66-2.旦那様が夏風邪②(カイルキア/マックス《悠花》視点)







 *・*・*(カイルキア視点)









 絶対、わざとだ。


 むしろ、この状況を楽しんでる節がある。


 レクターが、自分ではなくチャロナに介抱を頼むと彼女に言って出て行ってしまい。


 微妙に気まずい空気に取り残された俺達は、どちらから口を開けていいのかわからないでいた。



「え、えーっと……」



 姫自身、俺を介抱する予定もなく、本当ならレクターに任せて厨房に戻るはずだっただろうが。


 あわあわ慌てている様子も、また愛らしい。


 それに、せっかくの機会。


 乳兄弟が作ってくれた好機に、乗ってみようかと思うのは。


 昨夜の余韻だけでなく、きっと風邪を引いたからかもしれない。


 普段の俺だったら、自分で食べると言いそうだが。



「…………すまない、が。食べさせてくれないか?」


「ひゃ、ひゃい!?」



 素直に言葉を口にすると、姫は面白いくらいに顔を首まで赤く染め上げながら俺を見てきた。


 一瞬笑いそうになったが、代わりに出てきた咳で誤魔化すことが出来、姫は姫で慌ててスプーンを手に取る。



「え、ええと……口を開けていただけますか?」


「あ、ああ……」



 幼い頃、まだ体がそこまで丈夫ではなかった以来だが。


 母や使用人にしてもらう以来、久しぶりに他人に食べ物を口に運んでもらった。


 少し大きめに口を開けると、姫はゆっくりとパン粥をすくったスプーンを入れてくれた。



「ん!」



 シチューの味がするが、何故かいつも以上に甘い。


 確か、トウモロコシを使っていると言っていたが、くどくなくて優しい甘みだった。


 煮込まれてるパンも、相変わらず美味くてとろとろになっていて。


 シェトラス以上に、美味いシチューの粥だった。



「……美味い」


「よ、良かったです。もっと召し上がられますか?」


「ああ」



 それから、計三杯は粥を食べさせてもらい。


 食べた満足感からか、いい具合に眠気もやってきて。


 姫が台などを片付けてから、俺は少し微睡みに身を任せたのだった。








 *・*・*(マックス《悠花》視点)







 全く、由々しき事態だわ。


 カイルが超絶久しぶりに熱を出しただなんて。


 朝の特訓に最近は付き合ってたのに、なんでか来ないからメイミーから聞いたんだけど。


 まさか、軽くても夏風邪を引くだなんて思いもよらなかったわ。


 だから、ちょっとばっかしからかいに行ってやろうと思ったら。



「……何してんのよ、レクター?」



 カイルの部屋の前で、むしろ中にいるはずのレクターが何故か覗き見をしていた。


 こっちに気づくと、こいこいと手招きしてきた。



「何よ何よ?」


「いいから、面白いのが見れるよ?」


「はーん?」



 カイルの部屋で面白いもの。


 それと、レクターが部屋から出てるってことは。



(まさかまさか!)



 チーちゃんが関係してるわけ?


 それなら、超絶に面白いことじゃないの!


 当然、あたしも覗き見に参加したわ!



「あ、始まるよ」



 しーっと、お互い頷き合って扉の隙間から覗いてみれば。


 チーちゃんらしき背中で少し見えにくいが、何かをカイルに差し出しているのが見えた。


 あれは、俗に言う『あーん攻撃』ではないだろうか!



「何、やだ。結局の所らぶらぶじゃないの。あの二人!」


「微笑ましい光景だよね。今までのカイルじゃ、誰にも許さなかったのに」


「ほんとほんと、堅物過ぎて女を片っ端から追っ払ってたし?」



 と言っても、ちやほやしてほしい嫌な女連中にはだけど。


 チーちゃんはそれに全然当てはまるどころか、逆に惚れられてるんだから、受け入れられて当然だ。


 けど、カイルは昨夜も言ったように、チーちゃんの身分が明かされるまでじゃ告白をしないと言っていた。


 気持ちも理由も分からなくもないけど、今の状況お似合いよと言いたかった。



「……二人は、まだこれからだし。焦らず見守っていこうよ」


「……そうね」



 16年ぶりの再会に加えて、互いを想い合う関係になれたんですもの。


 慌て過ぎて、関係を壊したくはないわ。



「あ、終わったみたいだね。姫様こっちに来ちゃうし、あとはバトンタッチするよ」


「ええ。ところで、なんでカイルが簡単に寝込む事になったわけ?」


「んー。なんでも、夜中に鍛錬し過ぎて、汗拭かずに寝たから……だったらしいけど」


「何がなんでそうなんのよ」



 鍛錬はいつものことでも、あいつにしちゃ甘過ぎる自己管理だけど。


 そこは今から問い詰めように、どうやら寝たみたいなので後にすることにした。


 ひとまずは、出てきたチーちゃんに朝の挨拶をして一緒に厨房に行く事にしたけど。



「んもぅ、悠花ゆうかさんも見てたんなら手伝ってよ」


「あたしが手伝ったところで、あいつに追い打ちかけるだけよ?」


「う、言われてみれば」


「だもんで、二人のイチャイチャタイムに貢献したわけ」


「い、イチャイチャしてないもん!」


「だって、カイルにあーんってしたんでしょ?」


「もう!」



 こう言う感じに、本来王女様の彼女と駄弁っていられるのは貴重な時間ね。


 マブダチの座は誰にも譲らないのは今更だけど。


 チーちゃんとカイルにも、幸せになってほしいと思うわ。あたしやエイマー、レクターとリーンを導いてくれたように。



【マスター、俺っちそろそろ行ってくるでやんす】


【はいはい】



 そう言えば、今朝は少しゆっくり寝てたレイに一言告げてから、あたしはチーちゃんと食堂に向かうのだった。

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