」


「ええ」



 おそらくだけど、私が彼女に与えてるPTを心配してのことだろう。


 毎日いくらパンを作り続けても、難航してる今のレベル上げではびくともしない。


 けど、今日の煮付けはまずいわ。


 米との相性が良すぎて、高い数値を与えてしまいそう。



『いいんじゃない? 35まではレベル上げも難しいし?』


『……そうだけど』



 夫が念話で話しかけてはくれたが、私自身どうすればいいのかわかっていない。


 まだ、AIの契約精霊ロティのレベル上げがそこそこしか出来てないから。彼女の真実は明かされないにしても。


 まだ、簡単にはレベル上げはさせられない。


 だから、ここは神らしく厳しくいかなくては。



「お待たせしましたー」


「ありがとう、あなたも食べてね?」


「はい」



 全員分のお代わりを持ってきてから、チャロナはようやく自分の皿に手をつけた。


 口に入れたところを見計らい、私は意識を分裂させてる『天の声』の方にPTを書き込んだ。






【PTを付与します。



『ホロホロ美味しい鯖の味噌煮』



 ・製造40人前=10000PT

 ・食事1皿=500PT



 →合計10500PT獲得



 レシピ集にデータ化されました!





 次のレベルまで、あと286200PT




 】






 つい昨日の、鯖の塩焼きとほぼ同じにさせたけれど。


 あまり違和感を持たなかったのか、チャロナは上機嫌で鯖の味噌煮を食べていた。


 ピザの時はやり過ぎてしまったけれど、これくらいなら大丈夫そうだとひと安心。


 次も注意しなきゃと思うけども。



(ああ……この味には病みつきになりそうだわ!)



 お代わりに出してもらった味噌煮はとにかく美味しくて。


 しかも、まだ足りない二人と私のために、と。


 持ってきたみりんでの味噌煮もすぐに作ってくれて。


 出来立ての味噌煮を口に入れた途端、なんとも言い難い口福感に包まれたわ!






【PTを付与します。



『濃厚なタレの鯖の味噌煮』



 ・製造3人前=2000PT



 →合計2000PT獲得



 レシピ集にデータ化されました!





 次のレベルまで、あと295600PT




 】





 やってしまった……。


 やらかしてしまったわ!



 美味し過ぎて、意識を分裂させてる天の声がデータを読みとってしまい。


 大幅ではないけれど、PTをまた与えてしまった。


 チャロナは表面上、首を傾げていたけれど。この子の記憶をいじり過ぎると後が大変だから、普通を装っておくしかない。



「おいちかったのー!」



 そうして、満足した我が孫は。


 お腹をパンパンにさせながらにこにこと笑ってるだけだった。

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