76-4.美味しいけど、難しいパン(ケイミー視点)







 *・*・*(ケイミー視点)









 出来た。


 前の時の、オニマンジュウと言うのも簡単には出来たけど。


 今回は、最初から自分達の手で作ったから。


 本当に、初めて作ったって言う気持ちがあったから。


 すっごく、すっごく嬉しい!



(見た目は、前のオニマンジュウと全然違うけど。チョコのいい匂い!)



 パン、らしいけど。仕上がりは型に入れてても上がゴツゴツしてて。


 でも、部屋の中にチョコの匂いががふんわり広がっていくくらい良い匂いで。


 皆でこれを、チャロナお姉さんのお願いでマザー達に入れてもらった冷たい牛乳と一緒に食べるって。


 マザーや職員の人達も一緒に食べることになった。



「皆、よく頑張りましたね!」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』


「誰も怪我はしてませんかー?」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』



 怪我をしたら大変だからなのと、パンが食べられなくなるかもと皆必死で頑張ったのだろう。


 とりあえず、一人二個食べることになり。


 お皿の上に置くと、まだ少し温かいパンがなんだか輝いているように見えた。



「では、皆さん。いただきましょう」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』



 マザー・ライアがそう言い出してから、簡単に神へのお祈りをして。


 いただきます、をして皆一斉にムシパンに手を伸ばした。



「「「「「あっま〜〜〜〜い!」」」」



 私もだけど、皆一緒に同じ事を言い出した。



(お砂糖も入れてるけど、チョコがすっごく合ってる。美味しい!)



 ゴツゴツした見た目とは違い、パンはふんわりしてて甘くて少しココアの苦さもあって。


 苦さが苦手な子でも、食べやすいパンだ。


 けど、自分達で初めて作った、お菓子のパン。


 その事が分かると、嬉しくて嬉しくて涙が出そうになった。


 とっても、嬉しいもの。



「うん、皆よく頑張ったんだぞ! ちゃんと美味しく出来てるんだぞ!」


「「「ほんとですか!」」」


「「「「ワァ───ヽ(*゚∀゚*)ノ───イ」」」」


「はい。皆怪我もなくよく頑張りました。次の教室でも、頑張りましょうね?」


「「「「ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ」」」」


「次は、いつですか? すぐですか!」


「今度は何教えてくれるんですか!」


「パン作るのにはまだ難しいですか?」


「え、えーと」



 今回のお料理で成功したことで、気分が高まっているのか。


 皆、お姉さんの近くに行って質問をたくさんしてしまってた。


 本当は私も聞きたかったけど、あの様子じゃ大変そうだ。



「あーあ。すぐ教えてもらえねーよ。今日のも、チョコ刻むのとか難しかったし」



 その質問をしにいくはずだった、クラットは向かいの席に座ったまま自分の分のムシパンを食べてた。



「クラット珍し! 最初みたいに、質問しに行かないの?」


「へへーん。俺は思ったんだ。あんなにも、スッゲー事が出来るねーちゃんだしよ。パンを作るのも、スッゲー難しくて大変なはずだ。だから、今聞いても俺達じゃわかんねーよ」


「へー」


「珍しく、ちゃんと考えてる」


「おい、ケイミー」



 たしかに、クラットの言うことは間違っていない。


 今日はほんの少ししかお姉さんのお料理するところは見てないけど。


 あんなにも、早く綺麗にチョコを刻んだだけでも、私達はすごいと思った。


 その後も、もたもたしてたところに何度か手助けしてもらったし。


 だから、きっと今の私達じゃ失敗も大失敗で終わってしまうだろう。


 それをマザー達は知ってるのか、パンパンと手を叩いてお姉さんに集まってる子供達の注意をそらした。



「はいはい。お姉さんも始めに言ってましたよね? パン作りはとても難しいので、順番にお料理を覚えてから作りましょうと」


「「「えー、でも」」」


「私達ですら、美味しく作れないのですから。もう少し、我慢しましょう?」


「「「はーい……」」」



 マザー・ライアの、ちょっと黒い微笑みを見せられたので。子供達も、怖くなって言う事を聞いてから、お姉さんから離れた。


 あれは……あれは、もっと騒いでたら雷を落とされたかもしれない!



「うむ。いい子にしていれば、お姉さんにきっとパン作りを習えると思うんだぞ!」



 シュライゼン殿下も、怖かったのか少し引きつった笑みを浮かべていた。



「さて、次の差し入れは……とりあえず、また二週間後にするんだぞ。お料理教室についても、考えさせてほしい」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』



 また二週間。


 美味しくないパンの生活が始めるだろうけど。


 どうすれば、あんなにも美味しいパンが毎日食べられるようになるのだろうか?


 本当は知りたい。


 知りたいけど。


 なんにも出来ない、まだ小さな子供でしかないから。


 今聞いても、マザー達の役には立たないかもしれない。



「あ。そうでした。マザー・ライアに、他の蒸しパンのレシピは渡しておくので。皆練習してみてください」



 ちょっとしゅんとしてると、お姉さんがすごいことを教えてくれた。



「まあ、チャロナさん。よろしいのでしょうか?」


「いえ。チョコだけじゃ飽きが出てくると思いますし、蒸しパンは種類が色々あるので挑戦してみる良い機会だと思います。これですが」



 そう言いながら、お姉さんは服のポケットからメモの束を取り出してくれた。



「ありがとうございます。私どもも、子供達もおやつの幅が広がると思いますわ」


「是非」


『ワァ───ヽ(*゚∀゚*)ノ───イ』



 そうして、皆で蒸しパンを食べ終えて、お姉さん達も帰って行ったら。


 談話室にマザー・ライアに来てもらって。


 子供達全員でのジャンケン大会が始まった。



「では、公平に。私が出した手に勝った人だけ残ってください」


『ハ━━━ヾ(。´囗`)ノ━━━イ』


「このレシピは皆さんも見れますが、順番は守りましょうね?」


『はい!』



 そうして、ジャンケンを始めると。


 次々に落ちてく中で、私、ターニャ、クラットが残ったのだった。



「なあ。この三人じゃ、一緒に見ね?」


「そうだね」


「私もいいよ?」


「わかりました。では、三人仲良くご覧なさい?」


「「「はーい」」」



 マザーから預かったレシピのメモの中身は。


 10個以上もある、どれも美味しそうなムシパンばかりだった。


 そして、私はお姉さんへ聞きたかった事を翌日になるまで忘れてしまってた。

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