72-1.気づかなかった(シュライゼン視点)







 *・*・*(シュライゼン視点)








 夕飯後に、カイルから魔法鳥の言伝がやってきて。


 夜になってもいいから、屋敷に来いと言われて。


 だもんで、夕飯を簡単に済ませてから爺やにだけは行ってくると伝えて来たは来たんだが。


 カイルの表情がいつも以上に険しいんだぞ!


 俺何かしたのかい!?



「ど、どうしたんだぞ?」


「……その能天気さ。本当に気づいていないのか?」


「な、何が?」


「姫の異能ギフトについてだ。何故、何も疑問に思わない?」


「へ?」


「シュラ様。姫様の異能ギフトには、毎回経験値が入る時に神の声らしき念話が届くんですよ。シュラ様がご同席された時に、その声から労わりの言葉を受けられたと、僕達は今日知ったんです」


「……………………あ」



 すっかり忘れてたし、妹自身がそんなにも気にしてなかったから爺やと一緒に聞き流してたんだぞ。



「知ってて、流したのか?」


「い、いや〜……マンシェリーが特に気にしてなかったから。その後すぐにメニュー決めに切り替えてたし」


「たしかに、姫自身はあまり気にしてなかったが、俺達は違う。知られてる異能ギフトよりもさらに特異な事象ばかりだ。慎重に見守らなくてはいけない」


「ご、ごめんなんだぞ」



 たしかに、そこはカイルの言う通りだ。


 我が妹の持つ異能ギフトは世界にただ一つしか所有されていないものだ。


 この国でも過去に一度も加護として与えられたどの異能ギフトにもない。


 俺も、一度記録を漁ってはみたが。彼女の持つ、料理を錬金術として扱うどころか、パンを美味しくするための魔導具を使って作るなんて。


 どこにも、なかったのだ。



「それともう一つ。俺達は今日会っていないが、例の神が妻を連れてやってきた」


「……へ?」



 な ん だ って?



「いきなり来られたらしいんですよ。今はもう呼べないんですが、その間だけ彼らの通称名は呼べましたし」


「……何しに?」


「シェトラスから聞いたのだと、この前持たせてやったパンの礼を告げる為にやって来たらしい。それと、マックスからの話によれば……世界でも希少価値の高い豆の原種を土産に持って来たと」


「豆?」


「マックスが言うには、姫様達の前世の世界ではごくありふれた豆の種類らしいです。が、この世界では冒険者をやってた僕らでも食べたことがない種類らしく」


「調理すれば、授賞式の後に姫が出したあのパンのように甘いものが出来るらしい。神だからこそ、調達自体は大したことではない。が、それをどうやら姫はラスティ達が世話をする菜園で一部育てるようだ」


「んー、なら収穫は相当早いだろうね?」


「それもなんですが。姫様の持つ異能ギフトにより、以前のジャガイモでも、収穫の速度だけでなく巨大化までしたんです」


「へ? それもいつも起こることなんじゃ?」


「ただ単純にジャガイモを植えただけらしいが、ラスティに与えられてるウルクル神との加護も合わさったせいか、異常な成長速度を見せたらしい。その後に、ウルクル神が気に入られてまた別の加護を与えられたそうだ」


「え、え〜〜……我が妹は神々に愛され過ぎなんだぞ」



 これ、もし王女としての身分に戻るときに公表したら、世界中にどう広まるかわからないんだぞ。


 聞くに、今日来てた青年達はやはり最高神の仮の姿らしく。


 農耕の神が、以前に確認を取った以降はまだあの方からの知らせはない、と。



「加護と言っても、直接的に姫の身を守るものではないようだが。こうも、神々から気にかけられる存在になると、生誕日にも何か仕掛けられるかもしれないな」


「あんまり、予想したくないけどね?」


「けど、頻繁に来るんだったらあり得ないとも言えないんだぞ」



 神であれば、何らかの仕掛けをしてきても不思議じゃない。


 この屋敷には、ウルクル神による加護がいくらか施されていても。


 最高位に立つ神々の方は、存在は更に上。


 加えて、我が妹に異能ギフトを与えられたのなら、何かお考えがあるはず。


 でなければ、王女である女の子一人に、いにしえの口伝を再現させられるわけがない。



「俺達はいけないが、孤児院への差し入れ当日にも何かあるかもしれない。気をつけてくれ」


「わかったぞ。他にはもうないのかい?」


「まさか、陛下に?」


「うむ。まだ起きてるだろうし、執務中でも知らせに行くんだぞ」



 風呂か執務のどっちかだから、知らせないわけにもいかない。


 すると、カイルが机に何かを取りに行って、俺に差し出してきた。



「ん? マンシェリーのレシピの紙かい?」


「それではない。鑑定技能スキルがあっても、通常なら遮断される彼女のステータスだ。今日もらったばかりの、今現在の彼女の状態だ」


「え、これ。借りてもいいのかい?」


「ロティに頼めば、また取り出せる。伯父上に持たせてやってくれ」


「わかったんだぞ」



 一度見させてもらうと、とんでもないステータスばかりだった。


 昔、カレリアづてに紙に書いてもらったのとも全然違う。



「なんだい、この異常過ぎる道具の数々! 知らない間にレシピも増えまくってるし、カイル達全部食べたのかい!?」


「まあ……」


「姫様の思いつきもありますし、食べさせていただけるのは一通り……」


「ずるいんだぞ、ずるいんだぞ!」



 俺だって全部食べたいのに!



(あ〜〜、もしカイルとマンシェリーが結婚したら、余計に食べられなくなる〜〜……)



 結婚については賛成だけど、食欲に関する欲望は潰えてしまいそうだ。


 生誕日に全部打ち明けたら、この中で食べたいのを絶対作ってもらうんだぞ、兄の特権で!



「……今。生誕日以降に作ってもらおうとか考えてなかったか?」


「ドッキーン!(◎_◎;)」


「思いっきり顔に出てますよ、シュラ様……」


「うう……」



 けど、羨まし過ぎるんだぞ。


 もっと頻繁に来たいけど、今は王太子だし、マンシェリーの生誕日に向けて、流石にそうしょっちゅう執務をサボるわけにはいかない。


 ギフラの目も最近ギラギラしてるし、怖いんだぞ!



「ひとまず、なかなかレベルが上がらない現状、姫のステータスに大幅な変化は見受けられない。が、コロンとか言う、経験値とは別の付与効果があるもののお陰で技能スキルのレベルが上がるようだが」


「ふーん。たしかに、魔力値とか、攻撃力とかに関するものは一切ないね? これは単に、『幸福の錬金術ハッピークッキング』に関するものかい?」


「姫様の魔力値についてですが。王家の血を受け継いでおられる以外に、昔マックスが教えてくれた『ケッセン』がありました。その詰まりは僕が取り除いて、今はマックスと一緒に魔法の訓練をされています」


「そうか。不可能なコントロールではもう起きないでほしいから、それは良かったぞ」


「お前が止めて、怪我が治りにくかったとマックスから聞いてるが。それは……どんなものだった?」


「そっか。俺あれの事を君達もだけど誰にも言ってなかったんだぞ」



 あれは。


 王家の血筋どころじゃない。


 下手をすれば、災害級の魔物モンスターに匹敵するくらいの、高密度の魔力の塊だった。


 何故、ケッセンがある状態でそれを可能に出来たのかは不明でも。


 今なら、一つだけわかったことがあるんだぞ。



「誰にも? 伯父上にもか?」


「一応報告はしても、王家の血を受け継いでいる者としての答えだけさ。今の俺なら、一つだけわかったんだぞ」


「どう言うことですか?」


「神の加護を受けているあの子に、その神が一時的にマンシェリーを依り代にしたかもしれない」


「「!?」」



 あくまで憶測でしかないが。


 可能性としては捨てがたい。


 それまで王家の教育を受けてない者が、前世の記憶を持ったとしても、あそこまで堂々と出来るものか。


 マックスユーカならともかく、マンシェリーはほとんど庶民育ち。


 記憶が戻っても、受け答えはしっかりしてるがあくまで平均的だ。メイミーからのマナーレッスンも、授賞式の前後だけだったらしいし。それは、あの事件が過ぎてからのこと。


 だから、おかしい・・・・んだ。



「どちらの神かは俺もわからないんだが。マンシェリーの意識に介入して、なおかつ手助けをしたとなれば……あり得ないこともないだろう?」


「そこまで、なのか?」


「通常の怪我なら高速で治る俺の治癒力がかなり遅れたくらいだ。神の力なら、説明出来なくもないんだぞ」



 この事も、きちんと父上に報告しよう。


 今日また、例の神々が妹の元に来たと知れば。


 だんだん迫って来ている、生誕日に向けて対策を練るかもしれない。それについては、俺も助力を惜しまないんだぞ。


 そうと決まれば、今度こそ俺はステータスの紙を手にしたまま、王城に戻ることにした。

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