44-4.隠された真実③(カイザーク視点)






 *・*・*(カイザーク視点)









 途中で幾度か馬を変えては、ホムラまでただただ突き進み。


 まだ赤児であらせられた姫様を休ませながらも、ただ一直線にマザー・リリアンのいる孤児院を目指して。


 わずか、5日程度で到着した時には私の体力もかなり消耗していたが。


 どうにか踏ん張って、リリアンと面会するまでにはこぎつけられた。



「まあまあ、どうされたんです。カイザーク殿? そのお子は……?」


「……リリアン、姫様です」


「姫……?……………………何故? まだ御生まれになられたばかりと聞いていますわ。ですのに、何故貴方がお連れに……?」


「…………今から言う事を、他言無用で頼みます。リリアン」


「え、ええ……」



 この女性に預けよと、アクシア様はおっしゃっていた。


 ならば、我が国で起きた悲劇も、聞いてもらわねばならない。


 だが、せめて姫様を休ませねば、と。彼女に赤児用の寝床を用意してもらい、姫様を寝かしつけてから語る事にした。



「…………どう言う手段かまでは、まだ分かっていませんが。ソーウェン帝国の者どもにより、王宮に襲撃を受けました」


「そ、ソーウェンが城に……!?」


「ええ。増援は幸いなかったので1日程度で落ち着きはしましたが。ですが…………アクシア王妃様はお亡くなりに」


「お……お嬢様…………が?」



 リリアンが驚きを隠せないのも無理はない。


 彼女は、元は小貴族の娘だったが、アクシア様の乳母でもあったからだ。


 すぐに大粒の涙を零され……少しの間静かに泣かれたが、涙を拭き終わると凛とした面持ちで話の続きを聞く姿勢になられた。



「…………私が駆けつけても間に合いませんでした。ですが、王家に伝わる特殊固有技能スキルの【最期の愛エンド・ラブ】が発動し……何故か、この爺めの前にお姿を現したのです」


「それで、姫様を亡命させて私のところへ……?」


「ええ。なにやら、死の間際に最高神からのお告げを受けられたと。あなたに預け、姫には護符のために洗礼名の『チャロナ』を名乗らせよと」


「神からの、お告げ……? それを知る者は、貴方以外は?」


「まだあなただけです。アクシア様の遺言を一刻も早く成し遂げようと、寝ずの状態でここまで来ました」


「まあ……」



 正直、流石に老体の身もあってすぐにでも瞼が閉じてしまいそうだったが。


 告げる事をすべて告げても、私はセルディアスに戻らねばならない。


 部下には、単身で情報を集めに行くと嘘をついたが。陛下にはなにも告げていないからだ。



「ふ、ふぎゃぁ」



 あとを頼む、と告げる前に姫様がどうやら起きてしまわれたようだ。


 だが、すぐにリリアンが立ち上がって姫様のお側に近づき、軽くお腹をさすってあげるとまた眠られたらしい。


 可愛らしい寝息が、すぐに聞こえてきたからだ。



「まだ乳飲み子であらせられるのに。お母君と引き離されてお寂しいでしょう。ですが、お嬢様に任せられたからには……お迎えが上がるまで精一杯お育て致します」


「お願いします。この戦争が落ち着いた頃には、きっと」


「はい」



 けれど、結局迎えに行くことは叶わず。


 私の影である部下数名には、真実を告げて時折姫様の成長を見守ってはもらったが。


 いつ告げようか、と言えない私は歳を重ねるごとに臆病になってしまったらしく。


 しまいには、カイルキア様や孫のフィーガスなどで冒険者を装った捜索隊を組む次第になり。


 結成後に言えばよかったが、私はもうどうすればいいのかわからないでいた。


 まだ、リリアンの孤児院にいるらしい姫様をお迎えに上がればいいだけの事を。


 あの方の現状が穏やかである事を知れば知るほど、お迎えに上がることが幸せなのかわからなかったのだ。


 数年は経っていても、まだ戦争の爪痕が色濃く残ったこの国にお連れして。


 本当のご家族の元に戻られても、もうお母君はいらっしゃらないから。



「…………ですから、せめて。せめて、私め自身から打ち明けようと。姫様が冒険者になられてからずっと機会を伺っていました」


「…………マンシェリーが冒険者になったのは、カイルキアからの報告では二年前だったらしいが」



 リリアンとの話を終えてから、すぐに口を開けられたのは陛下で。


 当然の疑問を口にされたので、これにも素直に答えることにした。



「全てを、把握していたわけではございませぬ。部下も交代でつかせていましたが、時折出向く程度で。姫様が在籍していたパーティーのリーダーと接触したのは私めにございますが」


「ちょっと。じゃあ、姫様が……チーちゃんが脱退させられた本当の理由って」


「ええ。私めのせいです。けれど、直後の事故については私にも予想外でした。なので、異能ギフトについてはなにも知りませんでした」



 姫様とはほぼ親友の間柄でいらっしゃるマックス様の疑問にも素直に答えた。



「…………なら、すべてを咎めるわけにはいかないな。俺達に真実を隠してた事については、なんらかの処罰を下すが。それでも、俺の娘に尽くしてくれた事は変わりない。…………今まで、よくやってくれた」


「…………はっ」



 本来ならば、あの時に覚悟していたように死罪を告げられてもおかしくはないのに。


 国の王としてでなく、姫様の父親として対応してくださるとは。


 本当に、親となられてからこの方は変わられた。



「…………爺や、ちょっといーい?」



 次に口を開かれたのは殿下であったが。


 私が少し顔を上げると、不思議そうな表情でいらっしゃった。



「……何なりと」


「じゃあ、聞くけど。元ホムラの皇子だったシュィリンって青年。彼を孤児院に派遣させたのは?」



 そう言えば、最近の部下らの報告から再会なさったとの事もあったが。


 たしか、その日に殿下とマックス様に告げられたとも。



「……あの方でございますか。リリアンから、亡命されたと聞きまして」


「俺の勝手な想像だけど、里帰りついでに同じ境遇の者同士仲良くなれればって?」


「……ほぼ、その通りでございます。短い期間とは言え、貴方様ではありませんが、兄代わりの方がいらっしゃればと」



 リリアンから時折送られた報告書には。


 どうも年上の子供達でも男の子にはあまり馴染めないようだと知り。


 ならば、見た目だけ女の子に見紛う彼ならば。少しは違うのではと頼みに行った次第で。


 いつかお会いする兄上のシュライゼン様に、少し距離を置かれては殿下ご自身が悲しまれるだろうと思っての事だが。


 その事についても隠さず申し上げれば、殿下はなるほどと頷かれた。



「けど、今の姫様チーちゃんは性格がまるっと変わったわけじゃないけど。年上の男に怯えるような子じゃないものね?」


「むしろ、シュラ様もだが俺にもきちんと自分の意見を言われるしなぁ?」



 フィーガスとマックス様が言うように。


 姫様の内面の性格は、異能ギフトが開花されてからいくらか変わられたようだった。


 他人に臆病な態度を見せるどころか堂々とされていて。


 件の、本日の授賞式を開くきっかけとなったリュシアの街での出来事でも、亡きアクシア様の生き写しの如く対応なされたとか。


 王家の血も、ほぼ同時に目覚められたらしいが、ここ数日はなりを潜めてらっしゃるようだ。



「ぶーぶー。お兄ちゃんと言われないのは仕方ないけど、爺やが抱えてたのはこれで全部?」


「…………はい。姫様に関わる事はすべて。誠に、申し訳ありませんでした」


「神からの……はまだ解明はしていないが。アクシアがとった判断は賢明だ。俺ではあの時出来なかったし、あれの剣の師であったお前にしか無理だったのだろう。その後のマンシェリーの成長を見守ってもくれてたんだ。が、それは最低カイルキア達を向かわせる前に言ってくれ。こいつら必死こいて探してくれてたんだぞ?」


「…………はい」



 臆病風に吹かれ過ぎていたとは言え、そこの判断は見誤っていたのだ。


 もう一度ドゲザをしてから、私は顔を上げれば。目に入った皆様のお顔は、揃って苦笑いでいらっしゃった。



「本当なら、色々言いたいところだが……貴方がそう判断なされたのなら、俺はなにも言わない。姫は、今この国に戻って来られたのだから」



 代表してカイルキア様がそうおっしゃると、陛下も含め皆様が揃って頷かれた。



「…………もったいなき、お言葉……です」



 ああ、アクシア様。


 この爺め以外にも真実を抱えていた人間は少なからず居ても。


 ずっと、重かった肩の荷が、少しずつおりていく気がします……。



「それと爺や。俺と父上で決めたんだが」



 涙が出る直前に、隣にいらっしゃった殿下が屈まれて私の顔を覗き込んできました。



「マンシェリーの、本当の・・・誕生日に。俺達から打ち明けたいんだぞ」


「姫……様の?」


「まだ二カ月以上あるし、成人の儀も改めてやってあげたいんだぞ。それは、ダメかい?」


「……………………いいえ。爺も賛成です」



 時期を迎えるのもそう遠くないと思っていたが。


 その日であれば、きっと大丈夫でしょう。


 ここにいらっしゃる全員がなにも言わないでいますから。



「あの……あと一つ気になったんですが」



 と、ここでカイルキア様の乳兄弟でいらっしゃるレクターが手を上げてきた。



「私めに?」


「はい。神のお告げと、姫の名前です。ひょっとして、昨日急に来た不思議な青年が関係してるんじゃないかと」


「あ、フィルドね!」


「何の事だぁ?」



 フィーガスは何も知らなかったようだが。


 そこからは、私も詳しくは知らない姫様のお名前についてと、例の神かもしれないフィルドと言う青年の話となり。


 結論は、再び訪れるような事があれば、マックス様がメインで聞き出す形になったのだった。



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