61-1.寄せ書きの思い






 *・*・*








「んんんんん! うんまい! チーちゃん天才よぉ!」


「あ、ありがとう」


「本当にうんまいぞ、チャロナ〜!」


「てか、なんであんたまでいんのよ」



 少し遅いお昼ご飯を悠花ゆうかさんと一緒に食べてたんだけど。


 何故か、タイミングよくシュライゼン様もやってきて、食べたいと豪語し始めたので作ったわけだが。本当に凄い勢いで食べ進めていく。


 ちなみに、メニューはお弁当と同じメンチカツサンドと夏野菜の素揚げだ。



「んん〜〜、この揚げ物のボリューム感もだけどソースが食べたことがないのに……もぐもぐ……絶品過ぎて飽きが来ないなぁ! もぐもぐ……野菜と食べても美味しいし、途中からレモンをかければさっぱりとして食べやすいし、もぐもぐ」


「食リポはいいから、用件おっしゃい!」


「もぐもぐもぐもぐ! あー、食べた食べた! 何、次の孤児院への差し入れの内容と料理教室でのメニューを、もう決めておこうかと思ってね?」


「あー」


「は、はい!」



 それはたしかに、ざっくりとは決まってはいても、具体的な提案としては成り立っていない。


 特に、料理教室についてはすっかり抜け落ちていたのだった。



「調理の出来る年齢を考えると、この間の10歳前後にしようと思う。そうなると、普段から刃物の使い方はマザー達を手伝ってるから多少出来る。ひとまずは、彼らを中心にしようと思うんだぞ」


「んでもって、今回は何を教えようと思うの? 菓子?料理?パン?」


「うーん。パンは俺もあれだけ苦戦してるから、この間のようなものがあればいいんだけど」


「お菓子……で良ければ、少し似たパンのお菓子があります」


「そうなのかい?」


「あ、チーちゃん。蒸しパン?」


「そうそう」



 鬼まんじゅうには使ってない、重曹やベーキングパウダーがあれば可能ちゃ可能。


 幸い、重曹は食用のものがあるのは確認済みなので、出来なくもない。



「むし……虫の形のパン?」


「とぼけなくていいから! この間のと同じで蒸すことで出来るパンよ」


「ほう! それは甘いの?しょっぱいの?」


「基本的に甘いパンになりますね。差し入れがお昼のパンですし、甘い方がいいと思ったんですが」


「ふんふん。それもいいかもしれないが、あの子達からの寄せ書きももらっててね?」



 すると、お得意の指鳴らしで手紙の束を登場させて、まとめた紐を解いてから私に見せてくださった。





『チャロナ先生のように、おいしいパンが作ってみたいです』


『カレーパン作ってみたいです!』


『ふわふわのパンがまた食べたいです!』


『チャロナ先生にまた会いたいです!』


『パンが作りたいです!』





 拙い字でも、思いは十分に伝わってきた。


 それだけ、私やロティの作ったパンを美味しいと思ってくれたなんて。


 思わず、涙が出そうになったけど、せっかくの皆からの寄せ書きを台無しにしちゃうからぐっと堪えた。



「まあ、こんな感じでパン作りが圧倒的に多いんだぞ。とは言っても、やっぱり難しいだろうし……」


「ですと、なおの事蒸しパンからスタートさせた方がいいと思います」


「そうなのかい?」


「はい」



 そこから、少し講義調になってしまったが。


 パンの基本の一つ、温めて発酵を促す行為を、熱を加えるだけで可能にする調理法がポイントとなるのを伝えることに。


 それを初心者が多い生徒達に、見て自分で調理するには持ってこいだと思われる。


 パンの発酵は特に見極めが難しいので、いきなりは困難だが、蒸す行為だけならそこまで難しくもない。


 材料を混ぜて、蒸す準備をすればあとは火と蒸気任せだし。


 そこを踏まえて説明すると、シュライゼン様の目は輝き出した。



「それはすごいんだぞ! この前と同じような調理工程でも全然違うものが出来る上に、パンの勉強にもなるだなんて!」


「ただ、欠点は食事向きのが出来にくいんですよね。そのタイプですと、包む作業が難しいためにいきなりは作るのは困難ですし」


「チーちゃん、それってまさか『肉まん』?」


「うん、ピザまんとか。出来なくはないけど、包餡ほうあんの工程は大人でも難しいから」


「そうねー」


「にくまん??」


『お肉ちゃーっぷりの、あちゅあちゅのおまんじゅうでふぅうう!』


「それも食べたい!」


「え、今はダメですよ?」


「おおう(*´Д`* )おうふ」



 だって、今から仕込んでたら、せっかくのプリンが作れない。


 それを正直にお伝えすると、また目を輝かせながら、頭とお尻に犬の耳尻尾が動いてるように見えた。



「そうよん。今日はあたしの先約でプリン作りなんだから」


「プリンって……確か、君が昔から何回か言ってたお菓子の王様?」


「そうよ! あたしにとってはね!」


「そう言えば、作り方の指定がなかったけど。悠花さんは『何』プリンがいいの?」



 色々あるし、大抵は作れるからどれにしようか迷っていたのだが。


 すると、悠花さんは『ふっふっふ』と笑い出したのだった。



「せっかくのチーちゃんのお手製だし、プリンアラモードで食べれるのがいいわ〜〜!」


『あ〜〜、マスター言ってたでやんすね』


「そうよ。パフェも捨てがたいけど、プリンが主役になるのならアラモードの方がいいわ! もちろん、言い出しっぺのあたしも手伝うわ!」


「俺も食べたいから手伝うー!」


「んー、じゃあ今回は蒸し焼きにする方のプリンで!」



 ゼラチンもあるのでなめらかプリンに出来なくもないけど、アラモードにするのなら少し固めがいい。


 なら、蒸し焼きのプリンがいいので、作る前に銀製器具シルバーアイテムの一覧を見てプリン型があるかどうか確認したら。


 五十個セットで伸縮可能なプリン型ってのがあったからそれを使おう。



「作るのはそんなに時間がかからないので、先に差し入れのパンの内容を決めても構いませんか?」


「うん、いいんだぞ」


「おっけー」



 とりあえず、今候補に上がっているのは。



 ピザ各種

 焼きそばパン




 ピザだけに限定してピザバイキングにさせてもいいし、焼きそばパンと他に野菜メインのサンドイッチを入れるのも悪くない。


 これは、子供達の笑顔を考えるとどっちも捨てがたいが、両方やってしまうと後で蒸しパンが入らなくなるから却下だ。



「ヤキソバパンって、どんなパンなんだい?」


「そうですね。そば……と呼ばれるパスタを使って、さっき召し上がっていただいたメンチカツにも使ってたソースを絡めて炒めるのが焼きそばです。それをパンに挟んだサンドイッチの一種と思ってくだされば」


「パスタをパンに?」


「普通のパスタでも出来るわよねぇ?」


「あ、ナポリタンドック! どうしよう……身近にあるのならそっちも捨てがたい!」


「え、えぇ? どんなのになるんだい?」


「意外にも合うわよ? 味は濃いけど、パンと食べるのならちょうどいいし」


「明後日の。リーン様とレクター先生のお祝いパーティーって、シュライゼン様来られますか?」


「リーンとレクターのか! うむ! やっとくっついたあの二人のなら行くとも!」


「その日のお昼に試作してみます。カイル様にお願いして『麺』も調達しますし、最終選考ってことで」


「そうしよう!」



 ピザの味はもう知ってるからそっちはお預けで。


 作る予定も立ったら、いよいよプリン作りに取り掛かります!

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