77-2.チョコチップクッキー
*・*・*
「お、お待ちしていました!」
とりあえず、
出迎えてくださったのは、ミュファンさんとレイリアさんだった。
「ミュファンさんは、昨日ぶりですね?」
「ふふ、そうですね。今日はレイリアのためにわざわざありがとうございます」
「微力ながらも、頑張りますね?」
「ね、姐さんがいたら、百人力だと思います」
「いや、なんで姐さん呼びなんですか?」
「年下でも、あれだけ美味しいパンが作れるからです!」
そうして、本当に私のパンへの信者になってしまったのか。語り出す様からはとてもおどおどした雰囲気が見られない。
少し……いや、だいぶ誇張して語り出すので。
それを、ミュファンさんではなくお友達のサイラ君が首根っこを掴んで大人しくさせました。
「わーったから、少しは落ち着け。チャロナ引いてるぞ?」
「え、えー?」
「えー、じゃなくて。チャロナ、着替えるんじゃね?」
「あ、そうだった!」
「素敵なワンピースを汚してしまうわけにはいかないですものね。こちらへどうぞ」
ミュファンさんに案内された個室でささっと調理用の制服に着替えて。
またミュファンさんに案内された、これまた喫茶店には大きい調理場に到着してから。
サイラ君達は見学することになり、私とレイリアさん主体でチョコチップクッキーを作ることに。
「絞り出しよりも簡単なのと、今日はアーモンドも入れましょう」
「は、はい。頑張ります」
「では、まずは室温でバターを柔らかくしましょうか?」
「え?」
「え、いつもどうしてたんですか?」
「な、鍋にいれて溶かして」
「う、うーん。そうですか」
急いでいる場合は正解でなくもないけど、湯煎はまだしも直火はあまりよろしくない。
生地に混ぜると、もろもろになって固まりにくくなるとか。
冷やした時に、ところどころムラが出るとか。
だから、出来るだけ室温で柔らかくするのがいい。
「あ、あたし、そう先輩に習ってきたんですけど」
この内容は、やっぱり【枯渇の悪食】による影響が多少なりとも出てる証拠だ。
これだと、このお店のパン以外も少し心配になってきたが今は置いておこう。
まずは、レイリアさんのクッキー作りからだ。
「とりあえず、今日は基本からもう少し掘り下げて覚えていきましょう。余裕があれば、絞り出しクッキーも作ります」
「は、はい!」
「では、先にチョコを刻んでいきます」
チョコチップも一応発見はしたけど、
ただ、
「こ、こう……ですか?」
ビビりが慎重になり過ぎて、包丁を持つ手も危うかった。
「そんな慎重にならなくても……」
「ご、ごめんなさい。包丁握るの久しぶりで……」
「普段も、野菜を洗うのしか手伝っていませんからね?」
じゃあ、バター切る時とかどうしてるんだろう?
スプーンとか、バターナイフで切り分けてる感じかな?
聞いてみると、バターナイフでなんとか頑張ってたそうだ。
「大丈夫ですよ。急がなくていいので、こうして切っていきましょう?」
「は、ははは、はい!」
コン、コンっとゆっくり見本を見せれば、レイリアさんもなんとかチョコを刻んでいく。
いい前進になったので、この調子で行こう。
「今の季節は夏ですので、バターは少し外に置いておくとこれくらい柔らかくなります。次は生地作りですね」
「は、はい」
「力まずにリラックスですよー?」
「り、リラックス……」
アドバイスしたつもりが、逆にカチコチになっちゃった。
少し離れてたとこで見てたロティが、彼の前で手を振っても無反応。
「レイリアー、そんな緊張すんなって。せっかく待ってたチャロナが来たんだから、色々料理の事について聞きたかったんだろ?」
ここで、耐えかねたのかサイラ君が言葉を投げかけてきた。
それが聞こえてたのか、レイリアさんはしゅんと落ち込んだ表情になった。
「う、うん。そうだけど……」
「だーいじょぶだって。すぐに自信持てとは言わねーけど、チャロナの言う通り力まずにやれよ。少し包丁も使えるようになっただろ?」
「あんた、いい事言うじゃないの?」
「へへ。毎日エスメラルダさんにしごかれてるしー」
うん、サイラ君えらい。
今の言葉だけでも、友達からのアドバイスだからか、レイリアさんの表情も少しおどおどしてるだけになった。
「さ、頑張りましょう?」
「は、はい」
「次は、粉類を先に混ぜ合わせておきます」
アーモンドは小さく砕き、薄力粉と重曹に塩少々は混ぜておいて。
ここでも、ロティじゃないので魔石使用の窯を予熱しておきます。
「そ、そこは先輩達に教わった方法と一緒です」
「では、温度に問題はないって事ですね。次に生地ですが、粉類とは別にバターや砂糖達を加えて、クリームのようになるまで混ぜていきます」
「は、はい!」
ここは基本、どのクッキーでも同じ。
泡立て器で、ゆるくなったバター、砂糖。バニラオイルなどを。
力み過ぎずに、ゆっくりゆっくり混ぜていけば、綺麗なクリームのようになりました。
「では、この辺りで溶いておいた卵を少しずつ混ぜていきます」
「ぜ、全部じゃないんですか?」
「……全部だと混ざりにくくないですか?」
「ご、ごめんなさい、いつも全部入れてました」
ここでも問題点がわかってよかった。
見本を少し見せ、ほんの少しずつ、もろもろにならないように丁寧に混ぜていくことが大事。
交代すると、混ぜる作業に少し慣れたのか、レイリアさんの手つきが少し良くなってきていた。
途中ヘラで混ぜていき、もろもろにならずに混ざったら、粉類も数回に分けて混ぜ。最後に、刻んだチョコにアーモンドの投入。
「焦らずゆっくり混ぜてください」
「は、はい!」
全体的に混ざったら、生地の完成だ。
「次に焼きの作業の手前ですが。蝋で加工した紙を鉄板の上に敷きます」
「あ、それも習いました!」
「と言うと、絞り出しクッキーの出来具合も納得ですね。この上に、スプーンを使って」
スプーンを二本使って、専用のオーブンシートの上に乗せ、少し平たくするだけ。
「これを、鉄板一枚につき20枚ほどやってみましょう」
「は、はい!」
ここからは、レイリアさんに作業を任せて。
途中潰し過ぎもあったけど、アドバイスをして生地を整える事でなんとかなり。
全部終わったら、窯の中に入れて蓋を閉じた。
「では、あの時計で10分を目安にしましょう」
「そ、それで焼けるんですか?」
「生焼けも焼き過ぎもいけませんからね。とりあえず、様子見です」
「は、はい!」
で、お片付けをしてる間に、あっという間に10分が経過して。
ミトンを装着したレイリアさんが、唾を大きく飲み込んでから蓋を開けて。
「……うん。いい焼き加減ですね。これを、
「え、生活魔法で?」
「時間がある時は、常温に冷ましておくのもいいんですけど。今日はすぐに食べた方がいいので」
鉄板を全部出してから、レイリアさんに
手にも持てる程よい温度になったので。
見守ってた皆さんと、途中からやってきたリンお兄ちゃん達とも一緒に食べる事になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます