45-2.魔力のケッセン
「けど、系統別によっちゃ変わるかもしんねーな? とりあえず、他の四大元素も全部矢で撃ってみろ」
「は、はい!」
それもそうなので、他の系統……水、土、風を披露してはみたんだけど。
「……………………全部、矢にならない」
なるどころか、全部炎と同じく塊が出来るだけで。
前に比べたら大きな進歩でも、技が出来なきゃ意味がない。
「こりゃ、イメージ……シミュレーションは悪くねぇが、なんか魔力の脈に欠陥があんのかもしんねぇな?」
「ま……魔力の、脈?」
『でっふぅ?』
「ああ。魔力も体の一部。ほぼずっと血のように巡ってはいるが、個人の体質によっちゃ欠陥……っつーか、栓のようなもんが出来て流れにくくなってんだ」
「ちなみに〜、その見解を教えたのはあたしよん。と言うのも、カイザーの爺様に血栓っぽいわねって昔教えたら理解されてね?」
「つまり、嬢ちゃんの場合はひとつどころか……複数詰まってる可能性が高い。俺が診てもわかりにくいから、ここは爺様もいいがレクターに診てもらえ」
「……先生、にですか?」
「曲がりなりにも、あいつは魔法医者だしな?」
『でっふぅ』
と言うわけで、魔法講義はひとまず中断して。
フィーガスさんは他も調べておくと、とりあえず次の講義を四日後に決めてから帰られて。
私は、
「……なるほど。マックスも昔なってた『ケッセン』の状態かもしれないんだ? チャロナちゃんの怪我の具合を診た時は調べてなかったから、そこは盲点だったね?」
診察室に到着してから、先生はマックスさんもいたので看護士さんらしい男性に下がるようお願いして。
ロティの
「そこで、フィーが爺様もだけどあんたにも診てもらったらって言ったのよん」
「そうだね。久々に診るけど……チャロナちゃんそこの診察台の上に横になってもらえるかな?」
「はい」
服の上からでも診断は大丈夫らしいので、ちょっと安心してから靴を脱いで横になった。
ロティは悠花さんに抱っこしてもらって。
先生は、専用の器具を使うわけでもなく、枕元に椅子を置いてから座って私の頭とお腹の上辺りに手をかざして。
詠唱するのも特になく、以前の治癒魔法のように手に緑の光を纏わせるだけだった。
それから宙に浮かせたまま、あちこちを触診するように動かしていく。
「───────…………うん。ふんふんふん。……うーん、あるね。脈の方に数カ所」
「どこら辺?」
「頭に一箇所、肩に二箇所。後両脚の足首に一箇所ずつ」
「……結構多いわね」
どうやら、悠花さんの時よりも多いみたい。
『でっふぅ。ご主人様、大丈夫でふかぁ?』
「うん、大丈夫。マックスとカイザーク卿のお陰で、特効薬もあるんだよ。えーと……この間、すりつぶしておいたのがちょうどあるから」
そう言いながら先生が用意してくださったのは、ラベンダーに似た甘い香りの薬草茶。
起き上がってそれを受け取ると、カップに入っていたそれは香りとよく似たラベンダー色の液体だった。
「いい香り……」
「ハックベンダーって言う、魔法薬の一種を使った薬草茶だよ。甘みが強いから、お湯で溶かすだけでも美味しいから」
「いただきます」
甘いのなら飲みやすそう、と意気込んでカップを口に近づける。
ふんわり香ってた匂いも相まって、とっても甘い。
本当に、蜂蜜とかアガベシロップ並みに甘くって。
温めに淹れてくださったそれを、一気に飲み干してしまうほど美味しくて。
「さあて。普通なら、即効性が高いけど」
私の場合はイレギュラーが多いからわからない事もある。
もう一度横になって、先生に調べていただくと……先生からは安心したようなため息が聞こえてきた。
「問題なし! 測定器の方は変わんないだろうけど、コントロールの方は慣らしていけば大丈夫だと思うよ?」
「さっすがは、ハックベンダーの草ねぇ?」
「チャロナちゃんが来る前に、君が採ってきてくれてたからすぐに対処出来たけど」
『良かったでふぅう、ご主人様ぁあ!』
なんともなくなったと言われても実感はわいてこないけれども。
これで魔法がちゃんと使えるようになったのなら、本当にありがたい事だ。
生活魔法はともかく、あのパーティーにいた頃は自衛も何も出来なかったお荷物さんだったから。
飛びついてたロティをよしよししながら、私はある事をしたくてたまらない気持ちになった。
「先生、すぐに魔法って試せます?」
「そうだね。初歩から順に行けば、大概の魔法は出来ると思うよ? ケッセンが出来る人間って、大雑把に言うと魔力が桁違いに多いとされてるから」
「まだセルディアスと他の友好国しか知らないと思うけど、魔力のコントロールが利かずに苦しんでる連中が多いわ。あんたはちょっと特例だけど、今のところどーしてか肩凝りに効くとされてるハックベンダーの薬草茶が一番とされてるのよ」
「か、肩凝り?」
それが魔力の脈に効くって言うのも不思議だ。
けど、他にも実例があるのなら安心出来る。
悠花さんも、色々方法を試した上でハックベンダーに行き着いたらしいから、いわゆる最初の実験体さんだったようだ。
「気持ち多めに煎じたから、もう大丈夫だよ。このケッセンに一度でもハックベンダーを与えれば再発はほとんどないからね」
「あたしも今んとこないわん」
なのでなので。
ロティと悠花さんと一緒に裏庭に戻り。
もう一度、魔法の矢を試すべく構えてみた。
ただし、威力は出来るだけ抑えて。
ロティの
さあ、準備も出来たので始めようとしたら、結界の外から誰かにノックされた。
「あら、カイル」
「え、カイル様?」
外を見れば、たしかにラフな格好と手に剣を持ったカイルキア様がいらっしゃって。
こっちが気になったのか、口パクで『入れてくれ』と判別出来たので、ロティにお願いして中に入れてあげた。
「フィーガスに聞いたが、魔力のケッセンがあると」
「それはもう大丈夫だぜ? 俺がちょっと前に採ってきたハックベンダーの煎じ薬で綺麗さっぱりだ。今、ほんとに治ったか練習してんだよ」
「そうか。何を試すんだ?」
「四大元素の属性で、矢だな?」
「妥当だな?」
そうはおっしゃいますけれども。
好きな人の前で、はいどーですか?と撃てるわけがない!
まだ魔法にすらなっていないのに!
けど、カイルキア様は興味津々でこっちを見てくるだけ。これはもう諦めるしかないかも。
(…………構えて。指先から矢を放つイメージ)
この力は炎。
全てを焼き尽くさず、ある一点を喰らう炎。
その狙いを、えぐられた地面の一箇所に集中して。
まずは指先に炎の矢をイメージ!
『出来てるでふぅ、ご主人様ぁ!』
「え」
目を開ける前にロティの声が聞こえてきたのですぐに開ければ。
本当に、本当に私の腕くらいの太さと長さの炎の矢が出来ていた。
「いいぞ、チーちゃん! そのままぶっ放せ!」
「う、うん!」
引き金もないけど、ここは詠唱でも言うべき?
技名だけでも大丈夫?
けど、なんか叫ばないと前に飛び出ない気がしたので、とりあえず技名で行こう。
「ふ…………
ぼおおおおおおおおおおお!
叫んだと同時に炎の勢いが増し。
私の指先から尾が離れて、そのまま全速前進。
そして、終着点にと予想してたえぐれた地面にぶつかると。
何故か火柱が上がって、しばらく落ち着きませんでした。
「……………………あれ?」
魔力も、極力抑えたのにこれってどゆこと??
「…………ケッセンが外れたことで、外で暴れたいんだろうな」
と、カイルキア様が言うと、そのまま火柱の近くまで寄って、手前で指を軽く慣らしたら。
あら不思議? 火は消えて氷の大きな柱が出来上がりましたとさ。
「魔法に関しては、フィーガスが鍛えれば問題はない。が、これほどの魔力量となれば……狙われる可能性がパン以外でも出てくるだろう」
「のために、俺もいるんだろ?」
「ああ」
たしかに、パンの錬金術もだけど。魔力チートとかの能力まで保持してたら、狙われる可能性が高いだけで済まない。
これは、一人でお出かけとかも出来ない感じかも。
今のところ、その予定はないけど。
「……ところで、夕飯の支度にチャロナが加わらなくてもいいのか?」
「あ、今日の特別メニュー以外はいつもどおりなので大丈夫です!」
「「特別メニュー??」」
「悠花さんならわかるかな? オニオングラタンスープ! あれの、もっと簡単なのだけど」
「ひゃっほ〜〜! テンション上がるわぁああ!」
カイルキア様には楽しみにしててくださいとお伝えして。
私とロティ、あと悠花さんの影から出てきたレイ君も一緒に着替えてから厨房に向かうのだった。
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