59-4.神々の集い(ウルクル視点)
*・*・*(ウルクル視点)
漂う事しばし。
相も変わらず、この闇にも光にも通じるところは静かじゃ。
妾は、神界に漂ってからしばし、ずっとあの方達の元へと向かってはおるのじゃが一向に着かないでいた。
(…………これは、もしや読まれている?)
妾があの王女と接触した事については、とうに筒抜けになっていてもおかしくはない。
じゃが、妾からあの方々に接触しようとする事については、どうやら拒否されてしまっているようじゃな?
(…………なら、この辺りが良かろう)
進むのをやめて立ち止まり、辺りを一度見渡してから上に顔を向けた。
『気づかれていらっしゃるのなら、この声も届いておられるはず。何処ですじゃ? お二方?』
名を紡げぬ今は、無礼であろうともこう呼びかけるしかない。
すると、
「……ふふ。お前は、真っ先に来るだろうと思ってたよ」
姿は妾の知る方ではあるはずだが。
かなり、若い。
以前なら、妾の口調以上に年老いた姿でいらっしゃったはずなんだが。
どう言うわけか、久しく会っていない年月を差し引いても、若い姿になり過ぎている。
じゃが、訳あってだろうと言うことも、妾にはわかる。
「……何故、とお聞きするのは無粋ですかの?」
「うん。『今は答えられない』としか俺も言えない」
「口調までもですかの。それは、姿に合わせて?」
「そーそー。似合わないからって、奥さんが言うから」
「ほっほ。お熱い仲は相変わらずですかの?」
「まねー?」
口調まで年相応でなくては、『動きにくい』事があると言う事か。
つまりは、あの王女に関連するやもしれない。
記憶は読み取れなかったが、この方が接触されていたのならば無理もない。
妾など、この方と比較するまでもなく、雛以下よ。
「…………であれば、妾は早々に退散した方がよろしいですかの?」
「まあ、そんな急ぐことはないよ。ね?」
「…………そうね」
「おや?」
いつから、と言うのも無粋かもしれないが。誠に気づかなんだ、奥方であらせられる我らが女神の長。
最初からかもしれないが、夫君の背からするりと出て来られ……その姿も、妾が知る姿よりもだいぶ若くてあどけない。
こちらも……と言うことは、あの王女は世界の『何か』を握っているのやもしれないのぉ。
「…………ウルクル。あなたが加護を与えた子が近くにいることから、いずれは我々の元に来ると予感はしてたわ」
「……予知ではなく?」
「今、訳あって私達二人は必要最低限の神力しか使えないでいるの。この世界の先のために……あなたも気にかけた、あの王女のためにもよ」
「! やはり、ですかの?」
「だいたいは予想してるようだけど。異世界……異界の魂を引き取ってまで、この世界に定着させようとしてる事。そこが重要ね」
「……妾がすべてお聞きしても?」
「むしろ、仲立ちの一人として加わってほしいわ。なんだかんだで、あなたもあの王女が気に入ったのでしょう?」
「ほっほ。ほんに」
打ち明けついでに、引き込むと言うわけか。
(……じゃが、妾もあの王女についてなら興味深い)
都合も、好都合。
断る道理も、特にない。
なら、と、姿勢を一度正して最敬礼を披露した。
「お前なら、頷いてくれると思ったよ」
「妾でなくとも、ではなく?」
「あそこと一番近しい神は、正直言ってあなたしかいなかったわ。だからこそ、こちら側に来て欲しかったの」
ほかの近しい神もいなくはないが……ラスティと言う、将来は末席に降る神の候補に近いもの。つまりは、妾が見つけた番の魂……がすぐそばに居るからやもしれない。
あの子も、ずっとではないが、あの王女の近くにいる。
これほど、神とその候補に近しい者もそう多くない。が、あの王女は言わば『後入れ』。
他所の者であろうとも、妾と近しい神力に多少でも触れれば、すべて妾に伝わってくる。
それを知った上でも、妾はあの王女があそこに居る事を許した。知り過ぎたかもしれないが。
『ほっほ。妾は伝わってきた知識などで興味を持った程度でしたがの。あれだけ豊富な加護をお与えになられたお二方に、何故とお聞きしとうございました』
「けど、私達を見て考えが変わったかしら?」
『ほんに。そのお姿だけで、よぅわかり申した』
それについては、これ以上何もお聞きしてはいけない。
いけないんじゃ……と、妾も込み上げてくる言葉達を飲んだ。
それを、長もわかってくださったのか、小さく苦笑いされた。
「あなた達には色々我慢させてごめんなさいね。けど、あの子……ひいては、この世界の修復のためにもこれは必要な事なの」
「名前は俺がヘマしたからだけどさ。今のヒトの子は勘が良過ぎる」
『ほんに。マックスですかの?』
「そうそう。あっちの転生させた子。あれも、『
『なんと。気づかせておらなんで?』
「させてないよ、今は。色々ややこしくなるし」
元から仲が良いとはラスティに聞いてはいたが、生前から知己の間柄でいたとは。
それをもし知った場合どうなるのか。今は、妾からも言えないので、口を閉ざすしかない。
「打ち明ける時期も、実は俺達の方でまたさらに先延ばしにさせてあるんだ。悪いけど、今はまだチャロナが王女であることは言えない」
『あの者達が手を加えておるのに、ですかの?』
「今のままじゃ、まだまだ王女としての功績は少ない。なら、その功績を作らせるために、俺達が動こうってわけ」
「策はもう練ってあるの。あなたとかには、無言でいてもらうくらいしか出来ないけれど」
『ほっほ。わかり申した』
何もお考えにならずに、この方達が動かれるわけがない。
それと、あの王女のためになるのならなおのこと。
そのような話を幾度か繰り返した後に、妾はその場を後にすることにした。
(……ラスティ。ああ、ラスティ!)
離れた途端に、ラスティにふいに会いとうなった。
こんなにも、己の番に会いたいとは思わなんだ!
力の限り、急いで神界から飛び出して、もう寝る直前だった、彼奴の前にも飛び出した。
「うっわ!……ウル?」
『どうじゃ、驚いたか?』
「驚いたけど……何かあったの?」
妾がいきなりやって来る事はよくあることでも、こんな夜半に会いに来るのはついぞない。
しっかりと受け止めてくれたラスティに抱きつき、妾は今言える言葉だけを口にする事にした。
『あの王女については……色々あるが、心配はせんで良い。良いのじゃ……』
「そっか。君でもそれしか言えないんだね?」
『ほんに、すまなんだ』
「いいんだよ。姫様に何もないのなら」
それについては、『応』と答えられぬ。
カイルキア達が動いてる事については止めなくてはならないと言うことを。
妾は知りながらも、答えられぬのじゃ。
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