71-5.ステータスの疑問






 *・*・*









 カイルキア様に呼ばれるってなんだろう?


 シナモンロールの感想だろうか?


 それとも、他に何か?


 どちらにしても、今日もまた話せるんだと思うと、少しうきうきしてしまう。


 だって、伝えないと決めてても、好きな人とお話出来るのは嬉しいから。


 けど、スキップはせずに、かつ迅速に向かうため今日は魔法陣を使って三階に向かい。


 カイルキア様の執務室にお邪魔すると、応接スペースでレクター先生も座っていらした。



「や、チャロナちゃん」


「わざわざすまないな」


「いえ。……お話と言うのは?」


「とりあえず、こっちにおいで?」



 先生に隣に座るように言われたので、長いお話なのかなと、ロティを膝に乗せるように腰かけた。


 向かい合わせになられたカイルキア様の表情は、少し険しいものに見えた。



「シェトラスから聞いたんだが」


「は、はい」


「マックス達の祝いの席で、レベルが上がったにも関わらず、意識が沈むこともなく付与されたと。何故、言わなかった」


「あ」



 悠花ゆうかさん達のパーティーの際。


 たしかに、サイラ君にケーキを口に詰められた直後、レベルアップの天の声があった気がしたが。


 特に、意識が途絶えることもなく進化機能が搭載されていて。


 ロティも原因が分からず、二人でうろ覚えで気にしてなかったのだが。


 どうやら、それを報告しなかったのがいけなかったようだ。



「別に責めているのではない。が、お前の異能ギフトは特殊中の特殊だ。何があるのか、こちらも予測不可能だからこそ、出来る限り対処出来るように報告は欠かさないでくれ」


「……はい。申し訳ありませんでした」


「そこまで落ち込むな。何も異常がなければいい」


「はい」



 けれど、社会人じゃなくなっても、一応成人した身としてはホウレンソウを守らなくてどうするんだ。


 ましてや、今は正式に雇ってもらってる身なのに。


 肝心なところで、能天気過ぎるのは前世も今も変わっていない。


 これが落ち込まずにいられようか。



「そんなに落ち込まないで、チャロナちゃん。カイルもこう言っているんだし、深くは気にしないで? 僕らは、君に何かあってからじゃ遅いから心配してるんだ」


「……ありがとうございます」


『ご主人様ぁ〜』


「……すまない。俺もキツく言い過ぎたようだ」


「い、いえ」


「カイルのそれはいつもの事だしね?」


「レクター……」



 レクター先生のお陰で、張り詰めてた緊張感が少しずつほぐれていき、肩の力も少し抜けていった。


 だからか、今ならあの時のことを冷静に伝えられるかもしれない。



「きちんと、お伝えします。サイラ君にケーキを口に詰め込まれた直後の記憶なんですが。正直に言いますと、おぼろげなんです。ロティも天の声を聞いたかどうか覚えていなくて、私達もわからないのです」


「……しかし。付与はされてたと?」


「今回の場合、ロティの変換チェンジに関する進化でした。先日フィーガスさんに来ていただいた件で、厨房の規模を拡張したのがそれです」


「なるほど。何かしらの分岐点に立ったはずなのに、いつのまにかチャロナちゃん本人が選択してたってことかな?」


「おそらく……」



 天の声も特に聞こえなかったから、そう言うものだと思い込んでいた。


 あの時、何かあったかもしれないと疑問にも思わずに。


 まるで、誰かに操作でもされたような。



「ともあれ、あとはいつも通りなのか?」


「はい。使い勝手は以前よりも負担が軽くなりましたし、ほとんどいつも通りです」


「他に、何か変化はなかった?」


「変化、ですか?」



 いや、待って。


 一つだけあった。



『にゅ? ご主人様、あれでふか?』


「何だ?」


「いえ。一つだけ思い出しました。天の声から、労わりのような言葉を受けた時があったんです」


「「!」」


「天の……いや、例えるなら神の声から労わり、だと?」


「はい。頑張ってくださいと」


「「??」」



 普通の冒険者のレベルアップでは、天の声なんて聞かないし、私の数少ないレベルアップの経験でもなかった。


 あれは、経験値が冒険者証明書のカードに自動的に記載されることでステータスがわかる仕組みだ。


 私の今の職業ジョブでそのカードがどうなっているのか確認はしてないが、おそらくなんらかの変化は現れているはず。


 主題が逸れたが、今の私には聞こえる天の声から、労わりの言葉を受けるのはやはり少しおかしいのだとこれでわかった。



「ステータスでは何も表記されていませんでしたが、今のところその一回のみです」


「いつだ?」


「リーン様のパーティー当日です。献立をシュライゼン様達と決める時でした」


「あれらは何も言ってなかったか?」


「はい、特には」



 あの時は、私もよくわかっていなかったし、深く追求しないでおいたからシュライゼン様達もそうだったと思ってたけれど。


 今はどう思われてるのだろうか?


 迫ってきた孤児院への差し入れまで、聞かないでおいた方がいいのだろうか?


 決めるのは、私じゃなくてカイルキア様だけど。



「わかった。シュラについては俺から聞いておこう。まだ、何か気がかりなことはあるか?」


「いえ。銀製器具シルバーアイテムの中身が少し増えてきたくらいですが」


「例のアイテムボックスのようなものか。最初からあったわけではなく?」


「はい。まるで、私が今使いたいものがすぐあるかのように」



 今日のアイシングペンの袋もだけど、いつのまにか追加されているのだ。


 銀製器具あれは、最初のステータス確認後の特典で手に入ったものだし、収納棚と同じようにほとんどコロンは必要ないからと触れてはいなかった。



「うーん。すぐに決断を下しても、焦りが出るし。そこについては追い追いでいいんじゃないかな? ひとまず、天の声とかの様子が変わってきたって事なんだね?」


「はい。あれっきり変化はありませんが」


「そうか。レベルについては、どうなっている?」


「30以降からあまり伸びが悪いと言いますか、経験値がかなりいるんです。なので、まだ31なんですが」


「そうか。ピザの経験値で相当上がったと聞いたが」


『ロティも今わちゃってるのは、ロティのレベルが50まででふ。他は、まだ搭載されてましぇん』


「……なるほど」



 とりあえずわかったことは。



 ①天の声の変化


 ②銀製器具シルバーアイテムの中身の増加


 ③伸び悩みの激しい、レベルアップ



 これらについてだ。


 ただし、『幸福の錬金術ハッピークッキング』については慎重に作動させなければいけないので、深く考えてはダメだ。


 それはもちろん、ナビゲーターシステムでもあるロティにも。




「ひとまず、気をつけておくのと。僕らへの報告を随時してもらう事くらいかな?」


「そうだな。……チャロナ、ステータスは紙に出来るのか?」


「出来ます。ロティ」


『ん〜〜模写コピーぃい、ステータスぅ!』




 ◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯






幸福の錬金術ハッピークッキング






《所有者》チャロナ=マンシェリー(16)



《レベル》31(次までは、残り4302575PT)



《ナビレベル》3(次までは、残り245125PT》

[スタミナ]満タン(200/200)



技能スキル

 ・無限∞収納棚


 ・ナビ変換チェンジ(レベル25)

 →ホイッパー三種

 →ミキサー機能(ジューサー他)New

 →トースター

 →オーブンに発酵機能・奥行き拡張

 →炊飯器ライス・クッカー

 →揚げ物フライヤー

 →フードプロセッサーNew




 ・時間短縮クイック(レベル12)



 ・タイマーセット同時機能(レベル10)



 ・複合(レベル6)



 ★技能スキルUP各種の レベルアップPTコロンは、現在500000コロン所持






《特典》

 ・レシピ集データノート



【レシピ】

〈バターロール〉〈コカトリスの卵サラダ〉〈いちごジャム〉〈カッテージチーズ〉〈山形食パン〉〈ラタトゥイユ〉〈チョココロネ〉〈コーンマヨパン〉〈コーンパン〉…………

 ………………

 …………


〈シナモンロール〉



 ・銀製器具シルバーアイテム










 ◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯






「……かなり、技能スキルが増えてるな?」


「これ、パッと見てもチャロナちゃんかマックス以外分かんないよね?」


「そうですね。前世の世界では一般家庭でも使える道具ばかりでしたが」


「昔から少し聞いてたけど、魔導具が多いんだっけ?」


「そう考えていただければ」



 噂でしか知らない、迷宮ダンジョンを動かしてるらしい魔素を利用した魔法道具達。


 それらを総じて、魔導具と呼んでるらしいが。


 私とロティの場合は少し違うが、変換チェンジしてもらった道具達はそう呼ばれておかしくないかも。


 前世の感覚で使ってるから、この世界からしたら突飛過ぎる道具ばかりなのについつい懐かしく思えて。



「……そうか。また見せてくれ。どれだけ変わったのか俺も知っておきたい」


「僕も」


「わかりました」



 とりあえず、お話はここまでで私とロティは厨房に戻ることになった。


 少し反省しながら廊下を歩いていると、ロティに何故かいい子いい子と頭を撫でられてしまった。



『大丈夫でふ。ご主人様は大丈夫でふよー』


「……ありがとう」



 こんなちっちゃなAI精霊にまで心配をかけちゃって、少し情けなく感じてしまったが。


 失敗したけれど、次がある。別に怒られたわけじゃない。


 そう自分にも言い聞かせてから、ほっぺをパンっと軽く叩いた。



「夕飯の仕込み出来たら、明日の餡子づくりの支度しよ!」


『でふぅううう!』



 ユリアさん達にも、美味しいあんぱんを食べてもらうんだから。


 が、ここで一つ思い出した事が出来た。



「ロティ。一旦戻って、小豆を少し持ってから菜園に行こう? 次の作物が小豆になるなら餡子作りたい放題だよ!」


『行くでふぅうう!』



 そうして、厨房に小豆を取りに行ってからすぐに菜園に行くと。



「へー。見た事のない豆だけど、これを甘く煮ると美味しいの〜?」


「はい。以前食べてもらった苺入りのあんぱんと似た感じです」


「あれ、美味しかった」


「これも出来たらすっごく美味しいんだよー」


「おぉぉ!\(●°∀°●)/」


「いいよ〜。スペースはちょうど空いたとこがあるから、今から植えに行っても。エピア、豆の蒔き方教えてあげて?」


「はい。チャロナちゃん、こっち」


「うん」


『でふぅ』



 次がどれくらいの期間で成長するかはわからないけれど。


 ウルクル様と私にあるらしい加護のお陰で、きっとうまく育つはず。


 エピアちゃんに豆の蒔き方を教わりながら、そう思うのだった。

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