85-3.ナビレベルアップデート
いざ、と言う気持ちになりつつ。
手にしてるいちご大福を口元に持って行き。
見守られる中、ゆっくりと餅の部分から大胆に餡子のところまで噛む!
【PTを付与します。
『もちもちいちご大福』
・食事1個=750PT
→750PT獲得
ナビレベルが4になりました!
ただちに、アップデートを開始します。
次のレベルまで、あと3024500PT
】
『ナ〜ビレベルぅううう、アップデートぉおおおおお!』
【ナビゲーターシステム、アップデートを開始します】
ロティの声が、だんだんと遠くで聴こえてくるように感じる。
倒れはしなかったが、意識もだんだんとおぼろげになり、カイルキア様達の姿が霞んで見えてしまう。
けど、一つだけわかったのは。
以前に、ロティのナビレベルが上がった時と同じく、頭の中に何か風景が浮かんできたのだった。
荒れた土地。
飢えてる人間達の姿。
それと、かんかん照りの日差し。
そこは全く同じだったんだけど……。
風景が移り変わって行き、少しして、お城のような建物が出てきた。
そこの……テラスみたいな場所に、王冠を被った王様のようなおじいさんと。ティアラをつけた、綺麗なおばあさんが泣きながら外を見ていた。
『……このままでは、世界が枯れてしまう』
『いくら王家の貯蔵庫を開放したところで、飢えを凌げる民の数も限られていますわ』
『何か……何か、手立ては!』
会話が聞こえてくるとは思ってみなかったが、どうやらどこかの国の王様とお妃様らしい。
そして、【枯渇の悪食】の真っ只中、色々策を練っても実を結ばない結果となっていて困っているのだろう。
けれど、意識だけの私の声が届くわけもないから。
ふたりが、涙を流しているのを見ることしか出来なかった。
『かくなる上は……無駄足になるかもしれないが、神殿に向かい、神におすがりするしか』
『わたくしが……わたくしが下々の民の出であるから!』
『それはない! そなたは私の唯一の人だ。離れていくなど考えるな!』
『ですが。この飢饉が起こったのは、一体……』
会話の様子から察するに、【枯渇の悪食】がまだ始まった時期なのだろうか?
だから、お城の食料庫を開放出来て、一応は国民に分け与えられたのだろうけど。それでも、当然足りないから、飢えた人間達が増えていくばかり。
でも、何故。
ロティのナビレベルが上がっただけで、このような過去の映像が私に流れ込んでくるのだろうか?
もっと続きを見たい気がしたが、時間切れになったのかその景色が霞んできてしまい。
気がついたら、すっごい形相のカイルキア様に肩を掴まれまま顔を覗き込まれてた!
「ふぇ!」
「大事ないか、チャロナ!」
「は、はい!」
「だーから、心配すんなって言っただろ?」
「え、え、な、何?」
「いやー。君が意識ここにあらずってなったから、最初は僕も診断したんだよ? けど、ロティちゃんの様変わりにも目を奪われてね?」
「え?」
レクター先生の言っている意味がよくわからないけれど。
カイルキア様が大きく息を吐いてから、やっと私から離れてくださって。
代わりに、じゃないだろうけど。ロティ……が、こっちに飛んできた。
『ご主人様ぁ〜、アップデート完了でふ!』
「ロ……ティ?」
『でっふでふ!』
服装のほとんどは、以前のアップデート時に変わった時のままだけど。
体型が、赤ちゃんのようにぽってりとした部分が違っていて。
大きさも、2ー3歳児くらいにまで変わり、手足も少しスッキリと長く伸びていて。
声や口調はいつも通りだけど、顔立ちも少し大人びていた。
髪も、肩から背中近くまで伸びて、少しキラキラした光沢が出ていた。
これはまた、すごい変わりようだ。
今、レイ君は
ただ、大きさはウルクル様よりも小さいから、まだ赤ちゃんサイズではあるけど。
「か……わいい!」
『でっふぅ、ちゅこーし学習能力もアップしたでふ!』
「え、なになに?」
ロティは私の首に手を回して、ぎゅーっと抱きつき、ほっぺをすりすりと合わせてきた。
『湿度、温度管理をもっと丁寧に行えるでふ。しょーすると、もっとしっとり美味ちーパンが出来まふ!』
「え、もっと?」
今でも十分に美味しく出来ているのに、これ以上?
悠花さん達の方に振り向くと、カイルキア様以外顔を輝かせていた。
「あ、あれ以上美味しく……?」
「想像しただけで楽しみになってくるよ!」
「……それもだが、チャロナ。お前の意識が遠のいていた間。何があった?」
「あ、はい」
喜んでいる場合じゃなかった。
まだ鮮明に覚えている、あの悲しい光景を皆さんにもお伝えしよう。
「……以前、ロティのレベルが上がった時も。似たようなことがありました。その時はすぐ消えてしまったんですが。【枯渇の悪食】に関する記憶を見せられたんです」
「……ああ。マックスから伝え聞いてはいる。今回も同じか?」
「はい。ただ違うのは……どこかの国の王様と王妃様が、悲しんでいるところが見えました」
「「「王と妃?」」」
『あ。しょれ、たびゅん、この国の王様達でふよ?』
「ロティ、今回はわかったの!?」
『あい。ロティにもAIとして、今回は共有出来たでふ』
なら、あれは。
いつかのセルディアス王家での出来事?
何故、ホムラで育った私が垣間見えたかはわからないが、きっと理由があるかもしれない。
「悲しんでいらっしゃった、おふたりは。神におすがりなさるとおっしゃってたところで記憶が途切れました」
「どの代かわかれば……王城に出向いて書庫をあされるが」
「えっと……王妃様が、下々の民の出とおっしゃっていました」
「……先代と何世代か前はあるが。悪食が関与するとなればさらに昔か」
「それだけわかれば十分だよ。僕が代わりに行ってくる」
「ああ、頼んだ」
「え、え?」
「チーちゃん、重要な事だぜ? セルディアスの歴史で、悪食に関連する記録が残ってたら……あんたのパンを広める時に立派な大義名分にもなる。国のイメージを一時的に悪化させても、それを補う功績が出れば各国にも広めやすい」
「……ってことは」
「【枯渇の悪食】のきっかけがかつてのこの国だったとしても、その国から『いにしえの口伝』を広めれば……醜聞を払拭させられるし、各国にも良き印象を与えられるだろう」
「一歩前進かもしんねーぜ!」
もしそうなれば。
ホムラにも、美味しいパンや他の料理が伝わる事になり。
本当に、あるべき世界の食事情に生まれ変われるかもしれないと言うこと。
これは、凄い出来事になるだろう!
「お、お手伝い出来る事があれば、手伝わせてください!」
「そう焦るな。とりあえず、今のチャロナは孤児院での定例会以外に、シュラ達にパン作りを指導してやってくれ。この二つは重要だ」
「わ、わかりました!」
以前、シュライゼン様のお父様にも助力してくれとは言われたが。
今の雇い主はカイルキア様だもの。旦那様のご指示には従わなくちゃ。
「ひとまず。夜も更けてきた、お前達は早めに休め。明日、楽しみにしているぞ?」
「はい! 美味しいちゃんちゃん焼きも作りますね!」
「なーに、それ?」
「シャケとヌーガスがくれた味噌を使った料理だよ」
「へー? 美味しいの?」
「先生も楽しみにしててください。夕食頃に、シュライゼン様達とご一緒する予定なんです」
「じゃ、早く王城から戻んなきゃだね?」
とりあえず、報告とアップデートは無事に済んだので。
ロティを抱っこして部屋に戻ってからきちんと歯磨きをして。
彼女の、目覚ましアラームをセットしてから、布団に潜り込んで寝る事にしたのだった。
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