71-4.異能の異常?(シェトラス視点)
*・*・*(シェトラス視点)
「……あの青年が、今度は妻を連れて?」
「はい。見た所嘘は吐かれていませんでしたし、奥様らしき方も、しっかりされてる女性でした」
かなり神秘的な雰囲気をまとっていらしたが、あの方が女神の一柱という可能性は捨てきれない。
けれど、深く関わり過ぎると、今は口に出来る彼らの名前以上に『なにか』を封じられてしまうだろう。
旦那様もレクターくんも、お出ししたシナモンロールをすぐに食べる事なく、私が報告した内容を考えられている。
そう間を置かずにやって来られたのだから、旦那様方がお考えになられるのも無理はない。
「……シェトラス、その青年は今は姫と?」
「はい。短い時間とは言え、彼とは一緒に料理を作った仲ですし。今はご歓談されてるかと」
「まあ、普通だよね? けど、わざわざお礼を言うのに奥さ……ま?まで来られるとは」
「礼を言うのに男女は関係ないだろう?」
「そうだけど。神かもしれない男女が二人もだよ? 姫様は全然気づいていないんだから、そこは」
「それなのですが」
「「ん??」」
私はある可能性をお二人に告げる事にした。
「姫様の
「何?」
「ご本人があまり気にされていなかったので、私も特に言わなかったのですが。サイラ君が姫様のお口にケーキを詰め込んだ後ですね。『
「そこで、なにかが?」
「ええ。一定のレベルに到達して新
「その時だけ、その兆候がなかったと?」
「はい。何事もなかったかのように、付与されてもそれがありませんでした」
あのわずかな時の中で、フィルドと呼ばれているあの神がなにかを姫様に施していても何ら不思議ではない。
だが、何故あの瞬間だけなのかが、私は気がかりに思っても、すぐに旦那様へ報告しづらかった。
それは、あの神がご自分の名に関する事などを封じたから。
だから、また何か封じられるのではないかと、今日まで言えなかった。
今のところ、口にしても何も変化は起きていないようだが。
「たしかに。姫の
「一度、姫様に確認を取るのもいいかもね?」
「本人は然程気にしていないところだが……これは、異常とみなしてもいい。シェトラス、あとで姫に来るように告げてくれないか?」
「かしこまりました」
話が一旦区切りがついたので、お二人はようやくシナモンロールに手をのばされた。
「!」
「うっわ。コーヒー以外でこんなにもシナモンを使うだなんて発想、初めてだ」
「けど、それ以上に香ばしい匂い……シェトラス、これは?」
「姫様に教わりながら作りました、アーモンドの粉をベースに使ったクリームの香りです」
姫様が仰るには、タルト、と言うケーキなどにも使えてかつ美味なるクリーム。
そのままだと食べにくいが、焼く事で甘味と増してさらに香ばしさも。
お二人が、ちぎって口にされようとすると、アイシングで乗せた砂糖衣がポロポロと落ち出してしまった。
「これは……?」
「アイシングと言う、砂糖を練ったもので飾ってあるんですが。欠点はもろいところで……」
「けど、しゃりしゃりして美味しい。クリームの部分も香ばしくて!」
「! これは、いいな」
驚かれたが、私が説明した直後に構わず口にされてから、お二人の表情が少し綻んだ。
特に、旦那様は幼き頃より久しく目にしていないので、私も少しばかり驚いたが。
(旦那様のお心をここまでときほぐされるとは……やはり、姫様だからこそですね?)
私は、単純に姫様が旦那様を想われていると知っているだけだが。
この方はどうなのか。
マックス様とは違い、そう多く接していないゆえに知らないだけでいるが。
きっと、旦那様は義務感以上の感情をお持ちに違いない。
そう、私は心より願っていた。
(あの頃のように、姫様の一番になられたいと仰って欲しいものだ……)
今その事を聞く機会ではないし、差し出がましい事だ。
私は、私のなすべき事をするまで。
ひとまず、姫様に旦那様がお呼びだとお伝えすべく戻ったが。
ちょうど、姫様があの方々をマックス様とご一緒にお見送りされたようだ。
階段を降りたところで、合流したのだった。
「あちらはもうお帰りに?」
「はい。シナモンロールを召し上がっていただいたんですが、お土産をくださってからは本当にすぐに」
「お土産?」
「あたしとチーちゃんには馴染みが深い豆よ。ほんと、あれどこで手に入れたんだか」
「そんなにも珍しいものが?」
ただ、あのお二方が神であられるのなら、手に入れる経緯は然程難しくはないだろうが。
「
「それは興味深いね?」
マックス様は、あの方々が神とご存知なのかは私も知らないが。
が、どうやら思うところはあるようだ。
私に目配せすると、アゴでくいっと向こうにと、メッセージを下さった。
なので、姫様とロティちゃんには旦那様のところへ行くようお願いして、マックス様と別室でお話する事に。
「あんたは、どこまで気づいてる?」
「と申しましても、また御名を口に出来なくなったあの方々が神であることしか」
「あたしもそのくらいよ。今日来た女の方も、あれ絶対女神だわ」
「やはり……」
「チーちゃんに
「これから頻繁に来られるのですか?」
「一度、あんぱんが出来上がる頃に来る予定ではいるわ。そこからどうするのかは今んとこわかんないけど」
ラスティ君が神の末席になる事だけでも凄いと思ってた時期もあったが。
それ以上に、神がこの屋敷に頻繁に来られるかもしれない?
いったい、この屋敷……いや、姫様はどうなってしまわれるのだろうか。
ただでさえ、
「この事は、姫様は?」
「一切、気づいてないわ。カイル達はなんて?」
「そこをお伝えになられるかはわからないですが、姫様の
「何よ?」
「貴方様とエイマーとの祝いの席で、姫様がサイラ君に口いっぱいケーキを詰め込まれた時です。あの時に、レベルアップされたのに何も変化がありませんでした」
「マジ?」
「姫様ご本人も、特に気にされていなかったのと。神々から何か制約をかけられてるのかと思い、今日まで口に出来ませんでした」
「だから、その神本人がいた今日にね。賢明な判断だわ」
「……そうであって欲しいのですが」
今更ながら、美味しく食べたはずのシナモンロールの後味が少し苦く感じたのだった。
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