88-3.石眼の勘(エスメラルダ視点)







 *・*・*(エスメラルダ視点)







 さて、馬鹿がこれ以上馬鹿になる前に帰すことは出来たが。


 あたいは、前々から聞こうとしても聞けなかったことについて、今目の前にいるラスティ同期に聞きたかった。


 本人は、いつものようにぽえぽえホワホワな笑顔を浮かべてるだけだったが。



「ん〜〜? どうしたの〜?」


「ちょいと、あたいはあんたに聞きたいことがあってね〜?」


「僕に〜?」


「正確にゃ、あんたの奥様にだ」


「ウル?」


「そうさね」



 頼めば顕現してくださるだろうが、出来ればこいつの意見も聞きたかった。


 神と精通している、稀有な存在として。



「呼ぶ〜?」


「いや。まずあんたに聞きたい。この前も来てたらしい、金髪坊主についてさ」


「あ〜……エスメラルダさん、気づいた〜?」


「ってことは、あんた知ってんのかい?」


「ちょっとだけ〜」



 じゃあ、まず間違いない。


 今は呼べない、あの金髪坊主の正体は、やっぱり神の類か。



「あいつは何なんだい? あいつが来た初日に色々あたいや他の連中の記憶をいじってた上に姫様のとこにちょくちょく来るし」


「エスメラルダさんは〜、その石眼があるから気づいたのかな〜?」


「それもあるさね」



 あたいの石になった片眼は。


 魔物の攻撃のせいで、視力については失ってしまったが。


 代わりに、一種の加護のようなものが備わった。


 勘が鋭くなったり、危険察知が常人よりも少し早いとか諸々。


 その関係で、あの金髪坊主に記憶をいじられても違和感はなくならなかった。


 ま、加護と言っても神には敵わないのは当然だし、旦那様も含めて何人かは気づいているだろうが。



「あいつは、姫様に何がしたいんだ?」


「…………」



 あたいがそう聞くと、ラスティは珍しく苦笑いする表情になり、ふるふると首を横に振った。



「今言えるのは、あの男の子が最高神である事だけだよ〜……」


「さ、いこうしん?」


「うん。けど、これ以上はウルからも口止めされてるし、僕も聞かされていないんだ」



 あの無駄に顔のいいおちゃらけたガキンチョが、この世界で最高位に立つ神?


 信じられないと思ったが、同期の珍しい態度にそれが真実であることがよくわかった。



(なら、姫様には神でもトップクラスの加護を得ている……?)



 それと結びつきやすいのが、彼女の作るうま過ぎるパンや料理達。


 何が秘密があるんじゃないかと思ってたが、そう思うことで納得出来そうだった。


 けど、ウル様からなんで口止めされるのと、その最高神があたいらの記憶をいじったのだろうか。



「喜ばしいことなのに、あたいらの記憶をいじったんだい?」


「うーん。僕はその方とほとんど接触してないし〜……ウルも今は言えないとしか言ってもらえないんだ〜」


「そうかい」



 あの方が詮索するなと言われると少しキツイ。


 最高神に近い高位の神であるのに、ツテもなしにこれ以上突っ込んだ質問をしても意味がないからだ。


 最高神の方は、何回か食材を姫様に渡すために来られてるだけらしいが、目的がよくわからない。


 と言っても、旦那様と違って、ほぼほぼ部下の上司のような立場でいるあたいが、無理に詮索したらまた記憶をいじられるだけになるだろうが。



「なら、あたいは最高神についてはこれ以上聞かないでおくよ。あの後味悪い気分になるのはもう勘弁してほしいからねー?」


「その方がいいよ〜。あ、そうだ、エスメラルダさん」


「ん?」



 ちょいちょい、とラスティは耳を貸すように手招きしてきた。



「旦那様にウルが言いに行った時に聞いたんだけど。……僕ひとりじゃ、ちょっと心配な出来事があってね?」


「なんだい?」


「旦那様……姫様のこと、好きみたいなんだよ〜」


「……………………は?」



 嘘だろ、と思ったのは。


 信じられないと驚いたのと、世間は広いようで狭いと思ってしまったから。


 そして、あの日の。女同士での風呂での出来事。


 悲しい表情が、強いものとなっていく流れ。


 もうこれは、笑うしかなかった。



「あっはっは! はーっはっは! 嘘だろ、あのお二人が!」


「なーんで笑うの〜?」


「いやいやいや。実は、あたいも知ってたんだ。姫様の気持ちを」


「え、ってことは〜?」


「相思相愛ってことさね。これを笑わずしてどうすれと?」


「……たしかにー」



 いやはや、姫様。


 あんたの、あの日に憂いていたことはすべて杞憂さね。


 あの無表情無愛想なのに、無駄に顔の良い我らが旦那様は。


 どうやら、あんたに惚れてるそうじゃないか。


 だから、それを知った時は胸を張っていいんだよ?



「けど、いつからだい?」


「姫様の方は〜?」


「うーん。聞いた限りじゃ一目惚れではなかったらしいが」


「僕も、実は旦那様が陛下からの勅命で婚約者になられたってくらい。その後に、お気持ちの方はたまたま知ったんだけど〜」


「どっちにしても。良いことじゃないか?」


「ねー?」



 最高神の事も色々気にはなるが。


 我らが主人を思うのなら、そちらを協力するのが先決だ。


 結局、あの風呂の日以来、姫様自身動こうとしてないし、手助けするくらい良いだろう。


 普段の飯でも随分と世話になっているのだから、それくらいはしないとねえ?



「そういや、昼飯がまだだったね。一緒に行こうじゃないか?」


「そうだね〜。エピア呼んでくる〜」



 そうして、三人で食堂に到着した後は。


 エコールの言ってた、サバを使った美味い塩焼きとホカホカのコメが食い放題だった最高の昼飯になった!

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