45-1.魔力無限大
*・*・*
夕ご飯にグラタンスープが決定となっても、することがそう多くないので。
シェトラスさんとエイマーさんのパン作りの練習にお付き合いすることに。
とは言っても。
「「……………………」」
『でっふぅ?』
「ロティ、しーっ」
「「……………………」」
今の作業は、分割と1回目の成形。
スケッパーと計りは私がお貸しして、一人が生地を分割して計り、一人が丸めて鉄板に乗せていく。
たったこれだけの作業でも、お二人は無言で真剣に作業の方に集中。
はじめの頃は、本当にびっくりしたけれど。
『生地を押し付けちゃダメです!』
『お気持ちは分からなくもないですが、生地を引っ張り過ぎてもダメです!』
『丸める時に握り過ぎては!』
などと、私の作業を見てても、今までの癖がすぐに治るわけもなく。
一ヶ月近く経った今日のようになるまでは。とにかく、毎日がアドバイスしまくりの繰り返しで大変だった。
本番の成形まではまだまだ難しいが、ここに来るだけでも相当大変だったもの。
「……よし」
「お、終わった。……チャロナくん、大丈夫かな?」
「はい。合格圏内には到達しました。明日からは、少しずつ本番の成形に移りましょう!」
「「おー!」」
【枯渇の悪食】の影響のせいで、ずっと間違った知識を植え付けられたこの世界では。
前世の知識を持つ私以外、まだまだ美味しいパン作りを出来る人間がいないようだから。
長い目で、技術の改変に取り組むしかないもの。
お城の方には、前に勤めていらっしゃったシェトラスさんがお伝えする予定だし。ひと月でこの進歩なら、半年以内までにはバターロールだけでも彼らに伝授出来そうだ。
コンコンコン
生地の乗った鉄板を、無限∞収納棚にしまった時に。廊下側の扉からノックが。
「私が行こう」
と言うわけでエイマーさんが行ってきてくださると、『わっ』と言う声を上げた直後に私のとこまで戻ってこられた。
「フィーガス殿がお呼びだ。マックス……もだが」
「お二人が?」
依頼についてかなぁと思って、全部終えてからロティと向かったが。
途中、エイマーさんが
「よ、嬢ちゃん」
「チーちゃん、式の後に仕事って疲れてなーい?」
こちらは、まだ式の時の服装のままなお二人。
本当に、悠花さんもだけどフィーガスさんもカッコいい。
けど、カイルキア様もいつも以上にカッコ良かったなぁ。貴族様の正装!って感じにビシッと決められてて。
私のドレス姿を見た時には、どうしてか……褒めることも何もなく、ただ泣きそうになるのを堪えていらっしゃったのは、わからない。
フィーガスさんは照れ隠しとか、あの時言っていたけど。
「帰る前に、確認取りに来たんだよ」
「私に、ですか?」
「ほーら、昨日あたしとカイルが提案したじゃなぁい。チーちゃんに魔法の特訓させてやるって。こいつ、時々でいいならって引き受けてくれたのよん」
「あ」
『でっふ!』
そう言えば、昨日の今日だったのにすっかり忘れていた。
最敬礼と授賞式のこととかで頭がいっぱいになってたから……。
と言うことは、フィーガスさんが私の魔法についての先生になってくださるのは決定に?
「よ、よろしくお願いします!」
「おう。教えんのはまー久々だが、初歩確認だけはしてぇから今いいか?」
「確認?」
「マックスには聞いてるが、魔力量についてだ。あと、増えた前後で使えなくなりそうだった生活魔法もあっただろ? あれでいいから見せてくれ」
という事だったので、二時間くらいは抜けるようシェトラスさんに許可を取りに行き。
汚してはいけないからと、冒険者だった時に着てたキュロットスタイルの服の一つに着替えて。
裏庭でも、カイルキア様も魔法の特訓に使われるらしい、広々とした場所に移動した。
所々、えぐれてるような箇所があるけど気にしないでおこう。
「転移で取ってきたが、これに見覚えねーか?」
私が着替えている間に、お二人も着替えられてたようで。
フィーガスさんは、顔くらいある水晶玉のようなボールを抱えて、私の前に立った。
「魔力測定器、ですよね?」
二年前、冒険者ギルドの登録でも触った事のある道具の一つ。
あの時は平均以下と判定されたけれど。レイ君に測ってもらったお陰で、あの頃とは全然違うのは知っている。
だから、色んな意味でドキドキワクワクしながらその球体を覗き込んだ。
「わかってんなら、話は早い。これに触れば、ステータス値のように数字が出るわけだ。ちなみに、そこのマックスでも最高値の9割くれぇだったな?」
「ほぼ無限、だもの。仕方ないわん」
「嬢ちゃんのステータスとか、うちのカーミィに見てもらえりゃ良かったが。そりゃまた今度な?」
さあ、と促されたのでロティを悠花さんに預けてから測定器に向かい合う。
不安がないわけじゃないけど、どんな数値が出てくるかはわからない。
ドキドキしながら、触ると冷たかった球体にぐっと手を押し付ければ。
すぐに、光がほとばしり、色も赤青黄、緑橙紫、と三色ずつ帯を巻いてるように見えたが。
その後に、数字らしきバナーが浮き上がってカウントをし始めたんだけど。
(あれ? すぐに表示されない……?)
それどころか、強くスロットしているし、色の混ざり具合も激しくなっているような?
流石に、フィーガスさんもおかしいと思って覗き込むと。
「! 嬢ちゃん、離れろ!」
「へ?」
「どーしたのよ、フィー?」
「壊れる! くっそ!」
どうやら壊れるらしい、その測定器をかなり高くまで放り上げて。
私の腕を引っ張って引き寄せてから、無詠唱で結界を張ると。
パッリーン!
ほぼ同時に、ガラスが破裂した時のような爆音が辺りに響き渡った。
本当に壊れてしまった測定器は、光を残す以外粉々になってしまい。
ゆっくりと降りてきた光には『∞』と表示されてるだけだった。
「ちょっと、割れるって史上初じゃないの!?」
悠花さん達の方も、結界を張ってたようなので怪我はないみたい。
完全に球体だったものの破片が落ちてからお二人が結界を解くと、フィーガスさんは大きくため息を吐いた。
「セルディアスどころか、他国でもねーはずだ。まったく、とんだ金の卵が隠されてたってわけか?」
「え、え?」
「つまり、嬢ちゃんはマックスどころか世界中のどこにもいねぇ『魔力無限大』の保持者っつーことだ」
「
『ご主人様はしゅごいんでふ!』
「え、ええええ!」
ただでさえ、他にもチート
魔力だけでも無限大?
だから、生活魔法を使った時、一部はコントロール不能に?
ありえないありえないと思っても、現実は無視出来ず。
「こりゃ、自衛も兼ねてだが本格的に仕込んだ方がいいなぁ?」
「あんたクラスにすればいいんじゃなぁいの?」
「うっし。おっもしれぇ! 嬢ちゃん、生活魔法はやめだ。初級の攻撃と防御魔法やんぞ!」
「わ、私使った事ないです!」
定番中の定番、炎系統ですらひょろひょろだったのに出来るわけがない。
けど、お二人はいいからいいからと言うだけで。フィーガスさんは裏庭の半分を占めるくらい巨大な結界を張ってしまった。
「魔法っつーのは、簡単にいやイメージとイメージの組み合わせだ。
「や、やってみろ……と?」
「失敗は当然だ。修行しまくれば、仕上げはどうとでもなんだよ」
だから、打ってみろと言わんばかりに手招きされるので。
挑発ではないと思うけど、ここはもうやるしかないか。
初歩中の初歩だって言うし、魔力量を調整?すれば怪我はしないはず。
だから、ここで思い出したくはなかったが元パーティーにいた魔法師の女の子、シミットの構えを真似てみて。
矢を放つけれど、ピストルのような構えをして指の先端に炎の魔力をイメージする。
(……少し、熱くなってきた)
そのイメージを大事にして目を開ければ……。
思った以上の炎の塊が出来上がっていた!
「あ、熱くないけど! こ、こここ、これどうすれば!」
「…………あー……チートよねん」
「おっ前と似てんな? とりあえず、消えろとイメージすりゃ消える」
『だいじょぶでふよ、ご主人様ぁ!』
「え、えええ、えと、消えろ!」
大きく叫んだと同時に、なんとか炎は消えてくれて。
フィーガスさんは結界を解きはしなかったが、こっちにやってきた。
「こりゃ、コントロールからの問題か。おっ前の時だと誰がやったっけ?」
「うちの親父もだけど、あんたの爺様じゃない」
「ああ。んじゃ、嬢ちゃんとは面識もあるし。聞いてみっか?」
「お、お爺様……?」
お会いしてもいないのに?と思ってたら、いつのまにか面識があるらしく。
誰……と口にする前に、フィーガスさんが苦笑いされた。
「今日会っただろ? あんたと話した爺さんが俺の爺様だ」
「え……カイザーク、さんが?」
「あれでも、腕っぷしの強ぇえ魔法剣士だぜ?」
「ふぇえ!」
『ふぉおおお!』
雰囲気もお顔もほとんど似ていないけど。
知ってる人に見ていただけるなんて、ありがたいかも。
「けど、お仕事は……?」
「国どころか世界を揺るがすかもしんねー魔力保持者が目と鼻の先にいんだぞ? 上司に断ってでも来るさ」
ちなみに、お話の時にフィーガスさんを様付けしたのは、一応公式の場だったからだそうで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます